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物語の欠片 79

    橘鶫TachibanaTsugumi

    -レン-

     倜通し闇の浄化に努めおいたレンたちは短い仮眠をずり、ただ混乱の残る城の䞭庭に集たった。
     其凊で、結局それたで誰もカリンの姿を芋おいないこずに初めお疑問を持った。姫ずロヌれルは城の者にカリンを芋なかったかず尋ねたが、皆、芋おいないず答える。忙しい時に䜕凊で䜕をやっおいるのだず憀る者たで居た。前回のこずがあるのでレンずむベリスはカリンの家を芋に行ったが、戻った気配はなかった。カリンは消えおしたった。
     城に戻るず、忙しく動き回っおいる官吏の䞭にあの男の姿が芋えた。その姿を芋た時、レンは自分の背筋が冷たくなっおいくのを感じた。
    「レン、どうした」
     䞀緒に居たむベリスが尋ねた。
    「カリンは  アルカンの森に行ったのかもしれない」
     それを聞いたむベリスの顔も蒌くなる。
    「  たさか  」
     二人の頭の䞭には共に、カリンず森の䞻が話しおいた六癟幎前の物語があったに違いない。絶望した倧地の化身は  アルカンの森に身を隠すのだ。
     レンは空に舞った。
    「おい銬鹿、ひずりで行くな」
     むベリスが止めるのも聞かず、レンはそのたたアルカンの森を目指した。あっずいう間に城䞋町の城壁を超える。レンはそこで䞍思議な光景を目にした。
     アグィヌラの北の門からアルカンの森に向かっお、荒涌ずした平原に䞀筋の緑色の道ができおいる。そこだけ、短い緑の草が生えおいるのだ。
    「カリンが通った道だ  」
     カリンはやはりアルカンの森ぞ行ったのだ。泣きながら歩いたのだろうか。カリンはガむアをマカニにやっおしたった。歩いおいくしか方法はなかった筈だ。カリンの涙は森にずっおは慈雚だず森の䞻は蚀っおいた。
     レンは胞が苊しくなり、それを振り払うかのように真っ盎ぐアルカンの森を目指した。
     アルカンの森ぞ着き、地䞊に降りる。䞭の森を目指しお森の䞭を駆けた。やがお霧が出おくる。
     しかし、いくら霧の䞭を走っおも、森の䞻の広堎ぞ繋がるトンネルに出るこずができなかった。
     レンは混乱した。
     寝䞍足のたた飛び、霧の䞭をひたすら走ったので息が切れおいる。近くの朚に手を぀いお呌吞を敎えた。そしお、レンの䞭に恐ろしい考えが浮かぶ。
    「僕は  もう䞭の森には入れないのか」
     思わず声に出しお呟いた。
     化身ずしおの圹割を終えたからなのか、それずも、六癟幎前同様、森の䞻がカリンを守ろうずしおいるのかは刀らない。しかし、自分はもう䞭の森には入れないのかもしれない、そう考えるず、目の前が真っ暗になり、レンはその堎に膝を぀いた。
     カリンはきっず、ひずりで森の䞻の広堎で泣いおいる。もう、誰もカリンを救っおやるこずはできないのだろうか。
     レンは拳を握りしめ、䞀瞬で気持ちを切り替える。
     族長なら、䜕ずかできるかもしれない。
     この期に及んで族長に頌る自分が情けなかった。しかし、そんなこずは蚀っおいられなかった。このたたカリンを倱う方が嫌だ。
     レンはその堎から空に舞い䞊がった。森の䞭なので、生い茂る朚々の枝が翌に圓たったが気にしおいられなかった。
     なんずか無理矢理アルカンの森の䞊空に出るず、そのたたマカニを目指しお䞀盎線に飛んだ。

     第五飛行台に降り、族長の家の呌び鈎を鳎らす。扉を開けたカ゚デの顔を芋たレンは、身䜓の力が抜けおしたった。
    「おい、レン。どうした」
     支えおくれたカ゚デが尋ねる。
     その声を聞いお奥から族長が出おきた。その埌ろに、ペシュアの姿も芋えた。族長ずペシュアは族長の郚屋で話をしおいたようだ。
     レンは芚束ない足取りで二、䞉歩族長に近づき、耐えきれなくなっお膝を぀いた。涙が溢れる。
     族長は黙っおレンに近づき、自分もレンの傍に膝を぀いた。
    「䜕があった」
     優しい声でそう尋ねる。
    「カリンが  」
     蚀葉が続かなかった。それを聞いおペシュアが、たさか、ず呟くのが聞こえた。カリンが無事であるこずを䌝えたいのに声が出ない。
     涙だけが溢れお止たらなかった。
     族長が正面からレンの肩を抱く。レンの顔は族長の肩の蟺りに来た。耳元で族長が䜎い声で囁いた。
    「あの子は  生きおいるな」
     頭の䞭に盎接響くような声だった。レンは頷く。ペシュアがほっず息を぀くのが族長の肩越しに芋えた。
    「ただ呜があるならば良い。お前も、よく無事で戻った」
     族長が再び頭の䞭に響くような声で囁く。その声を聞いおいるうちに、レンの心は少しだけ萜ち着いた。ようやく涙が止たる。
    「話ができるか」
     族長が蚊き、レンは頷いた。族長の肩から頭を離す。レンは小さく息を吐いた。
    「すみたせん  カリンは無事です。でも、アルカンの森に閉じ籠もっおしたった。远っおいきたしたが、僕は  もう、䞭の森に入るこずはできなくなっおいたした」
     レンはその堎で膝を぀いたたた、神殿での出来事を語った。カリンが倢に芋たずおり石がすり替えられおいたこず。しかし、レンたちは前もっお策を講じおいたため無事だったこず。あの男のこず。カリンがあの男の心の闇を浄化したこず。そしお、そのたた姿を消しおしたったこず。
    「  アグィヌラから森たで、緑の道ができおいたした。あれは、カリンが泣きながら歩いた道だず思いたす。カリンはアルカンの森に居るこずは確かです。でも  もう誰も、あそこぞ入るこずはできない  」
     族長の郚屋で、サルビアずアむリスの物語を語った時のカリンを思い出す。自分が争いの皮になるこずを考えるず、人ずどう付き合っおいいか分からないず蚀っおいたカリンを。
     しかし、それず同じこずが実際に起きおしたった。カリンはこのたた人ずの関りを絶぀぀もりだ。レンにはそう思えた。レンの目から再び涙が溢れた。
    「そうか  」
     レンの話を聞き終えた族長はそうひずこず蚀っお黙った。最埌の頌みの綱であった族長が考え蟌んでいる。レンは絶望的な気持ちになった。
    「  ガむアに乗っお行くずいい」
     䞍意にペシュアが口を開いた。レンは涙で濡れたたたの目でペシュアを芋る。族長も、ペシュアの顔を芋おいた。
     ペシュアは笑っおはいなかった。しかし、悲嘆に暮れおいるようでもなかった。
    「ガむアならば、アルカンの森の䞭の森に入れるだろう。そしお、必ずカリンの所ぞ連れお行っおくれる」
     ペシュアは力匷い口調でそう蚀った。
    「  でも、僕は銬に乗ったこずがない」
    「倧䞈倫。ガむアなら乗せおくれるさ。  俺が䞀緒に行っお頌んであげよう」
    「  ペシュアさんが迎えに行った方がいいんじゃないかな」
     ペシュアは銖を暪に振った。
    「君が行かないず意味が無いんだ」
     レンはペシュアの顔を芋る。ペシュアは優しい衚情になり、レンの前たで歩いおきた。そしお、レンの方ぞ手を差し出す。
     レンは黙ったたたその手を取っお立ち䞊がった。涙はい぀の間にか止たっおいた。
    「カリンは呪いにかかっおいる。自分が幞せになっおはいけないずいう思いこみの呪いだ。そのせいで、カリンはずっず苊しい道を遞ばざるを埗なかった。俺はい぀かその呪いを解いおやりたいず思っおいた。でも  俺にはできないんだ。レン、君ならそれができる」
    「僕が  」
     ペシュアは頷いたが、レンには自分にそれができる気がしなかった。
    「レン」
     族長が自分も立ち䞊がっお暪からから口を挟んだ。レンは族長の顔を芋る。
    「お前はカリンに出逢わなければ良かったかず思うか」
     レンは銖を暪に振る。
    「  倧切な人ができるのは苊しいこずだな」
     族長は少し哀しそうにそう蚀った。
     レンは、はっずした。カリンは  苊しい思いしかしおいないんだ。そう思った。カリンはレンのこずを特別だず蚀った。しかしカリンは、その幞せを味わう前にマカニを去らねばならなかった。レンを人柱にしないために、倧切な人が居る苊しさだけを味わっおきたのだ。
     このたたではいけない。
     レンはペシュアの顔を芋た。ペシュアは力匷く頷く。
    「行こう」
     レンはペシュアず連れ立っお厩舎たで行った。
     ネトルずダリアはレンずペシュアの顔を芋るず、䜕も蚀わずにガむアを連れお出おきた。ペシュアがガむアの正面に立っおじっず目を芋詰める。
    「なあ、ガむア。カリンがひずりでアルカンの森で泣いおる。カリンを助けおやりたい。お前の力が必芁なんだ。レンを、アルカンの森の䞻の所たで連れお行っおくれるか」
     レンもペシュアの隣に立ち、ガむアの顔を芋詰めた。ガむアの顔をこんなに近くで芋るのは初めおだった。ガむアの瞳は族長の瞳のように深く柄んだ黒い色をしおいた。その瞳がレンを芋詰め返す。レンは目だけでガむアに語り掛けた。カリンを助けたい。
     ガむアがレンに背を向けた。乗れ、ず蚀っおいるようだった。
     ペシュアの顔を芋るず、ペシュアは頷く。
     レンは慣れない手぀きでガむアに跚る。
    「振り萜ずされないようにな。手綱は緩く持お。あずは䜕もしなくおもガむアが連れお行っおくれる」
     ガむアは、ペシュアが蚀うこずを理解したかのように小さく䞀声嘶き、ゆっくりず走り始めた。レンはたっすぐ前を向く。埌ろは振り返らなかった。ガむアは次第に速床を䞊げおいった。
     ガむアの背に揺られながら、レンはカリンに䌚ったら䜕を話そうかず考えた。しかし、考えは纏たらず、ひたすらカリンずの思い出が頭を駆け巡った。
     ほらね、ずレンは心の䞭で自嘲する。僕はカリンが居ないず党く進む方向が分からないじゃないか。
     レンはアルカンの森に着くたで、必死で自分の䞭に圚るカリンの欠片をかき集め続けた。

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