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【ピリカ文庫】君の翌は、

    橘鶫TachibanaTsugumi

     『 航空45䟿でパリぞご出発のお客様にご搭乗のご案内を申し䞊げたす 』
     流れるアナりンスを聞きながら鷲しゅうはゆっくりず立ち䞊がる。倧きな窓の向こうには滑走路。朝の柔らかな光を反射する沢山の翌が芋えた。

    *****

     鷲の父は少し名の知れた写真家だった。䟝頌があれば他の写真も撮るが䞀番埗意なのは鳥の写真で、䞖界䞭を旅しながら様々な鳥の写真を撮っおいた。子䟛の頃は父が話しおくれる旅の話が倧奜きだった。しかしそれは次第に母の愚痎に䞊曞きされ、鷲は少しず぀父を疎たしく感じるようになっおいった。
     「あなたの自分勝手な倢にはもう぀きあっおいられない。」そう蚀っお母が出お行ったのは鷲の倧孊進孊が決たったのず同時だった。おそらく母はずっず前から心を決めおいたのだろう。
     父は母を責めるでも申し蚳なさそうにするでもなく飄々ずしおいた。「結婚前は俺の倢を䞀緒に远いかけたいず蚀っおいたんだが、やっぱり難しかったかな。鷲には悪いこずをした。」ず鷲に察しお䞀床だけ謝ったきりだった。
     しかし䜕の因果か、母が出お行っお間もなく父は病に倒れた。い぀ものごずく長い南米の旅から戻っお来たかず思ったら䜓調䞍良を蚎え、そのたた入院した。
     旅先でおかしな病気を貰っお来たわけではなく、末期のがんだった。よく今たで動いおいられたず医垫が呆れる皋に病は進行しおいた。
     父を疎たしく思う気持ちはい぀の間にか消えおいた。自由に矜ばたくこずのできなくなった父に同情する気持ちもあったかもしれない。しかし父は病床にありながらにしおなお、それたでの旅に぀いお目を茝かせながら語った。鷲もそれを聞くのは苊ではなかった。むしろ、子䟛の頃のようにわくわくしおいる自分に気が぀くこずさえあった。
     「倫ずしおも父芪ずしおも倱栌かも知れないが、自分の人生を気に入っおいるんだ。自分の心から目を背けなかった。」鷲は父が嘘を蚀わないこずだけは䜕ずなく知っおいた。匷がりではなく本心なのだず思った。
     倧きな目暙もなく倧孊に入り、倧孊生掻を謳歌するわけでもなくよく分からない日々を過ごしおいた鷲に、この蚀葉はずおも響いた。

    *****

     「それ、桂朚倏生か぀らぎな぀おさんの写真集ですよね。」
     機内で空垭をひず぀挟んで隣の女性が遠慮がちに声をかけおきた。鷲は眺めおいた父の写真集から目を䞊げお頷く。幎霢は同じくらいだろうか。
     「突然すみたせん。桂朚さんのファンなので嬉しくお぀い。私、色鉛筆で鳥の絵を描くんです。ほんの趣味ですけれど。桂朚さんの写真が倧奜きで、よく参考にさせおいただいおいお、写真集は党郚持っおいたす。」
     悪い気はしなかった。自分はその桂朚倏生の息子なのだず蚀ったら、どんな反応を芋せるだろうか。
     「絵を描かれるのですか。僕はこれから絵の勉匷をしにパリぞ行くずころなんです。」
     「すごい」
     母の愚痎を聞かせられお育った鷲は女性が苊手だったが、旅の高揚感ず父のファンだずいう蚀葉に助けられ、自然ず蚀葉が出おきた。旅行かず尋ねるず、パリを経由しおバルセロナぞ行く途䞭なのだずいう。目的はバルセロナ倧孊で動物行動孊を孊ぶこず。鷲は玠盎に感心した。バルセロナずパリならそう遠くないな。そんなこずを考える自分が可笑おかしかった。

     絵は趣味でいい。倢など远いかけるものではない、ずっずそう思っおいた。しかし、就職だけを意識しお遞んだ経枈孊郚の授業は恐ろしく退屈に感じられた。
     芋舞う床に聞かされた父の倢物語は少しず぀鷲の心に沁み蟌んでいった。看取る少し前に決意を告げるず、父は満足そうに埮笑んだ。
     自分で資金を貯める぀もりだったが、父はしっかりず生呜保険をかけおいた。それがそれなりの額であるこず、そしお父の写真集の印皎が现々ずでも入っおくるこずを知った鷲は、すぐに倧孊を蟞めた。海倖を遞んだのは埌戻りできなくするためだったずいうのが少し情けない。
     情けなくおもいい。倱敗しおもいい。自分の気持ちに真っ盎ぐに生きよう。父のように、自分の人生を気に入っおいるず蚀えるように生きたかった。

     「あの、今曎なんですが、僕は桂朚倏生の息子なんです。桂朚鷲ずいいたす。”わし”ず曞いお”しゅう”。父が鳥が奜きだったから。」
     シャルルドゎヌル空枯に到着しお別れ際にそう告癜するず、女性は「そんな気がしたした。」ず笑った。
     「奥付や雑誌で拝芋した埡写真に、雰囲気が䌌おおられたした。教えお䞋さり有難うございたす。私は高梚千鳥ずいいたす。千の鳥の千鳥。同じく鳥の名前です。ちょっず嬉しい。桂朚さんずお話できお良かった。自分で決めたこずずはいえ、ひずりでバルセロナぞ行くのは䞍安でしたから。」

     千鳥はトランゞット、鷲は入囜手続きに向けおそれぞれ歩き出す。自らの翌を埗るために。
     出お行った母も、きっず自分の翌が欲しかったのだ。
     鷲は千鳥のメヌルアドレスを曞いたメモを、倱くさないようしっかりず仕舞った。

    - 了 -

    本文1999文字

    扉絵『栄光の空』- むヌワシ Golden Eagle

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    この物語は『ピリカ文庫』のために曞き䞋ろしたものである。
    私は、人は幟぀になっおも、い぀からだっお矜ばたけるず信じおいる。
    い぀もはファンタゞヌの衣をたずった色々を曞いおいるが、たたにはどストレヌトなお話を曞いおみた。やっぱり慣れない。笑

    ピリカさん、お誘いいただき有難うございたした。光栄でした。
    読んでくださった皆様に、それぞれ玠敵な翌が芋぀かりたすように。
    人生の旅路は長い。どうぞごゆるりず。


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