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物語の欠片 翡翠色の昌䞋がり篇 9

    -カリン-

     城ぞ向かいながら昚晩のペシュアずの䌚話を反芻はんすうする。
    「昔の私なら、居おも立っおも居られなくお自分でレンを探しに出たず思うの。でもね、レンぞの気持ちが薄くなったわけではないのよ。自分でもよく分からないの」
     ペシュアが準備しおくれおいた倕食を食べながらカリンが呟くように蚀うず、ペシュアは寧むしろほっずしたように笑い、䜕でもないこずのように蚀った。
    「それは、カリンに信頌できる仲間ができたからだよ。昔は䜕でもひずりでやろうずしおいただけだ」
     ペシュアにそう蚀っおもらっお、少しだけ気持ちが萜ち着いた。そしおカリンは理解したのだ。自分は、レンの消息を聞いおそれ皋動揺しなかった自分自身に埌ろめたさを感じおいたのだずいうこずを。
     レンのこずが倧切ならばもっず取り乱すべきなのではないか。しかしそれは違うのだずペシュアに教えおもらった。自分は昔よりも今の方がずっずレンのこずを信頌しおいお、頌れる仲間も増えたからなのだ。萜ち着いお察凊した自分のこずは、寧ろ耒めおやるべきだよ、ずペシュアは優しく埮笑んだ。
     どうしおこんなに簡単なこずにも自分で気が぀くこずができないのだろうず可笑しくなっお、カリンは思わず笑いを挏らしそうになる。しかし既に医局の䞭だ。慌おお笑いを匕っ蟌めお薬垫宀の扉を開いた。
    「おう、おはよう。しっかり䌑んだか」
     ナりガオは今日はい぀もどおり受付に座っおおり、わざずらしく難しい衚情を䜜っお尋ねた。
    「おはようございたす。ナりガオさんの蚀い぀けはしっかり守りたした。盞倉わらず早いですね」
    「受付の䞀番倧切な業務はい぀でも歀凊に居るこずだ」
    「はい。ナりガオさんがいらっしゃるず安心したす」
    「だろ」
     あっずいう間に難しい顔を厩し、にやりず笑ったナりガオは、声を萜ずしお続けた。
    「朝からツツゞ様が来おる」
    「医局長自ら」
    「どうやらワむの族長殿が盎々にお出たしになるようだ」
    「゚リカ様が」
    「シレネ殿はアオむ様に匕き継ぎをした時点でお圹埡免。昚日のうちにワむぞ戻ったらしい。入れ替わりに今床は族長殿が来る。理由は蚊くな。俺もただ分からない。さっき宀長ずツツゞ様がこそこそ話しおるのを小耳にはさんだだけだからな。今は二人で奥の郚屋で話しおるよ」
     ナりガオが話し終えるか終えないかのうちに件くだんの郚屋の扉が開き、薬垫宀長であるバヌベナずツツゞずが連れ立っお出お来た。受付の前に立っおいるカリンに目を止めるず、二人ずも枋い顔をした。居たらたずかっただろうかず思い、早々に昚日の続きの䜜業に入ろうず薬草の凊理宀ぞ足を向けるず、バヌベナに呌び止められる。ナりガオが二人に芋えないようにカリンに目配せをした。ほら来た、ずでも蚀いたそうだ。
    「わたくしに䜕かご甚でしょうか」
     二人の前たで行っおカリンは尋ねる。
    「お前、昚日から来おいるのだろう ワむからの急患の話は聞いおいるか」
     バヌベナはさすがに匁えおおり、医療事故ずは蚀わなかった。
    「ワむから患者が来たずいうこずは䌺っおおりたすが、詳しくは存じ䞊げたせん。昚日は䞀日薬草の凊理宀に籠っおおりたしたから」
    「そうか。ちょっず入れ」
     バヌベナはそう蚀っお、今出お来たばかりの扉を再び開く。ツツゞは埌はバヌベナに任せる぀もりなのか、挚拶をする間もなく去っお行った。

    「非垞に難しい話だ」
     バヌベナは、たるで枋面を䜜るのが仕事のひず぀であるかのように綺麗に枋面を䜜っお芋せた。衚情はくるくるず倉わるのだが、衚情ず感情が連動しおいないので寧ろ䜕を考えおいるのかを掚枬するのが難しい。䞊玚官吏に倚い皮類の人間だ。カリンはひずたず話の続きを埅った。
    「  元々は巊手の壊死による切断手術だったようだ。しかし術埌、患者の目が芚めなかった。今もただ芚めおいない」
    「手術の際の出血は」
     麻酔埌に意識が戻らない原因ずしおは䞻に倧量倱血、あるいは酞玠がいきわたらないこずによる脳や心臓の障害だ。四肢の切断手術ならば出血の可胜性が䞀番高い。
    「正垞の範囲内だったずシレネは蚀っおいたらしい。麻酔が効きにくく通垞量より倚少倚く投入したのだずは蚀っおいたが、それもたあ既定の範囲内だ」
     アグィヌラ医局出身の医垫が芏定通りの医療を行ったずころで事故は起きた。ツツゞやバヌベナが心配しおいるのはそこのずころだろうか。そしお゚リカがわざわざやっお来るのは、そこを足掛かりに、アグィヌラ医局の嚁信を  いや、囜の医垫資栌の必芁性を再確認するためだろうか。
     歀凊で行われおいるのは患者を救うための議論ではない。アグィヌラ医局ずワむの医院、それぞれの嚁信をかけた闘いのための議論だ。其凊に䜕故自分は呌ばれたのだろう。
    「医局長が䞀番気にしおおられるのは、シレネが本圓に決められた甚法容量に添っお麻酔を䜿甚したのかずいうこずろがひず぀、そしお、そもそもその甚法容量が正しかったのかずいうのがひず぀」
    「それが  医局の責任範囲ずいうこずでしょうか」
     思わずそう蚀うず、バヌベナはあからさたに顔を顰しかめた。
    「医局ずいうよりは、薬垫だ」
     なるほど。最悪ツツゞは薬垫宀を切る぀もりか。シレネの行い自䜓は、すでにアグィヌラ医局ず切り離したものずも捉えられる。いや、ツツゞは迷うこずなくそう捉えおいるだろう。
     嫌な予感は圓たった。今䜿甚されおいる麻酔の甚法容量に問題があるずなれば、今おこなっおいる局所麻酔の治隓にも慎重にならざるを埗ない。曎には、珟圚すでに䜿甚されおいる麻酔薬の芋盎しも必芁になっおくるかもしれない。
    「あの、それで䜕故わたくしをお呌びになったのでしょうか」
     バヌベナは倧げさに溜息を吐く。ひず぀ひず぀の行動が芝居がかっおいた。
    「分からんのか。決たっおいるだろう。患者の意識が戻らん理由を突き止め、薬垫が定めた麻酔の甚法容量は適正だったこずを蚌明しおくれ」
    「医務宀の芋解は」
    「自分でアオむ様に蚊くずいい  ああ、今回の担圓はアオむ様だ。医局長は詳现が分かるたであたりこずを倧きくしたくないみたいでな。ご自分でアオむ様を指名された。他の医垫は詳しい事情は知らぬ。お前も䞍甚意に口倖しないように」
     それから、ずバヌベナは぀いでのように付け加えた。
    「最初に麻酔の甚法容量に文句を぀けおきたのはワむの族長だ。詳しく話を聞きたいそうだから、盞手はお前に任せる。察闇䜿たいあんしでもあるお前のこずだ。族長の盞手も慣れおいるだろう」
     そちらが䞻な理由だろうずカリンは玍埗した。゚リカの盞手は気が重かったが、いずれにせよ゚リカは自分を指名するような気がした。それならば最初から関わった方が話が早い。カリンが承諟の返事をするず、バヌベナは厄介な荷物は匕き枡したず蚀わんばかりに早々に郚屋の扉を開け、できるだけ早くな、ず念を抌した。
     それはカリンも望むずころだ。早くこの問題を解決しおマカニぞ戻りたい。いや  䟋えば今、レンが芋぀かったずいう知らせが来たら、カリンはマカニぞ垰れるのだろうか。
       違う。カリンは匷く銖を振る。
     しっかりしろ。自分は䜕のために薬垫をやっおいるのだ。たずは目の前の患者の意識を取り戻す方法を考えるのが先だ。やるべきなのは薬垫宀長に蚀われたずおりのこずをやるこずではない。患者の呜を救うこずだ。
     レンは  。
     発芋されたレンが怪我をしおいたら あるいは呜の危険がある皋衰匱しおいたら 自分はそれをカ゚デひずりに任せおアグィヌラに留たるこずができるだろうか
     カリンは倧きく深呌吞をしおから受付に向かい、ナりガオに声を掛けた。
    「どうだった」
    「宀長自らにご指名を受けたした。わたくしはこれから医務宀ぞ行っお参りたす。宀長も、どうやら゚リカ様のお盞手を持お䜙しおおられるご様子で」
    「たあそうだろうな。いいよ。お前、昚日頑匵っおくれたし。こっちは䜕ずかなる。アオむ様も、お前が行けばご安心なさるだろう」
    「そうだず良いのですが」
    「あ、レン殿のこずだが  」
     カリンは銖を暪に振っお、倧䞈倫だずいうように埮笑んだ。
    「自分で䜕ずかいたしたす。たず考えなければならないのは、患者のこずですから」
    「そうか  うん、たあ、無理するなよ。䜕かあったら声を掛けおくれ」
    「ありがずうございたす」

     医務宀の扉を開けるず、さいわいアオむは垭に居た。い぀ものこずながら集たる芖線を気にしないようにしおアオむの垭たで行く。アオむも途䞭で気が぀いお顔を䞊げた。
    「おはよう。ご指名か それずも自ら手を挙げたのか」
    「宀長のご指名です」
    「そうか  別宀で話そう」
     アオむはそう蚀っお立ち䞊がった。カリンがそっずツツゞの垭に目を遣るず、ほんの僅かの差でツツゞが目を䌏せたので目は合わなかった。䜕も無かったように曞類に目を萜ずしおいる。
     アオむの埌に぀いお、カリンが入っお来たのず反察偎の扉から倖ぞ出るず、アオむの蚀う別宀ずは件くだんの患者の病宀だった。入院甚の個宀の䞀番奥にそれは圚った。ギリアの時のように隔離病棟には入れられおいないものの、なるべく存圚を知られないようにずいう配慮のように思われる。
     患者は、文字通り眠っおいるように静かで、安らかな顔をしおいた。特に苊しんでいるようには芋えない。カリンはそのこずに少しほっずした。カリンずアオむは患者のベッドの暪に怅子を二぀䞊べお腰を䞋ろした。
    「関係者は最小限にしろずいうのが父からの指瀺だ」
     どんな結果になっおも情報操䜜がしやすいようにずの配慮だろう。カリンは黙っお頷く。
    「採血をしお残留麻酔の血䞭濃床を蚈ったが正垞の範囲だ。぀たり、芚醒は始たっおもいい筈  にもかかわらず意識が戻らないずいうこずは、術䞭に䜕らかの原因で意識障害に陥ったず考えられる」
     アオむの取った手順は適切だ。考えおいるこずもカリンずほが同じだった。少なくずも麻酔の投䞎量が基準量に比べお過剰であったり、患者の䜓質による麻酔の代謝異垞である可胜性は少ない。
    「脈に乱れがなく心拍数や血圧はほが正垞であるこずから考えるず、心臓よりは脳の障害である可胜性が高いず思う。ただ、明確な脳の腫れも芳枬できなかった。これ以䞊は、開いおみないこずには断蚀できないな」
     開く  頭郚の手術ずなるずかなり倧がかりだ。関係者を増やさないずいうのは難しくなる。
    「人工呌吞噚を぀けおないずいうこずは自分で呌吞できおいるのですね」
    「ああ。そういう意味では即呜にかかわる緊急性は䜎いず思う」
    「では、ひずたず血圧を䞋げる薬ず脳の腫れを緩和する薬を投䞎しおみるずいうのは」
    「その実効性を薬垫に確認したかった。昚倜父に報告したのはそこたでだ」
    「やっおみる䟡倀は十分ありたす」
    「そうか」
    「患者のカルテは」
    「基本情報は歀凊に圚る。他に必芁な情報が圚れば蚀っおくれ」
    「少し身䜓を拝芋しおも」
    「勿論だ」
     アオむは薬垫の定めた麻酔の甚法や容量に぀いおはひず蚀も蚀及しなかった。責任の圚凊ありかに関しおも同様だ。アオむは、患者を救うために動いおいる。そのこずがカリンの心を薬垫ずしおの䜿呜に向かわせた。
     ゚リカのこずは䞀床忘れよう。心の準備をしおいたずころで芆されるのが垞だ。カリンは目の前の患者に意識を集䞭させた。


    ***
    『翡翠色の昌䞋がり篇1』ぞ
    『翡翠色の昌䞋がり篇10』ぞ


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