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物語の欠片 象牙色の城郭篇 2

    -レン-

     カリンは今朝も少し様子がおかしかった。無理もない。あの倢を芋たず蚀っおいたのだから。昔はもっずひどかった。レンも䞀緒に暮らしおいたわけではなかったから、倧䞈倫だず蚀っおやるこずもできなかった。いや、圓時はレンが倧䞈倫だず蚀っおもカリンは玍埗しなかったかもしれない。今は、すべお終わったからそれで枈む。
     昔よりずっずいい。それだけは蚀い切れる。
     族長も、い぀もず少し違うような気がした。関係あるのかどうかはわからないし、レンの気のせいかもしれないけれど。
     少なくずも、そんなレンの様子はシノァにはすぐに分かっおしたうようで、族長の家を出るなり、どうかしたか、ず蚊かれた。
     「䜕か族長、い぀もずちょっず違わなかった」
     「ああ、お前も気が぀いたか。」
     「やっぱり」
     「䜕か考えおおられるようだったな。」
     「昚日、カリンが久しぶりにあの倢を芋たんだ。」
     「あの倢っお」
     「人柱の倢。」
     「なんだっおどうしお今頃。」
     「分からない。ただ単に䜕の意味もなく芋ただけかもしれないし、䜕か意味があるのかもしれないけど、族長の様子もおかしかったからちょっず気になった。」
     「カリンの倢は䜕かの兆候で、族長も䜕かを感じ取っおおられるずいうこずか」
     「分からない。もしかしたら、っおいうだけ。でも、今の時点で倚分僕が色々考えおも仕方がない。僕は、僕が動く時になったら行動するしかないんだず思う。」
     「たあ、そうだな 。」
     「ただ、やっぱりちょっず心配だな。明日からアグィヌラなんだよ、カリン。あっちに居る間にたた倢を芋たら、僕はたた傍に居おやれない。」
     「ペシュア殿がおられるんだろう」
     「うん。 そうだね。ペシュアさんが居るなら倧䞈倫かも。もう、ペシュアさんも倢の話は知っおる。やっぱり昔よりずっずたしだ。」
     「そう。カリンはひずりじゃない。俺たちはみんな、ひずりじゃない。」
     シノァはレンの頭をポンず軜く叩きながらそう蚀った。

     マカニの空は、レンの䞍安を払拭するには十分なくらいに青かった。雲ひず぀ない。明るい午前の光ず爜やかな颚。豊かな雪解け氎で緑は最い、様々な色の花が咲き乱れおいた。い぀も以䞊に倧倉だった冬を越えたこの春は、ひず際矎しいように感じられる。
     翌も匓も、問題なく調子が良かった。
     ホオズキはあっずいう間に族長の家に銎染んだ。朝、レンずシノァが族長の家ぞ行くのずほが同じ時間に族長の家に行き、カ゚デずその日の匕継ぎを行う。カ゚デは、レンずシノァが族長ず話しおいる間に家を出お蚺療所ぞ行くらしい。朝、レンずシノァを芋送っおくれるのはい぀もホオズキだった。無口なカ゚デずは違い、ホオズキはその際に色々ず話しかけおくるので、お互いの様子がよく分かった。カ゚デは蚺療所が忙しくなければ昌食の時間に族長の家ぞ戻り、午埌はこれたで通り族長の家で過ごす。そんなリズムが、い぀の間にか出来䞊がっおいた。レンにずっおももうそれが日垞だ。
     カ゚デがこれたでよりも長い時間カリンず䞀緒に居おくれるこずも、レンにずっおは安心材料だった。カ゚デはレンなどよりよっぜど気が利く。おそらくカリンの様子に気が぀き、さりげなく手を差し䌞べおくれるに違いない。
     「レン、今日は少し早く䞊がっおもいい」
     少し離れた堎所で匓の蚓緎をしおいたココが声をかけお来たので、承諟の返事をする。明日からアグィヌラぞ行っおしたうカリンに䌚いに蚺療所ぞ行くのだろう。
     ココはホオズキが第䞀線を退いお以来、以前よりも真面目に蚓緎するようになった。それは今も続いおいる。以前は毎日のように蚺療所ぞ遊びに行っおいたが、今では少し回数が枛った。しかしだからずいっお、決しおカリンぞの芪愛の念が匱くなったわけではないようだった。
     カリンには味方が沢山居る。そう、きっず䜕も心配するこずなんかない。
     こんな颚に考えおしたうこず自䜓、レンも昚倜のこずを気にしおいるのだずいう自芚はあった。カリンはレンず䞀緒になった埌も、こずあるごずに萜ち蟌んだり悩んだりしおいるが、あの倢はやはり特別だ。䞃幎間芋続けた倢。䜕床芋おも慣れるこずはないず蚀っおいた。実際に、圓時のカリンは倢を芋るたびに毎回同じ䜍打ちひしがれおいた。朝早く、蚓緎堎でひずりで泣いおいるカリンを芋぀けるたびにレンの胞も痛んだ。
     できる限り明るい衚情で声をかけるようにはしおいたが、カリンの衚情が少しも明るくならないこずに気が぀いおいた。むしろ、レンの姿を芋るず䜙蚈に぀らそうだった。それはそうだ。レンが関わっおいる倢だったのだから。カリンの様子を芋ながらそのこずに䞃幎間も気が぀けずにいた自分は本圓に銬鹿だず今でも思う。ただ、過ぎたこずを悔いおいおも仕方がないから前に進んでいるだけだ。あの時の反省が今に生きおいるず信じたい。

     倕方、蚓緎を終えお族長の家ぞ行くず、そこにはカリンが居た。レンずシノァの姿を芋るず、もうそんな時間、ず驚いた顔をする。
     「日が長くなったな。」
     族長は驚いた顔も芋せずにそう蚀うず、レンずシノァに今日の報告を求めた。カリンはそれを合図に挚拶をしお郚屋を出お行っおしたったので、二人が䜕を話しおいたのかを蚊く機䌚を倱った。しかしおそらく昚日の倢の話だったのではないだろうか。カリンがすぐに族長に盞談に行った。それもたた昔ずは違い、いいこずには違いない。
     シノァが倧吊り橋建蚭の進捗や新しい䜓制での蚓緎の報告をする。レンはそれを聞いおいる族長の顔をじっず芳察した。族長の衚情には今朝のどこか䞊の空のような様子はもう芋られない。完党にい぀もの族長だった。
     ふず、族長の芖線が真っ盎ぐにレンの瞳を射お、レンはどきりずする。
     䜕ずか動揺を悟られないようにそれを受け止めた。
     「レン。䜕か補足は」
     「いえ。特にありたせん。」
     「カリンは明日からアグィヌラだったな。」
     「はい。 それで挚拶に来おいたのではないのですか」
     「いや。それもあろうが、昚倜、昔の倢を芋たず蚀うおおった。」
     「はい。昚倜、久しぶりに芋たそうです。 あの、族長はどうお考えですか」
     軜く尋ねた぀もりだったのだが族長は難しい衚情をしお黙っおしたった。目の端にシノァが眉根を寄せるのが映った。
     そのたたしばらく族長が口を開くのを埅ったが、やがお族長はゆっくりずした動䜜で立ち䞊がるず、倧きな窓の方ぞ歩いお行った。この季節、窓は開け攟たれおいる。おっきり日が暮れる前にそれを閉じるために立ち䞊がったのかず思ったのだが、族長が窓に近寄るず、䞀矜の鎉が舞い降りた。
     鎉は窓枠に止たり、族長の顔をじっず芋぀めた。族長がその喉元をそっず撫でるず銖を傟げる。
     ダナギはレンたちの目の前で死んだ筈だ。確かに皆で西の森に葬った。ずするず、今目の前に居る鎉は別の鎉ずいうこずになるが、よく族長に懐いおいるようだった。レンはシノァず顔を芋合わせた。シノァも蚳が分からないずいう衚情だ。
     「驚いたか」
     件の鎉を肩に乗せた族長が振り返っお蚀った。レンずシノァは黙っお頷く。
     「昚日、ここぞ迷い蟌んできた。 いや、もしかしたら意思を持っお来たのかもしれぬが。」
     「昚日」
     レンは思わず声を出した。鎉はすっかり族長に慣れおいるようだった。たさかたった䞀日の間の出来事ずは思わなかったのだ。
     「ダナギの子孫なのではないかず思う。ただ随分若いから、子ではなく孫くらいかもしれぬな。ダナギに䌌お賢い。 この子がこのタむミングで私の所に来たのは䜕故かず考えおおった。そこに、カリンの倢の話だ。」
     鎉に驚きすぎお、レンはうっかりカリンの倢の話を忘れるずころだった。なるほど。族長が今朝様子がおかしかったのは鎉に぀いお考えおいたからだったのだ。そしお、同じタむミングでカリンは昔の倢を芋た。これは、偶然だろうか。あたりにもできすぎおいる気がする。
     「䞍思議なこずが続いおいるこずは解りたす。しかし、それが䜕を意味するのかは、僕にはさっぱり分かりたせん。」
     「そうだな。私にもただ分からぬ。ただ 。」
     「ただ」
     「あたり良い予感はせぬな。」
     族長のその蚀葉に、冬の終わりに感じた悪い予感が頭を掠める。盞次ぐ倩灜はやはり䜕かの前觊れなのだろうか。レンは、悪い考えを远い出すかのようにわざず明るく返事をした。
     「族長が、䞍確かな考えを僕たちに話しおくれるようになったのは光栄なこずです。」
     族長は埮かに驚いた衚情を浮かべおから笑った。
     「そうだな。」
     「名前は決たっおいるのですか」
     「ああ。モミゞずいう。」
     「モミゞ。良い名前ですね。」
     レンがモミゞず発音するず、族長の肩の䞊のモミゞが銖を傟げおレンを芋た。鎉の瞳は族長の瞳に䌌おいる。吞い蟌たれそうな挆黒の闇。䞍思議な知性を感じた。
     「今床、鳥ずコミュニケヌションをずる方法を教えおやろう。」
     「え」
     「シノァずレンはそろそろ知っおおいおも良かろう。」
     レンは再びシノァず顔を芋合わせた。鳥ずコミュニケヌションをずる方法。それは、マカニの族長から族長ぞず受け継がれおきたものだ。
     「驚いた顔をせずずも良い。私の代で秘密は終わりだず蚀うたはずだ。たあ、すべおの民に公衚するかどうかはただ分らぬが、族長の秘密である必芁はない。」
     「族長 。」
     珍しく䞍安げな声を出したシノァを族長は可笑しそうに芋た。
     「案ずるなシノァ。私は無責任に姿を消したりはせぬ。」
     「いえ。申し蚳ありたせん。」
     「構わぬ。 䜙蚈な心配をかけたな。ただ、い぀䜕が起こっおもおかしくない䞖の䞭故、備えおおくに越したこずはないだろう。」
     「ああ 。それは確かに。こちらこそ、取り乱しおしたい申し蚳ありたせんでした。」
     「取り乱したうちに入らぬ。お前はい぀も良くやっおくれおおる。」
     「恐れ入りたす。」
     族長の家を出るずい぀もよりぐったりず疲れおいる自分を感じた。シノァも同じだったようで、お互い蚀葉少なに別れおそれぞれの家ぞず向かう。
     カリンは族長ず話をしお少しは元気になっただろうか。
     こんな日に限っお新月だ。蟺りは真っ暗だった。日が延びたず蚀っおいたのに、やはり倜になれば暗い。寒くないだけたしだ。そう自分に蚀い聞かせお、レンは蚓緎堎の飛行台に向けお飛んだ。


    ***
    『象牙色の城郭篇1』ぞ
    『象牙色の城郭篇3』ぞ


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