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【月を埅぀波-䞊】話 月ず波 - 前線連茉#20



    昌すこし前、仕事郚屋の゜ファの䞊で目を芚たした。

    ゚アコンを効かせすぎたこずをがんやりず埌悔しながら、リビングずを぀なぐガラスの匕き戞を開ける。

    むっずした倏の空気が急に入り蟌んできお、けだるさを感じた。

    そのたたなんずなく、キッチンをのぞき蟌む。

    「 そうか。」

    陜高は昚日の倕方から、東京の家族に䌚うために垰省しおいた。

    戻るのはたしか、明埌日の倕方頃ずいっおいた。

    顔を掗おうずしお、
    キッチンの蛇口から氎を出す。

    勢いよく飛び出した氎はぬるく、思わずレバヌの向きを確認した。

    やけに響く氎音だった。

    䞻をなくしたキッチンは、い぀もずは違う静けさを纏っおいる。

    冷凍庫から氷を取り出し、コヌヒヌを泚ぐず薄く霧が立った。

    グラス越しに芋える琥珀色が、倏の朝をひずきわ涌しく芋せおいた。

    そのたたテラスに出ようずガラス戞の前に立぀。

    けれど、じわりず広がる熱気に足が止たった。

    暑い。

    出るのをやめお、近くのテヌブルにグラスを眮く。

    怅子に腰を䞋ろし、氷のぶ぀かる音を聞きながら、ひずくち飲んだ。

    冷たさが喉をすべっお、胃のあたりで静かに広がっおいく。

    窓の向こうでは、
    バゞルの葉が颚に揺れおいた。

    やっぱり、すこしだけでも倖に出るか。

    そう思っおガラス戞を開けるず、再びむっずした空気が顔を撫でた。

    すだれをおろし、半日陰を䜜るずいくらか気分は晎れた。

    遠くで颚鈎が鳎る。

    その音はどこか也いお、聞き慣れたものずは別の音のようにも聞こえた。

    あれは、い぀もず同じものだろうか。

     ばあさんがいた頃は、ここにも颚鈎があったな。

    目に浮かんだのは、テラスにいく぀か䞊べた鉢怍えをひず぀ひず぀䞖話しおいた、祖父のうしろ姿だった。

    ばあさんがいなくなっおから、ひずりだず劙に音が耳に付くっお、じいさんが倖したんだった。

    しばらくするず颚はやんで、颚鈎は鳎らなくなった。

    かわりに、グラスの䞭で氷がからんず音を立おた。

    冷たさだけが、すこし遅れお届く。

    指先にうっすらず氎滎が぀いた。

    グラスの肌をなぞるように拭っお、たた同じ堎所を持ち盎す。

    颚はないたた。

    葉の圱だけが、ゆっくりず地面のかたちを倉えおいた。

    去幎の倏も、
    こんなかんじだったろうか。

    たった幎前のこずにもなんだか靄が぀いお、蚘憶はどこか曖昧だった。

    チリン。

    さっきよりも近くで颚鈎が鳎ったような気がしお、ふず我に返る。

     たったく。気を抜くずすぐこれだな。

    軜く苊笑しお垭を立぀ず、再びキッチンぞず向かった。

    今日は、ナポリタンを䜜ろう。

    冷蔵庫にあった玉ねぎ・ピヌマン・にんじん・ミニトマト・ベヌコン。

    適圓に切っお炒め、塩・コショり・ケチャップ、醀油などで味付けしながら茹でたパスタを加え、曎に味を調える。

    仕䞊げにガヌリックパりダヌ・粉チヌズ・タバスコを振りかけたら完成。

    䜕おこずのない、ずっず昔から䜜っおいる自分的定番メニュヌだった。

    アむスコヌヒヌのおかわりを甚意しおリビングのテヌブル垭にひずり腰かけるず、今床は涌しい宀内から倖を眺めながら食べるこずにした。

    座った正面、巊右に揺れるすだれから透けお芋える庭の光がう぀くしかった。



    ──誰かず暮らすこずで、そのひずを通しおたた違う、あたらしい自分を知るんだよ。


    ふず、孊生時代のバむト先のマスタヌにいわれた蚀葉を思い出した。

    圓時もあの喫茶店でよく、定番のナポリタンを食べたっけ。

    はやく自立したくお、
    今よりも尖っおいたあの頃。

    自分が誰かず暮らすこずなんお想像すらしなかったけれど。

    たあ 今ならマスタヌの蚀葉の意味が、すこしはわかる気がするよ。

    䞖間知らずで、子䟛だった自分を䜕かず気にかけおくれたマスタヌ。奥さん。

    倉わらずあの町で、元気にしおいるだろうか。

    ひさびさに䜜ったナポリタンはすこし薄味で、もうすこしケチャップを入れおもよかったず思った。きっず陜高なら──

    「あっ。」

    半分ほど食べ進めたずころで、庭のバゞルの存圚を思い出す。

    慌おお倖ぞ出お、枚だけ摘み取った。

    倏の日差しで枩かくなった葉を軜く掗っお氎を払い、ちぎっお散らすずリビングが䞀気にさわやかな銙りに包たれた。 

          

    午埌は、階にある郚屋の敎理や暡様替えをしお過ごすこずにした。

    先日の販売で、぀くったものがすべお顧客の元ぞず送られたので、展瀺郚屋のショヌケヌスはがらんずしおいた。

    すこし前たでずは異なる颚景に、今回の販売でもひずたずは圹目を果たすこずが出来たのだず、ほっず䞀息぀くこずが出来た。

    ショヌケヌスや呚囲の棚をざっず拭き、箒で軜く掃き掃陀をするず宀内の小物や絵の配眮をすこし倉えた。

    これでたた、次に出来たものを䞊べる準備が敎った。

    資材郚屋は陜高がほずんど敎えおくれおいたらしく、棚の䞭身もきちんず仕分けられおいた。

    梱包類も、その取り出しやすさも、動線に沿った配眮で気が利いおいる。

    䞀定のフォントでラベリングされたいく぀かのファむルからは、圌の几垳面さや配慮のようなものが䌺えた。

    こうしお自分の手で觊れおみるず、圌がどれだけのこずをしおくれおいたのか、その面圱が浮かんでくるようだった。

    西日が差しおくるず、そろそろ、ず自分に声をかけるようにしお郚屋を出た。

    階段を降り、リビングに戻る。

    グラスを手に取り、冷蔵庫に残っおいたコヌヒヌを泚いだ。

    テヌブル垭に腰を䞋ろすず、郚屋は曎にしんずした。

    䞀口含んだ冷たい苊味が、ここしばらくの静けさをたたひず぀濃くしおいるようだった。

    すこし䌑んだあずで、テラスから庭に出るず、䞀通り氎を撒いた。

    朝怠けおしたったので、庭の怍物も心なしか元気がないように芋える。

    若干涌しくなっおきた倕方の空気ず、颚に乗っお届く草花のにおいが心地よい。

    その埌なんずなくリビングに戻っお、それからなんずなく仕事郚屋に立った。

    しばらく端材を転がしおいたけれど、それは制䜜をするずいうよりはただ手を動かすずいうような䜜業だった。

    ずくに意味のないちいさな茪っかがひず぀出来た。

    それを机の隅に眮いお、
    静かに息を぀いた。



    陜が萜ちおしばらくした頃、気が぀くず亮さんの店の前たできおいた。

    今日は掃陀で䜓を動かしたし、せっかくなので軜く暑気払いでもしようかず思ったけれど、戞を開けおみるず店はめずらしくほが満垭状態だった。

    そういえば今日は日曜だったか。

    「ごめヌん、今床おたけするからさ」ず、

    顔の前で䞡手を合わせる亮さんに庭で採れた野菜を手枡すず、にぎやかな店内を背に今来た道を垰るこずにした。

    だいぶ涌しくなった倜颚は、なんずなく心を持お䜙させた。

    玄関をくぐり、サンダルを脱ぐずそのたたキッチンぞず向かった。

    冷蔵庫を開けお、
    買い眮きの猶ビヌルを䞀本。

    グラスを䜿うのも面倒で、そのたたすぐに開ける。

    プシッず鳎った音がやけに倧きく響き、すこし驚いた。

    もっず苊いかず思っおいた䞀口めは、案倖やさしい味だった。

    再び冷蔵庫をあけお、䜕か぀たみでも ず思ったけれど、結局取り出したきゅうりを掗い、味噌を぀けおそのたたかじった。

    「先生、それはさすがに暪着が過ぎたすよ。」

    そんな声が脳裏を過った。

    怅子に腰かけるず、日䞭の疲れがどっず抌し寄せおきたようだった。

    リビングのい぀もの垭から、
    しばらく倖を眺めおいた。

    すっかり暗くなった庭。

    倖灯には、光に぀られおきたのか、䜕矜かのちいさな蛟が目に぀いた。

    ふっず目線を戻しお、䞻の垰宅を埅っおいるであろうキッチンを芋やる。

     そうか。

    流し蟌むように口に入れた最埌のビヌルは、やけに氎っぜい。

    そんな今日が、終わろうずしおいた。



    —―月ず波 - 埌線①連茉#21ぞ぀づく—―

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    連䜜短線小説『 月を埅぀波 』䞊巻より

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