
ゲス・イット 第一話 一周忌
(あらすじ)
夫の一周忌。26歳の未亡人・夏菜子は、葬儀で体を触ってきた夫の伯父と再会する。宿泊先のホテルに押し入ってきた伯父は、亡き夫が残した誓約書を盾に夏菜子を追い詰めた。絶体絶命の状況で夏菜子が選んだのは、夫婦の思い出のトランプゲーム「ゲス・イット」での真剣勝負だった。勝てば全てチャラ、負ければ伯父の自由にされる。騙し合いの心理戦が始まる中、追い詰められた夏菜子の中に眠っていた血が目を覚ます。これは官能の物語であり、一人の女が喪失を乗り越え、自分自身を取り戻す再生の物語だ。【全11話】
(本文)
夫の一周忌に出席する為に、久しぶりに夫の実家の町に来た。師走も押し迫った北の田舎町の乾いた空気。コートを着ていても震えるほど寒い。23歳で結婚した夏菜子は、そのわずか2年後に病で夫を亡くした。まだ26歳。友達の多くが華やかな独身生活を謳歌している中、一人、未亡人として生きていた。
「子供もいないのだから、また早くいい人を見つけなさい」
夫の母親からは何度か優しい言葉を掛けられたが、どうしてもそういう気持ちにはなれなかった。部屋に帰ればまだ夫がそこに居るような気がする。その感覚が生きている内はとても新しい恋なんて出来ないと思った。
それはそれでいいのだけど。
夏菜子にはこの一周忌に来るのが気重になる理由があった。
昨年の夫の葬儀。若くして逝ってしまった夫を偲ぶすすり泣きがあちこちから聞こえる沈鬱な雰囲気の中、打ちひしがれ涙も枯れた夏菜子に夫側の伯父と言う男が終始傍に付き添っていた。周りからは気遣っているようなしぐさに見えただろうし、夏菜子も初めはそれが誰なのかも分からず、ただ単によろめく身体を支えてくれている優しい人とさえ思っていた。しかし。途中から巧妙に胸やお尻を触られていることに気づいた。夏菜子は心も身体も情けないほど消耗していたが、それでも何とか伯父と距離を取ろうと試みたが、その度に強引に距離を詰められた。
周りにはとても言い出せなかったし、声を出せるような雰囲気でもなかった。仮にもし声を出したとしても、言い逃れされてしまうギリギリの巧妙さもある。つまり『肝心の部分』には決して触らなかった。何より50歳絡みの男が親戚の集まっている席で、まさかそんな不埒なことを考えていようとは誰も思うまい。結局されるがままに葬儀は終わった。
その伯父と今日もまた会うことになるだろう。うまく逃げられるだろうか。さすがに前回の葬儀ではそれ以上のことはなかったが、今回は分からないと予感していた。隙を作っちゃダメだ。自分に言い聞かせる。
夏菜子が会場に着くと、想像通り伯父は夏菜子を待ち構えていた。薄くなりかけた頭が、男性ホルモンの強さをアピールしているかのように見えて、嫌悪感を覚える。
お斎の席でも、やはりスルスルと、当たり前のように夏菜子の隣の席に座った。はじめは世間話などして当り障りなくしていたが、お酒が入ると徐々に身体を寄せてきた。何度離れようとしても、腰を寄せられる。精一杯睨んでもみたが、一向に応えない。元より押しに弱い夏菜子は、このような厚顔無恥な男が、最も苦手なタイプだった。
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学生時代にも、コンパの席で好きでもない男に、強引に迫られたことがある。断り切れずに別室に連れ込まれて、危うく身体を奪われそうになった。怖くて声も上げられず、酔っていたせいか抵抗することも出来ないところを、無理やり唇を塞がれて胸を弄られた。男の手が太腿を這いあがって来るのが気持ち悪くて吐きそうになる。やばい。必死で腰を捻って抵抗したが男の足に動きを封じられた。卑猥な手がパンツのゴムに届いた。あ、もうそれ以上は......。
「何やってんだ」
そこを救ってくれたのが夫だった。彼が怒って大声を出したのを見たのは、後にも先にもその時だけだ。
夫は誰にでも優しい人で、常に夏菜子の気持ちを一番に考えてくれる人だった。それはSEXでも同じだった。生まれたばかりの子猫を撫でるように、優しく時間をかけた愛撫に、私の身体はいつも雲の上を漂うように、甘美な時間を浮遊した。決して自分勝手に挿入して、闇雲に腰を振るようなSEXはしなかった。
そんな夫が、唯一本気になって夏菜子と勝負したのがトランプだった。ゲーム好きで負けず嫌いな夏菜子も、夫との勝負はいつも楽しかった。中でも「ゲス・イット」は、シンプルなゲームでありながら、騙し合いの駆け引きが面白くてよく遊んだ。
ある日、おふざけで『負けた方が一枚脱ぐ』という賭けをした時には、優しい夫が、夏菜子を脱がそうと躍起になる姿に、夏菜子も身体の内側が興奮に熱くなるのを覚えた。
最後の勝負に負けた夏菜子は、最後の一枚を脱がされた。あれは、わざとだったかも知れない。目前に晒された夏菜子の裸の股間に、優しく触れた夫が、耳元で「濡れてるじゃないか」と囁やいた。その低い声の響きだけで、夏菜子は絶頂を迎えてしまった。それから「ゲス・イット」は夫婦にとって特別なゲームになった。
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お斎の席が締まり、それぞれお暇の挨拶をして三々五々に分かれていった。伯父の姿が見えなかったのが気にはなったものの、挨拶をするのも嫌だった夏菜子は内心ホッとして、宿泊先のホテルに向かった。
普段会うことのない年長者ばかりの集まりに気遣い、その上お酒も少し入ったこともあって、夏菜子は部屋に入るとコートも脱がずにそのままベッドに倒れ込んだ。すぐに起きて着替えをしようと思っていたのだが、そのままついウトウトしてしまう。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。コツコツとドアを叩く音に夏菜子は目を覚ました。起き抜けでボーッとしていたのだろう、ホテルの食事の案内と勝手に思い込んだ夏菜子は、無防備にドアを開けてしまった。
ドアの外に立っていたのはホテルマンではなかった。そこには、あの伯父が赤ら顔に満面の笑みを浮かべて立っていた。
(続く)