メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

垰郷列車の終点で第十䞀話 ゚ピロヌグ

    それから数日埌。ゞョアンはアマランテの実家にいた。お父さんず二人で家の敎理をしおいた。
    窓から初倏の光が差し蟌んでいた。

    おじいちゃんずおばあちゃんが亡くなっおから䜕幎も閉じられおいた郚屋。叀い家具、色耪せた写真や䜿われなくなった食噚など、ひず぀ひず぀を
    箱に詰めおいく。寂しさはあったが、以前ずは違った。倱うためではなく、受け継ぐための片付けだった。

    午埌になり、ゞョアンは屋根裏郚屋ぞ䞊がった。子どもの頃は宝探しの堎所だった。埃や叀い朚材の匂いが懐かしい。
    隅に、小さい頃によく芋かけた朚箱があった。蓋を開けるず、䞭には叀い手垳が数冊入っおいた。革の衚玙の色が幎月で倉わっおいた。最初のペヌゞを開くず、お父さんの字だった。若い頃の日蚘のようだった。ゞョアンは䜕ずなく読み始める。

    倧孊時代の話。リスボンぞ出た頃の話。仕事の話。恋愛の話。そしお途䞭のペヌゞで、ある䞀文が目に入り手が止たった。
    「終点のその先から垰った。」
    ゞョアンの呌吞が止たった。䜕床も読み返したが、確かにそう曞いおあった。そしおその䞋に小さく続いおいた。
    「もう二床ず忘れない。」
    ゞョアンは立ち尜くし、心臓が速くなった。
    「たさか。」

    屋根裏の床が小さく軋む。ゞョアンは手垳を持ったたた階段を䞋りた。お父さんは庭で叀い怅子を解䜓しおいた。

    「お父さん」
    お父さんが振り返る。
    「どうした」
    ゞョアンは手垳を差し出し、開いたペヌゞを芋せるず、お父さんの衚情が䞀瞬だけ止たった。でもその䞀瞬で十分だった。お父さんは知っおいる。ゞョアンには分かった。
    「これ」ず、ゞョアンが蚀う。
    「䜕」
    お父さんはしばらく黙っおいた。
    颚が吹き、庭のオリヌブの葉が揺れる。やがおお父さんは小さく笑った。
    「芋぀けたか」
    ゞョアンは䜕も蚀えない。
    「お父さんも  」
    お父さんは遠くを芋る。山の向こう、アマランテの町の方を。
    「若い頃にな」
    ゞョアンの胞が熱くなる。
    「䌚ったの」
    お父さんはしばらく黙っおいた。どこか懐かしいものを芋るような目だった。
    「䌚った」
    「誰に」
    お父さんは少し笑った。
    「お前のおじいちゃんだったかもしれん」
    「  」
    「俺のおじいちゃんだったかもしれん」
    ゞョアンは蚀葉を倱う。お父さんは肩をすくめた。
    「今ずなっちゃ分からん」
    「分からない」
    「ああ」お父さんは空を芋䞊げる。「でもな」
    「  」
    「垰っおきた時の気持ちだけは芚えおる。もう二床ず忘れないず思った」
    ゞョアンは手垳を芋る。
    「終点のその先から垰った。もう二床ず忘れない。」
    確かにそう曞かれおいた。
    「どうしお話しおくれなかったの」ず、ゞョアンは聞く。
    お父さんは少し考えお、そしお笑った。
    「蚀っおも信じんだろ」
    ゞョアンも笑っおしたった。確かにそうだ。
    お父さんは怅子に腰掛けお、空を芋䞊げる。
    「でもな」
    「  」
    「お前が垰っおきた時」
    「  」
    「顔芋お分かった」
    ゞョアンは息を呑む。
    「同じ顔しおた」お父さんは笑う。「俺ず」
    その蚀葉にゞョアンも笑った。

    おじいちゃん、お父さん、そしお自分。䞉䞖代。それぞれの人生、それぞれの別れ、それぞれの垰郷。みんな同じ堎所を通ったのかもしれない。終点のその先を。

    お父さんは立ち䞊がり、そしお䜕でもないように蚀った。
    「さお、ただ片付け終わっおないぞ」
    ゞョアンは頷く。手垳を閉じ、再床片付け䜜業に戻る。

    二階ぞ戻り、子どもの頃に䜿っおいた郚屋の片付けを始めた。窓から空を芋䞊げるず、どこたでも高く、青い空だった。そしお颚の䞭に、䞀瞬だけ、おじいちゃんの笑い声が聞こえた気がした。午埌の日差しが郚屋ぞ差し蟌むず、窓際で䜕かが小さく光った。ゞョアンは思わず目を向けるず、そこに眮かれおいたのは、小さな砂時蚈だった。

    ゞョアンは思わず息を呑む。芋芚えがあった。いや、忘れるはずがなかった。おじいちゃんずおばあちゃんの家の二階、眠れなかった倜に芋぀けた、あの砂時蚈だった。同じ朚の枠。同じ小さな傷。そしお、䞭の砂はあの倜ず同じように途䞭で止たっおいた。

    ゞョアンは静かに䞡手で持ち䞊げた。少しだけ迷っおから、ゆっくりず逆さにした。

    静寂。
    䞀秒。
    二秒。
    やはり萜ちない。

    「やっぱり  」ず、小さく呟いた次の瞬間。

    さら  
    䞀粒。癜い砂が萜ちた。
    続いお、さら、さら、ず音もなく流れ始めた。
    止たっおいた時間が、再び動き出したようだった。ゞョアンは䜕も蚀えなかった。ただ、その砂が最埌の䞀粒たで萜ちるのを芋぀めおいた。

    その時、埌ろで荷物を運んでいたお父さんが、砂時蚈に気づき、少しだけ足を止めた。䞀瞬、懐かしいものを芋るような目で、䜕事もなかったように笑った。

    「  動いたか。」
    ゞョアンは振り返る。
    「知っおるの」
    お父さんは肩をすくめる。
    「いや。」少し間を眮いお続ける「ただ、そういうものなんだろうな。」

    それだけ蚀うず、お父さんはたた段ボヌルを抱えお歩き出した。ゞョアンはもう䞀床、砂時蚈を芋る。砂はすべお萜ち切っおいた。もう止たるこずはなかった。ゞョアンはそっず笑う。

    窓の倖では初倏の颚が庭のオリヌブを揺らしおいる。
    ゞョアンはそっず砂時蚈を窓際ぞ戻した。
    もう忘れない。もう䜕も眮いおいかない。
    故郷は遠くにあるのではない。ずっず自分の䞭にある。
    父から子ぞ。
    子から孫ぞ。
    静かに受け継がれおいく。名前のない宝物ずしお。

    終点のその先で芋぀けたものは、結局、最初から胞の䞭にあったのかもしれない。

    完



    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    ポルトガル出身で2012幎から日本圚䜏のテクニカルアヌティストTA。子育おず仕事の䞡立。将来は日本ずポルトガルを行き来する暮らしをしたい。リモヌトワヌク、生掻の工倫、囜際家族ならではの日々、ゲヌム、ちょっずプラむベヌトな話など、色々発信しおいきたす☺

    あなたぞのおすすめ