
不揃いな石の上に立っている― あの頃の私が拾ってくれたもの ―
つい先日、心の中の隠し部屋を見つけた。
柔らかい灯りがついていて、本や道具や好きなものが雑多に置かれた、魔法使いの作業部屋みたいな場所。
そこには今の私と、子どもの頃の私がいた。
今日は、その部屋の奥にある、少し開けにくい扉を開けてみる。
そこにいたのは、10代後半から20代の頃の私だった。
窓の外を見ながら、ため息をついている。
こちらに気づいて目が合ったけれど、また窓の外を見る。
その窓の外には、子どもの頃から好きだった物語の景色が広がっていた。
メアリーポピンズ。
ハリー・ポッター。
リトルマーメイド。
天空の城ラピュタ。
不思議の国のアリス。
知らない世界への扉が開いたり、
思いがけない出会いがあったり、
自分でも知らなかった力を見つけたり。
そんな主人公たちの世界。
窓辺の私は、それを見ながら思っていた。
「どれかが私の世界ならいいのに」

あの頃の私は、自分の物語を自分で作っていけることを、まだ知らなかった。
物語が始まるのは、選ばれた人だけだと思っていた。
10代後半から20代。
上手くいかないことだらけだった。
嫌なこともあった。
傷ついたこともあった。
でも、自分自身も未熟だった。
人との距離の取り方も、
自分の守り方も、
何を大切にしたいのかも。
わからないまま進んで、ぶつかって、失敗した。
今思えば、もっと違うやり方があったと思うこともある。
でも、その時の私はその時の精一杯で生きていた。
学生の頃は、学校が教えてくれた。
次に何をしたらいいか。
何が正解なのか。
でも、教えてくれたことしか知らなかった。
大人になったら、誰も教えてくれない。
だから恥をかきながら覚えてきた。
転びながら、ひとつずつ拾ってきた。
私の足元を見ると、
そこにはバラバラな石が並んでいた。
形も違う。
色も違う。
綺麗じゃないものも混ざっている。
「この上に立ち続けていいの?」
「この足元でいいの?」
そう思った。
でも、その中に一番大切な石があった。
一度、深く深く落ち込んだ時。
辛くて、誰も信じられなくて、心の底の方まで沈んでいった時。
その一番下にあった石。
「でも、私は生きている」
「私は幸せになっていい」

「でも、私は生きている。 私は幸せになっていい。」
不思議だった。
誰かにもらった言葉じゃない。
どこかで読んだ言葉でもない。
街の雑踏の中で、ふっと浮かんできた。
根っこの部分にポジティブが残っていたのか。
それとも、悔しくて強がって出た言葉だったのか。
今でもわからない。
でも、その石は確かにそこにあった。
それからも、いろんな石を拾った。
人をもう一度信じてもいいと思えたこと。
優しくて聡明な人と出会い、
「あの人ならどう考えるかな」と心の中のコンパスにしたこと。
コンプレックスを隠すために着ていた鎧に気づいたこと。

「信じることを思い出した」「 心の中のコンパスになった人」「 鎧を脱いだ気づき」
誰かに認めてもらうために、
必要以上に強く見せたり、
違う自分になろうとしなくてもいいこと。
そんなふうに、少しずつ覚えていった。
窓辺にいた昔の私が、やっと部屋の中を見る。

足元には、不揃いな石でできた床。
いろんな色があって、
いろんな形がある。
「面白いね」
「見飽きないね」
そう言っている。

やっと部屋の中を見て、 そう言ってくれた。
そして今の私を見る。
昔より少し肩の力が抜けて、
自分のままでここにいる私を見る。

まともなフリも、 個性的なフリもしなくていい。
「いいんだ、それで」
そんな顔をしている。
でも、少し得意そうにこう言う。
「でも、私がもがいて
苦しんで頑張ったんだからね」

もがいて、苦しんで、 それでも歩くのをやめなかった。
その通りだと思った。
全部を綺麗な思い出にはできない。
でも、なかったことにはできない。
あの頃の私が、歩くのをやめなかったから。
不格好でも拾い続けてくれたから。
今の私はここに立っている。

これからも、この石の上を 歩いていく。
私の足元は、きれいに整ってはいない。
色も形もバラバラな、不揃いな石でできている。
でも、見ていると案外面白い。
見飽きない。
これは、あの頃の私が拾ってくれたものだから。