メインコンテンツへスキップ
見出し画像

花鳥風月には、まだ春が来ない♯17

    番外編4    「彩乃イズム」

    あらすじ
    彩乃は「愛嬌」を武器に、アイドルを天職と信じて突き進んでいた。そんな彼女が惹かれたのは、愚直なまでに理想を追う同期の風花。二人は姉妹のように支え合うが、悩む風花を想って彩乃が連れて行ったカフェ『花鳥風月』を機に、風花は圧倒的な華を開かせていく。一歩先を行く風花への焦燥、そして本音でぶつかり合ったスタジオの夜。「待たなくていい、絶対追いつくから」。それは風花を孤独にしないという彩乃の矜持だった。共に頂点へ駆け抜け、5年後、引退してタレントとなった彩乃は、今も風花の幸せを誰よりも願っている。風花が笑顔にしたかった人は、最初から隣にいたのだから。


    一 天職

     踊るのが好きだった。歌うのも好きだった。人前に出るのも、全然怖くなかった。

     片親で育ててくれた母は、いつも言っていた。「彩乃、愛嬌よく生きなさい。それがあなたの武器になるから。」

     その言葉の意味を、私は早いうちから体で理解していた。笑顔でいれば人が寄ってくる。明るくしていれば場が和む。そういう自分が、嫌いじゃなかった。むしろ、得意だと思っていた。

     SNSでたまたま見つけたオーディションの告知。新しいグループの一期生募集。

     後で思えば、もう少し知名度のあるグループの方が安定していたかもしれない。でもその時の私には、この「新星」という言葉が刺さった。最初から積み上げていく方が、面白そうだと思った。

     応募した。合格した。

     これが天職だと、直感した。

    二 風花という同期

     同期に、風花という子がいた。

     第一印象は「少し気弱そう」だった。声が小さくて、目が合うとすぐ逸らす。大丈夫かな、と思った。せっかくの同期だし、面倒見てあげようと思った。

     でも風花は、頑張り屋だった。

     誰よりも早くスタジオに来て、誰よりも遅くまで残って練習していた。振りを覚えるのが少し遅くても、絶対に諦めなかった。

     ある夜、レッスン後にファミレスで二人で話した。

    「風花は、どうしてアイドルになりたかったの?」

     私が聞くと、風花は少し考えてから答えた。

    「昔、デパートでアイドルのイベントを見て。最初は誰もいなかったのに、パフォーマンスが始まったら人が集まってきて、どこを見ても笑顔になってて……。あんな景色を作れる人になりたいと思ったんだ。」

     私はその答えに、少しだけ黙った。

     私の動機は、もっとシンプルだった。得意だから。向いてるから。でも風花の動機は、もっと真っ直ぐで、もっと遠くを見ていた。

     そこに、惹かれたのかもしれない。

     それから私たちは姉妹みたいになった。夜な夜なmoonchildをどんなグループにしたいか話し込んで、レッスンで励まし合って、互いの弱いところを補い合った。

    三 一歩先

     最近、風花の顔が曇っていた。

     仕事は増えていた。でも増えるほどに、風花は追い詰められていくように見えた。目標が単純で明確な分、その分だけ自分を苦しめてしまっているのだろうと思った。

     ある日の帰り道、路地裏で小さなカフェの看板を見つけた。

    『花鳥風月』

     引き寄せられるように扉を開けると、街の音が消えた。自然の音が流れていて、テーブルに花が一輪。4席だけの、静かな空間だった。

    (風花に合いそうだ)

     翌週、「ちょっと付き合って」と風花の腕を引いた。

     カフェから帰った後、風花の顔が少しだけ柔らかくなっていた。

     それからだった。

     風花がみるみる変わっていった。

     来るたびに彩りを増して、表情が豊かになって、ステージでの存在感が変わっていった。最初は気のせいかと思っていた。でも違った。

     私から見ても、もはや華やかだった。

     同じアイドルで、風花の姉ポジとしての私には凄まじい圧力だった。

     一歩、先を行かれた。

     負けてたまるか。振り落とされてたまるか。死んでも食らいついてやる。この子を1人になんてしてやらない。そう歯を食いしばりながら、私は笑顔でステージに立ち続けた。

     擦り切れそうになっていたある日、楽屋で風花に声をかけられた。

    「彩乃、最近どう? なんか、元気なさそうで」

     気づいてくれていた。

     本当に嬉しかった。

     涙が出そうになったけど、出さなかった。

    「正直に言う。風花がどんどん先に行って、すごく眩しくて……私、焦ってた」

     言葉にしたら、少し楽になった。

     風花が私の手を握った。

    「ごめんね、彩乃。私、自分のことしか見えてなかった」

     違う、そうじゃない。謝ってほしいわけじゃない。

     私は首を振って、風花の目を真っ直ぐ見た。

    「待たなくていいから。絶対追いつくから、先に行って」

     その言葉を口にした瞬間、私の中で何かが決まった。

     ライバルとして。同期として。姉として。

     風花を孤独になんてしない。でも甘やかしもしない。背中を追いかけて、いつか追い抜いて、また背中を見せてやる。それが私の矜持だった。

    四 その後

     それから私たちは、最後まで一緒に駆け抜けた。

     風花がセンターになって、私はその隣に立った。二人でステージに立つたびに、あのファミレスの夜を思い出した。

     引退後、私はテレビの仕事が増えた。歯に衣着せぬ物言いが受けたらしい。バラエティでも、トーク番組でも、呼ばれるようになった。

     風花とは今でも仲良しだ。

     あのカフェのことは、風花から聞いていた。真司さんという人のこと、ハナミズキのこと、5年越しの「ただいま」のこと。

     良かったね、と思った。

     風花が笑顔にしたかった人が、最初から隣にいたんだから。

    (彩乃イズム 了)

    マガジンへ

    次回作
    ふるさと納税の成れの果て〜県庁戦国〜

    他作品
    Tales of Ai's

    Worldline Saturation

    TOKURYU

     
     
    小説書きの投思考です。あなたの日常に、少しだけの非日常を。 【更新コンテンツ】 ・Web小説の連載 ・プロットやキャラクター設定などの創作裏話 ・詩創りもハマり中 気軽に作品を覗いてみてください。フォローいただけると励みになります!

    あなたへのおすすめ