
本当にただの日記#52 嫉妬
みんなそうなのかもしれないけど、
まだ物書きを目指していた頃、才能というものに嫉妬していた。
これまでに読んだ本の文章に比べて、自分の文章はなんて稚拙なのか。
自分の言葉に、自分の心が動かない。
自分の心の扉を、自分で開くことができない。
自分だけの言葉で、物語を描けない。
そんな文章に、誰の心が動くというのか。
時が経って、文章から離れた。書くことも、読むことも。
コンビニで社員になった。泊まり込みで研修に行ったり、優良店と呼ばれる店を幾つも見せてもらった。
その中の一つに、完璧な従業員教育がされているお店があった。笑顔で挨拶、丁寧なお辞儀。どこかのホテルかのような、素晴らしい接客のお店だった。
そこの店長とお話をさせてもらう機会をいただいた。今まで見たどの店より素敵なお店だと伝えた。店長は三十代前半くらいの穏やかそうな男性で、でも目の奥に確かな芯がある。
ここまでするには、確固たる意志と高い統率力が必要になる。どんなに頑張っても、このお店のような接客レベルには届かないなと思った。
その時はすごく大きな嫉妬をしたが、素直にすごいと思った。
でもどの従業員も作られた笑顔で、ちょっとだけロボットのように見えてしまうなとも思った。
店舗運営にも才能の有無はある。
だが僕の店も含め、ほとんどが平凡な店長が運営する平凡なお店だ。
僕はすぐ他店と自分の店を比べる癖があり、
この店には勝っている、この店には負けていると評価しようとする。
でも長く続けていくうちに、そういった目線が少しずつ消えていった。
コンビニで買い物をしていて、客が並んでいるのにそれを横目にレジに入らず、他の作業を続ける従業員がいるとする。
そういった教育をしているお店のことが、僕には理解できなかった。
そんな店、早く潰れてしまえばいいと思っていた。
だが、そのお店にも常連さんが根付いていて、僕の見えないところで誰かにお礼を言われている。
誰かの役に立っている。
いい加減、自分と何かを比較するのはやめるかと思った。
比較することで嫉妬したり見下したり、それはとても心が疲れることで、その職業への寿命が着実に減っていく。
自分がそれを達成できない時、他者を評価しようとする姿勢は、確実に自分自身に返ってくる。
自分に出来ないことを羨んだり、自分が出来ることを他者に押し付けたりするのは、自分の人生ごと何かを縮めてしまう。
今からどんなに時間をかけても、努力を重ねても、僕にはそんな表現は出来ないし、それを自分の言葉として獲得出来ない。
そのことに嫉妬してしまうと、その表現への寿命ばかりが縮まってしまう。
長くその職種を愛したいのであれば、
自分より優れたものも、劣ったものも、すべてを受け入れなければならない。
才能の捉え方は、それぞれが持っているもの、持っていないものによって違う。
僕は自分の感覚を信用できないので、感覚で動く人、感覚で書ける人に強く惹かれる。
自分なりの論理があって、それを信じて物事を遂行していく人もカッコいい。だからそうなるのかという一貫性があり、ロジカルで知的な文章などは大好きだ。本格派ミステリーとか、本当にドハマリした。
だけどまったく論理的でない言葉、構成、考え方なのに、それでも成立させてしまう文章の持ち主には敵わない。
僕が思う才能の持ち主が、この世界において誰にとってもそのように見えるかはわからない。
でも才能があれば必ず世に出るというのは嘘だと思っている。才能がある人だって、埋もれる人はたくさんいる。我々凡人と同じだ。
ちなみに先述した素晴らしい接客のお店は、多店舗経営を始めたものの、うまくいかなかった。
僕が店長の平凡なお店は、少しずつ売上を伸ばし、その素晴らしいお店の売上をやがて超えた。
別に僕のお店の方が優れていると言いたいわけではない。平凡が才能に勝つことは、コンビニを含めた小売業においては当たり前のようにあることだ。店舗運営の才能以外の要素が、立地だとか敷地面積だとか、小売業にはいくらでもある。
本当は、文章だって同じだ。
平凡が、才能に勝つ場面はいくらでもある。何が言いたいかというと、今の僕は平凡であることを卑下していないし、才能という言葉をそんなにありがたがってもいないということだ。
誰かに勝つために何かを磨く。
それよりかは、自分は自分のままでいるかと思う方が、そのことに対して長続きするということだ。
若い頃は、長生きするよりも、短くても光り輝きたかった。
今となっては、輝かなくてもいいから、長くしがみついていたいと思うのだ。この、文章を書くという世界に。
みっともないと思っていた。
でも一度振り落とされた後だと、しがみつけるだけでも幸せだなと思ってしまう。
仕方ない。離れている間も、嫌いにはなれなかったのだから。
それなら七歩後ろからでも、大好きなものにしがみついていたい。
カッコ悪いだろ?大好きなものに、振り向いてもらえやしないのに。
でもさ、その後ろ姿だって好きなんだわ。