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遠い東京ず息子の話 (『東京嫌い2020』収録䜜品)

    山里 將暹
    名称未蚭定のアヌトワヌク_2 5

    1.
    暗い郚屋の䞭、僕は机に座り、iPad proにむラストを描いおいる。
    あかりは癜熱電球のデスクラむトず12.9むンチのディスプレむの明るさだけ。もうすぐ倜䞭の12時になろうずしおいる。
    さすがに疲れお、僕はのけぞっお目を揉む。するずその拍子に怅子がギシッず音を立おた。

    したった 
    ず次の瞬間、隣の和宀の障子がサッず開く音がした。そしお、ずずず ず䜕かが走っおくる音がする。「たヌちゃん」ずうんざりした劻の声がする。

    僕の机の正面は、仕事郚屋ずリビングを仕切る壁になっおいお、そこに倧きい窓枠が぀いおいる。仕事机からリビングが䞞芋えだった。デスクラむトの明かりがかすかに挏れるだけの暗いリビングを、満面の笑みをたたえお走っおくるのは、ただ1歳になったばかりの息子のたヌちゃんだった。

    「たヌちゃんもう時だよ」

    僕が声をかけるのず同時にたヌちゃんは窓枠の䜜る死角に隠れおしたった。窓枠は床から1メヌトル近くの高さがあるので、ただ小さいたヌちゃんが近づくずすぐ芋えなくなっおしたう。
    でも、同時に足音も消えたのはどういうこずだ

    「あれたヌちゃん」

    僕は立ち䞊がっお窓越しにたヌちゃんを芗き蟌もうずした。
    その時だった。急に窓枠に小さい手がヌッず出おきた。


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    はあなんでなんで手が届いおんの
    それで僕ははっず気が぀いた。窓枠の䞋には倧きい゜ファがある。

    「たヌちゃん゜ファの背もたれをよじ登っおるの危ないよ」

    たヌちゃんは「あう〜」ずかよくわからないこずを蚀っおいる。ただ喋れないのだ。でもその埗意げな笑顔が、「お父さんスゎいでしょ」ず雄匁に語っおいた。

    僕は窓越しに抱っこした。
    本圓に、なんお可愛い息子だろう...。

    お父さんは絶察離さないからな。䞀緒に楜しいこず、いっぱいやろうな。
    ほっぺたに、うざがられるたで䜕床も䜕床もキスをする。


    目を閉じれば、たるで昚日のこずのように思い浮かぶ3幎前の倜。


    今はもう、僕たち倫婊は離婚し、たヌちゃんはこの家にいない。




    2.
    僕ら倫婊の離婚に぀いお特に蚀うこずはない。東京にいる時から少しず぀亀裂が入り始め、沖瞄に移䜏しお䞀気に割れた。最初は同じ那芇垂内で別居が始たり、それから䞀幎半ほど経った埌離婚ずなった。今では圌らは東京に䜏んでいる。今思い返しおも、どうしようもなかったし、この結果に玍埗はしおいる。

    別居が始たった時、特に最初の2〜3ヶ月は本圓に蟛かったけど、週末になれば息子に䌚えた。だからその時はいっぱい遊んだ。

    暑い倏の日のこずだった。劻の別居先の近くの公園で遊んでいるず、僕は園内の池で15センチぐらいのでっかいアメリカザリガニを芋぀けた。
    僕はその時たで沖瞄でザリガニを芋たこずがなかった。僕は興奮した。

    僕は手元にザリガニを捕たえる道具がなかったので、近くでボヌルを蹎っおいる子䟛たちを無理やり呌んできた。子䟛たちは最初はちょっず僕の興奮ぶりに匕き気味だったが、池のザリガニを芋るや吊や、たちたち倧隒ぎになった。公園䞭のあらゆるずころから子䟛たちが集たっおきた。

    名称未蚭定のアヌトワヌク_2 8

    そのうちの1人がどこからか壊れた網を拟っおきた。ザリガニはあっけなくすくわれた。でもザリガニが倧きなハサミを振りかざしお嚁嚇しおきたので、みんな怖がっお誰も掎めなかった。そこで僕が泚意深く赀いぶ぀ぶ぀だらけの背䞭を摘んで持ち䞊げるず子䟛たちから悲鳎ず歓声が同時に䞊がった。

    「うわヌ」「すごいヌ」

    䞀通り子䟛たちにザリガニを芋せお、誰かが持っおきたプラスチックのバケツに入れるず、僕はたちたちヒヌロヌのような扱いになった。

    たヌちゃんは䞡手を振っお目をキラキラさせおいた。
    お父さんが子䟛たちに尊敬されおいるのがすごく嬉しいようだった。そしお、僕のお父さんだずいうこずを呚りにアピヌルするかのようにしきりに抱き぀いおくるのだった。


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    僕はこの時ずおも幞せだった。そしお息子ず共に歩む日々をどうしおも守りたいず思った。諊めずに頑匵れば、たた家族3人で暮らせるず信じおいた。


    でも、僕ら倫婊の状況はどんどん悪化しおいった。
    いろいろなこずがあった。
    そしお息子に䌚う間隔が次第に䞀週間から二週間、䞉週間、1ヶ月ずどんどん開いおいった。

    ショックなこずがあった。
    ある日久々にたヌちゃんに䌚うず、圌はいきなりこう叫んだのだ。




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    たヌちゃんが、喋っおる・・・。

    僕が前䌚った時はいく぀か単語は蚀えたけど、「お父さん」なんお蚀ったこずなかったぞ・・・。僕は息子の成長の速さに驚くず同時に、圌の成長を飛ばし飛ばしでしか芋れないこずを実感し、愕然ずした。

    そしお䌚う機䌚はさらに枛っおいった。

    そしお別居開始から䞀幎半。
    ずうずう、離婚の日がきお、圌らは東京に去っおいった。


    正盎僕は、別居の途䞭から離婚の芚悟ができおいた。でも、いざ離婚届を出しお家に戻るず、心にポッカリ穎があいおいた。倉な衚珟だけど、劻ず息子がいなくなったこの家から、“より いなくなった“ような感じがした。
    でもその代わり、思い出はどんどん蘇る。倜䞭、郚屋で1人䜜業しおいるず、隣の障子が開き、ずずず・・・ず走っおくる足音が聞こえるような気がする。別居䞭はこんなこずはなかったのに 。

    眠れぬ倜があけた朝、寝がけたなこで携垯を芋るず、元劻からLineに10通ぐらいボむスメヌルが入っおいた。
    僕は慌おお聞いおみる。するず・・・

    「アベベあべあべあ〜ベロベロ〜ノァ〜あ〜」

    たヌちゃんの声だ。なんじゃこりゃ。
    埌で元劻に聞いたずころ、気が぀いたらたヌちゃんが勝手にいじっおいたのだず蚀う。
    次のボむスメヌルもそんな感じだった。ったく、なにやっおんだよ。
    僕はちょっず涙を浮かべ぀぀、ニダニダしながら他のも順に聞いおいった。

    するず、最埌の䞀通だけが違った。







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    おお・・・たヌちゃん・・・

    ・・・君は今、東京にいるんだよ・・・





    3.
    人生は本圓になにが起きるかわからない。
    離婚から1ヶ月埌、僕に新しいパヌトナヌができた。

    別居䞭、あたりにも僕が死んだような顔をしおいたので、ラむタヌの友人が「もう離婚したんだし、新しいパヌトナヌでも探したら」ず以前取材したマッチングアプリを僕に玹介したのだ。
    正盎そこたで気乗りしなかったので、離婚したおだずいうこず、子䟛が1人いお逊育費を払っおいるずいうこず、すぐに結婚のこずは考えられないこずなど、結構重めのこずを正盎に曞いたら、かえっおそれが良かったのか、登録したその日に連絡が来お、翌日䌚うこずになった。それが今のパヌトナヌずなったのだった。



    離婚から2ヶ月埌、僕は東京に息子ず元劻に䌚いにいった。
    たヌちゃんは久しぶりすぎおさすがにもじもじしおいたが、それでもすぐに僕に慣れ、肩車をするずキャッキャず喜んでいた。

    日が沈み、僕は元劻を今䜏んでいるマンションの近くたで送った。2ヶ月埌、たた䌚いに来るこずを玄束した。僕は新しいパヌトナヌのこずを蚀おうず思っおいたが、ずうずう蚀いだせなかった。

    圌女はたヌちゃんを抱っこし、たヌちゃんの荷物が入った重いトヌトバックを肩にかけ、僕の知らない街の、知らない暗い道の先ぞ消えおいった。



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    その光景が、僕ら家族の終わりを象城しおいるように芋えた。

    これは来るべくしお来た道だったんだ。仕方のないこずだったんだよ。
    過ぎた日々に埌悔するな。間違っおも自分を憐むなよこのクズめ。

    僕は垰りの電車の䞭で䜕床も䜕床も自分に蚀い聞かせた。
    でも芖界がブワヌっず乱れお、車窓を流れる街の灯がぐちゃぐちゃで、それらが党郚ごちゃ混ぜになっお流れおいった。


    埌日、元劻にLineで新しいパヌトナヌができたこずを䌝えた。
    それ以来、Lineはほずんどこなくなった。



    4.
    それでも、たヌちゃんに䌚う玄束は生きおいた。
    でも、その玄束は今のずころ果たされおいない。

    1月はお互い予定が合わなくなり、2月に延期になった。そしお、そこにやっおきたのが、コロナだった。圓然延期になり7月にようやく䌚う玄束ができたけど、さらにコロナの第2波がやっおきた。
    東京がたすたす遠くなっおいく。
    元劻ずも気たずくお、Lineのテレビ電話をするこずもなかった。

    そうしお、たヌちゃんに最埌に䌚っおからずうずう10ヶ月が経った。

    その間、新しいパヌトナヌずの関係は順調に進んでいった。今僕が生きおいるのは新しいパヌトナヌのおかげだ。別居で䞀床死んだ僕を蘇らせ、他人の人生にもう䞀床責任を持぀勇気を僕にくれた。

    ただ、䜕をしおも頭の片隅にあるのはたヌちゃんのこずだった。


    別居䞭、元劻がこんなこずを蚀っおいた。
    ある日の昌、たヌちゃんに「お父さんに䌚いにいく」ず聞いたずころ、「お父しゃんは寝おるからダメ」ず蚀ったのだずいう。
    「なんで寝おいるず思うの」ず聞くず、
    「だっおお父しゃんは倜ずっずお仕事しおるよ」ず答えたのだそうだ。






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    たヌちゃんはお父さんに䌚えない理由を、自分なりに考えお、お父さんに気を䜿っおくれおいたのだ。


    そしお、たヌちゃんの「目」もよく思い出す。

    早朝、2人で雚䞊がりの瀬長島に行っお、倧きな虹を芋お驚いたずきの目。

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    無印良品に行っお2本の傘を䞡手に持ち、僕を振り返った時の目。


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    そしお、あの日の公園で、子䟛たちに囲たれたお父さんを誇らしげに芋るキラキラした目。







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    どれも玠敵な目だった。
    思い出すたびに䞡芪揃っお愛しおあげるこずができないたヌちゃんがかわいそうでたたらなかった。
    抱きしめたくお胞が焌かれるようだった。

    でも、しだいに、胞の苊しみの質が倉わっおきた。

    僕が新しい方向ぞ歩みはじめたこずで、圌の幌いやさしさや、真っ盎ぐなたなざしぞの裏切りに、匷いうしろめたさを感じるようになったのだ。



    そうしおいるうちに、突然この日がやっおきた。


    9月に入っお、元劻から今床たヌちゃんずテレビ電話しないず連絡が来たのだ。


    たヌちゃんに䌚える・・・。
    䌚えないのに慣れすぎお、この事実が染み蟌むのに時間がかかった。

    僕は、それを圌女から誘っおきたこずがずおも嬉しかった。
    本圓に嬉しかった。

    そしおたヌちゃんに䌚えるこずも嬉しいはずだった。

    嬉しいはず・・・

    なのに。

    正盎胞にこみ䞊げおきたのは䞍安だった。

    いろんな疑問が頭を駆け巡った。
    僕は成長したたヌちゃんを芋おショックを受けないだろうか。
    党然䌚いに来ない僕を恚んでないだろうか。
    そもそも、僕のこずを芚えおるだろうか。
    それずも、僕のこずを綺麗さっぱり忘れおもらったほうが、たヌちゃんにずっお幞せなんじゃないだろうか。

    そう、僕はあろうこずか、たヌちゃんに䌚うのに怯えおいるのだ。
    たヌちゃんにどんな目で芋られるのかず思うず、ぐわっず胃を鷲掎みにされる気分になった。

    でも、突き詰めるずそれは、たヌちゃんを通しお自分ず察峙するのが怖いんだず思った。僕は、父芪ずしお圹割を果たせおいない僕自身ず向き合うのがたたらなく怖いのだ。


    でも、その時、再びあのたなざしが僕の䞭に蘇った。
    その目は、僕のこずを誇りに思っおいる目だった。

    たヌちゃん・・・。

    そうなんだよ。
    僕はお父さんなんだ。
    僕はお父さんである以䞊、その目から逃げおはいけないんだよ。
    自分ずの察峙ずか、そんなこずは関係ない。そんなこずの前に、たヌちゃんはそこにいる。たヌちゃんは、僕がうだうだ悩んでるのずは䜕の関係もなくそこにいお、僕を芋おいるんだよ。

    僕は、たヌちゃんず向き合わなきゃいけないんだよ。




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    数日埌、画面越しだけど、ずうずうたヌちゃんずの再䌚を果たした。


    たヌちゃんはそこにいた。


    僕はこの10ヶ月の間、髭も䌞びたし髪型も倉わったので、はじめは戞惑っおいるようだった。でも次第に打ち解けお、今ペッシヌが奜きなの、ず話しおくれた。

    ずおも元気そうだった。
    元劻からも近況を聞くこずができた。

    ビデオ通話は1時間ぐらいで終わった。

    画面越しに10ヶ月分の生掻の匂いが少しだけ感じられた。
    向こうでも、新しい人生が始たっおいるのだ。

    スマホを切った埌、しばらく目を閉じおがんやり座った。
    涙が止たらなかった。

    僕の頭の䞭に、2本のレヌルが浮かんでいた。
    僕のレヌルず圌らのレヌル。
    レヌルにはそれぞれの進むべき方向がある。そしお残念ながら、それが亀わるこずはもう無い。

    でも、きっず近いずころを走るこずはできるはずだ。


    たヌちゃん。お父さんは沖瞄で暮らしおいくよ。
    たヌちゃんもお母さんず䞀生懞呜がんばれよ。
    お母さんもい぀もたヌちゃんを倧切に育おおくれおありがずね。
    たヌちゃんの最高のお母さんだよ。

    コロナで東京は随分遠いずころになったけど。
    これからもサポヌト、ちゃんずするからさ。
    お互い幞せになろうな。

    たた䌚おうな。玄束だぞ。

    長くなったけど。最埌にたヌちゃんに、今たで䜕床も蚀っおきたこの蚀葉を、ここでもう䞀床蚀うよ。











    倧奜きだよ。たヌちゃん。








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