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【記録される私と、変わっていく私】第3章 「たった一回の笑顔」

第3章テーマは、フレーミング効果(Framing Effect)
フレーミング効果は【同じ事実でも「提示の仕方(フレーム)」によって相手の受け取り方や判断が変わる現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第3章 「たった一回の笑顔」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

朝、鏡の前で三つ編みと格闘していた
高校に入ってから、なぜか「ちゃんと結えるようになりたい」と思うようになったのだ
理由は自分でもよく分からない。たぶん、部活帰りに見かけた上級生の髪型がきれいだったから——ということにしておく

指先は不器用で、左右の編み方もなぜか違う
鏡越しに「まぁ、崩れてなければいいか」と思った瞬間、スマホが震えた

廻からのメッセージ
《今日君が笑ったのは、たった一回だったね》

まだ学校も始まってないのに、なんの統計だ
「おはよう」でもなく、「元気?」でもなく、それ
思わず返信しようとしてやめた。どう返せばいいのか分からない

放課後、廊下でばったり会うと、彼は当然のように付け足した

「でも、その一回がめちゃくちゃ印象に残った」

真剣な顔でそんなことを言うから、余計に困る
自分が笑った一瞬を、こんなに見られているなんて
その瞬間、三つ編みの結び目よりも、彼の視線のほうが気になるようになった

翌日の昼休み。パンをかじっていると、廻が向かいに座った

「今日はまだゼロ回」
「……何が」
「笑った回数」

ふざけている感じはない
それなのに、口の端が勝手に上がりそうになるのを必死でこらえた

放課後、部室棟の階段で、窓から射し込む光の中、彼が立っていた

「ほら、今ので一回」

また数えられた
心のどこかで「じゃあ今日は二回目を見せてやるか」と思っている自分が
なんだか悔しい

髪型を整えようとするたび、あのメッセージが頭をよぎる

「たった一回」

それは少ない、という意味にも、特別、という意味にも聞こえる
気づけば、その“一回”をどう見せるか考えている自分がいた

次の日、朝のホームルーム前
廻が私の席に近づいてきて、いきなり言った

「今日、君が声を出した回数、昨日より少なかった」

まだ一時間目も始まってないのに

「そりゃ、まだ朝だし」
「でも、昨日はここまでに三回だった」

数字で比べられると、なぜか負けた気分になる

二時間目の休み時間、廻は廊下で私を見つけると「今ので+1回」と指を立てた
何が加算されたのか分からないけれど、気づけば口元がゆるむ
そうなると、また「はい、+1回」と増やされる
まるでゲームのスコアみたいだ

昼休み
お弁当を食べていると、廻が隣に腰を下ろす

「今日はあと二回くらい笑ったほうがいい」
「なんで?」
「昨日より多いほうが気持ちいいだろ」

自分のことなのに、なぜか彼の言葉に合わせてしまいそうになる

放課後、三つ編みを少しきれいに結えた日
昇降口で廻が待っていて、私の顔をちらりと見た

「今日の一回目は、かなりいい角度だった」

そんな評価いらないのに、胸の奥がじんわり温かくなるのが悔しい

次の日から、私は無意識に“昨日より多い”を意識していた
別に彼に褒められたいわけじゃない——
そう思いながら、廊下で友達に冗談を言ってみたり、授業中に小さく笑ったり
すると決まって、どこかから「+1回」の声が飛んでくる

ある雨の日、下校時に廻が傘を差し出しながら言った

「今日はゼロ回だったね」
「……今、笑ったでしょ」

彼はにやりと笑い、傘をぐっと私のほうに押し付けた

「はい、+1回」

なんでこんな単純なことで振り回されているのか分からない
でも、“今日の回数”を気にしている自分が、もうすっかり日課になっているのも事実だ

昇降口を出るとき、彼がぽつりとつぶやいた

「明日は記録更新、期待してる」

その言葉に、私は小さくため息をつきながら——ほんの少し、次の日の自分を思い描いていた

次章へ

↓最後に、音葉(高校生)のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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