【恋は仕込みのあとで】第5章 「一発逆転!クライマックス劇場」
第5章テーマは、ピーク・エンドの法則
【一番盛り上がった瞬間と最後の印象が強く記憶に残る】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第5章 「一発逆転!クライマックス劇場」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
季節は、初夏に差し掛かっていた
美琴と過ごす日々は、いつの間にか当たり前になっていた
教室でも、購買部でも、放課後でも
気がつけば、俺の隣には、いつも彼女がいた
だけど、まだだった
まだ、俺たちは「友達以上」に踏み込んでいない
このままじゃ、ダメだ
このままじゃ――俺はきっと、後悔する
そんなとき、最後の心理学理論が頭に浮かんだ
【ピーク・エンドの法則】
「人は、一番盛り上がった瞬間と、最後の印象だけを強く記憶に残す」
つまり
最高にドラマチックな思い出を作り
その勢いで告白すれば――
きっと、美琴の心に、俺の存在を焼きつけることができる
……理屈は完璧だ
問題は、実行する勇気だけだ
俺は計画を立てた
放課後、学校の屋上に美琴を呼び出す
そこで、特別なサプライズを仕掛ける
景色も完璧
空も夕焼けに染まる時間帯を狙う
ありったけの準備をして、俺は放課後を迎えた
教室で荷物をまとめる美琴に、声をかける
「ねえ、ちょっとだけ……付き合ってくれない?」
美琴は、不思議そうな顔をして俺を見た
「……どこか、行くの?」
「うん。すぐそこ。いい景色、見せたいんだ」
言葉を選びながら、できるだけ自然に誘う
心臓はバクバクだったけれど、何とか笑顔を作った
美琴は少しだけ迷ったあと、頷いてくれた
「……わかった」
屋上への階段を上る間、俺は何度も深呼吸した
このままじゃ、緊張で倒れそうだ
だけど、ここまで来たんだ
今さら引き返すわけにはいかない
ピークを作る
最高の瞬間を、美琴の心に刻み込む
この作戦は、絶対に成功させる
屋上に出た瞬間、世界はオレンジ色に染まっていた
夕焼けが、空一面に広がっている
まるで、俺たちだけの舞台みたいに
美琴は、柵のそばに立って、目を細めた
「……すごい、きれい」
その横顔に、思わず見惚れる
風が、彼女の髪をさらりと撫でていく
今だ
ここが、ピーク
最高の瞬間
ここで動かなきゃ、何のために呼び出したんだ
俺は、大きく深呼吸した
そして、震える声を必死で押さえながら、言った
「美琴……俺、ずっと、君のことが好きだった」
言い終わったあと、怖くて顔を上げられなかった
冷静に考えれば
屋上に呼び出して、夕焼けバックで告白なんて
いかにも狙いすぎていて、寒いくらいだ
でも、そんなこと、どうでもよかった
今はただ、俺の想いを全部、ぶつけたかった
沈黙
時間が、やたらと長く感じる
胸が、痛いほど高鳴る
そっと顔を上げると
美琴が、驚いたように、でも――どこか、嬉しそうに微笑んでいた
そして
彼女は、ほんの少し、頬を赤らめながら言った
「……私も、だよ」
世界が、ひっくり返ったみたいだった
夕焼けの光の中で
俺たちはぎこちなく笑い合った
まだ、恋人らしいことなんて何もしていない
手だって、繋いでない
でも
間違いなく、俺たちは一歩、前に進んだ
ピークと、エンド
最高の瞬間を作るために、ちょっと必死すぎたかもしれないけど
冷静に考えたら、おかしいくらい気合いが入りすぎてたかもしれないけど
それでも
この夕焼けの色も
美琴の微笑みも
今日という日も――
きっと、一生忘れない
これにて、【恋は仕込みのあとで】完結です
最後に、他の東堂迷言の迷作もよろしくお願いいたします
