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【私だけに向けられる意地悪】第3章 「曖昧な言葉は恋の呪文」

第3章テーマは、バーナム効果(Barnum Effect)
バーナム効果は【誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な性格診断を「自分だけに当たっている」と信じてしまう心理】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第3章 「曖昧な言葉は恋の呪文」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

高校二年の夏、私とパパはクラスメイトの友人に誘われて、昼休みに購買横のベンチに座っていた。机の上には「相性診断」と大きく書かれた冊子。いかにも胡散臭い、占い本の付録みたいなものだった

「ねえねえ、二人やってみなよ! 当たるって有名なんだよ」
友人に半ば強引に押し付けられ、私とパパは渋々ページを開いた

最初に出てきた言葉は――

『君は人から頼られやすいけど、孤独を感じる時もある』

私は心の中で吹き出しそうになった。そんなの、誰にでも当てはまる。けれどパパは妙に真剣な顔をしていた

「……ああ、やっぱりな」

パパはページを見つめ、腕を組んで大きくうなずいた

「俺ってさ、結局みんなに頼られるんだよ。でも、その分ひとりで背負っちまうこともあるんだよな」

どう考えても、ただの相性診断の一文を拡大解釈しているだけ。でも、その横顔は本気だった

「だろ? 葉乃、お前もそう思うだろ?」

パパは得意げに私の方を向く

私は苦笑いしながら返した

「……そんなの、誰にでも言えることじゃない?」

そう言いつつも、胸の奥は少しざわついた
だって、パパは私を見ながら、その言葉を語っている。まるで「特別」に聞こえてしまう

次のページをめくる

『君は情熱的で、時に衝動的。けれど本当は優しい一面を隠している』

パパは目を輝かせた

「おい、これも俺そのものじゃん! 衝動的って、昨日だって俺、無理やり部活の代表に立候補したしな!」

友人はケラケラ笑っている。でも、パパは真剣だった

「けど、優しい一面ってのは、まあ……葉乃だけが知ってるかもな」

ドキッとした。いやいや、これだって誰にでも当てはまる言葉だ。なのに、どうしてこんなに心臓が鳴るの

「ふざけないでよ」

そう言いながらも、顔が熱くなるのを止められない

パパはさらにページをめくり、身を乗り出してきた

『君は周囲に明るさを与えるが、時に自分を見失うことがある』

「ははっ、これも俺だ! 俺、いつもクラス盛り上げてるしな。でもさ、たまに自分のことわからなくなるんだよ」

誇らしげに胸を張るパパの姿が、なんだか可笑しくて。でも、笑いながらも、私は思った

――本当にそうなのかもしれない。少なくとも、私の前では

結局その日の昼休み、パパは最後まで診断に熱中した。どのページを開いても「俺そのものだ」と断言し、隣の私はひたすらツッコミを入れるばかり

「ねえ、それ全部あなただけじゃないから」
「いや、俺は特別なんだよ。な? 葉乃」

からかわれているようで、でも真剣で、なんだか胸が温かくなる

――そんな曖昧な言葉が、私にとっては確かに呪文のように響いた

その日の放課後、私とパパは教室に残って、相性診断の冊子をもう一度開いていた。友人はとっくに帰ったのに、なぜかパパだけが続きを読みたがったのだ

「なあ葉乃、せっかくだから最後までやろうぜ」
「……まだやるの?」
「当たり前だろ。これは俺の人生を映す鏡だからな」

どんな鏡だ。私は呆れつつ、ページをめくる

『君は誠実で、でも時に自分を誤魔化してしまう』

パパは真剣な顔でつぶやいた

「そうそう……俺、誠実なんだよ。でもさ、時々は無理するんだ」

「誠実って、自分で言う?」
「言う。だって俺はそうだからな」

堂々としたその声に、笑いがこみ上げる。誰にでも当てはまりそうな文章を、まるで自分専用みたいに受け止めるのだから

続けてパパは、私をじっと見ながら言った

「でも、誤魔化さないのはお前の前だけだ」

心臓がドクンと鳴った。言葉自体は曖昧なのに、目が真っ直ぐすぎて、否定できなかった

次のページには、こんな一文があった

『君は人との縁に恵まれている』

パパは急に立ち上がり、教室の窓の外を見やった

「ほらな、俺ってそうだろ。みんなと繋がってるし……でも、一番の縁はお前なんだよ」

私は机に突っ伏し、顔を隠した。恥ずかしくてどうしようもなかった

「……そんなこと言って、またふざけてるんでしょ」
「ふざけてねぇ。本気だ」

本気とふざけの境界線がわからない。だから余計に、胸が騒ぐ

最後のページを開くと、こう書かれていた

『君は誰かにとってかけがえのない存在だ』

パパはにやりと笑い、私の肩を軽く叩いた

「な? これも俺のことだろ。お前にとっての」

「……図々しい」
「違うのか?」

挑発するようなその笑みに、私は言葉を返せなかった。ただ頬が熱くなるのを感じるばかり

放課後の教室は静かで、窓から差し込む夕日が床に長い影を落としていた
診断の言葉はどれも曖昧で、誰にでも当てはまるものばかり

けれど、パパがそれを真剣に信じて、私に向けて語ると――まるで呪文みたいに心に響いてしまう

私は机に広げた冊子をそっと閉じた

「……ほんと、変な人」

パパは肩をすくめ、悪戯っぽく笑った

「でも、お前はその変な人をちゃんと見てる」

私は顔を背けながらも、口元が緩むのを止められなかった

――そんな不思議な放課後の教室で、曖昧で笑える言葉たちが、なぜか特別に聞こえてしまった

次章へ

↓最後に、高校時代の葉乃のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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