
トド夫はマイケルファンだった
私とトド夫は映画の趣味が合わない。
トド夫はホラーや心理戦などが好きだし、私はアニメやアート性の高い映画が好きだ。
だから、私は鬼滅の刃も国宝もひとりで見に行った。
ところが「マイケル・ジャクソンの映画を見ようよ」と言うと「うん、いいよ」と珍しく二つ返事でOKがでたので、二人で見に行くことにした。
小樽のイオンシネマに行った。
意外と映画館は空いていて、ああ、マイケルも遠い人になりにけり、なんて思った。
映画は、マイケルの家族との葛藤や、彼の孤独や繊細さが小さなところに表現されていた。
圧巻だったのはライブパフォーマンス。
マイケルを再現できるひとがいるのだろうかと心配だったが、ジェファー君は違和感なくやってのけた。
もちろん、マイケルには及ばないが、及ばないながらも違和感はない。
BADはとくに凄くて「かっこいい」と思わず声が漏れた。
凄かった凄かった、とはしゃぐ私を置いて、トド夫はジェファー君のマイケルの等身大パネルを静かに写真に撮っていた。
どうやら満足しているらしかった。わかりづらいな、おい。
家に帰ってくつろいでいると、トイレに行く道すがら、トド夫は踊り始めた。
ご機嫌な時によくやる踊りであり、それ自体は普通のことだった。
トド夫はよく家では謎の踊りをするのだ。
しかし、映画「マイケル」を見た私に、天啓のようにそれは降りてきた。
「え!トド夫!それマイケルじゃない?マイケルだよね?」
しゅたっと右に足をぴんとのばし、次に左にしゅたっと足をぴんとのばす。手は中途半端なところにあるが、まごうことなきマイケルのあの動作である。
トド夫は無言で頷くと、今度はあまり披露しない踊りを始めた。
「それスリラー?スリラーじゃない?」
めちゃくちゃだがわかる。正確には全然似てないのだがなぜかわかる。
踊るトド夫の目はキラキラと子供のように輝いていた。
そんな芸を持っていたとは。
トド夫が凄いというより、特徴的な振り付けを考案したマイケルが凄いのだが、それより何より衝撃が勝っていた。
トド夫はマイケルファンだったのである。
知らなかった。っていうか早く言えよ。なんなら映画に誘ったときも、まあいい付き合ってやるか、みたいな空気感だったくせに。
「実は中学校のときから聞いている。マイケルかっこよかった」と照れていた。
夜、布団に入りながらトド夫は、
「マイケルの映画を見ようと言われたけど、本当は少し怖かった。
でも、あの映画はすごくよかった。見て良かった」
と言って、すやすやと眠りについた。
マイケルがいろんな悪評や裁判にさらされていたのは私でも知っている。たぶんそれらが露悪的に描かれていたら、トド夫はやるせなかったに違いない。
でも、そういう映画ではなかった。
もちろん、ファンたちのなかでも「本当のマイケルはもっと!」みたいな話も当然あるだろうが、こういう風にファンたちの間で盛り上がったりして、マイケルを再確認するためにはとてもいい映画だったように思う。
今もなお、おじさん(たち?)を躍らせるマイケルってやっぱり凄い。