
その進む道にあるもの〜野良猫のうた〜
自分の声が嫌いだった
堅く響き、まとわり付く違和感
耳を塞ごうとも聞こえてくる不快感
心の声には感じない異質感
謎 なぜ 何故に?
求道者になり損ねた野良猫はやがて
謡うことを辞めた
されど、心の音は止まらない
表現したい したくない
相反する気持ちに
いつも揺れていた
ゆらり ゆら
強張った声で嫌悪感をわめき散らす
通り過ぎる人びとの不快そうな顔に胸が痛む
どうにもならないジレンマは理解されなかった
気がつけば独りだった
これは孤立でなはく 孤独
“寂しい”
そう言うことができなかった
知らず頬を伝う涙が
渇いた心に吸い込まれた
なぜ 何故に 泣いているのか?
その雫が呼び水となり
空っぽだった器に水が湧き出す
滾滾と溢れ出すほどに
流れ出る水を余さないよう
野良猫は夢中で水を飲み続けた
喉が渇いていることさえ知らなかった
欲しい 欲しい もっと欲しい
ようやく何かが満たされたような気がした
刹那
水面のきらめきが目を刺した
光の正体を見極めようと
荒ぶる波紋が鎮まるまで待った
そこに表れたのは今まで見たことのない
美しい猫だった
仲良くなりたくなった
生まれてはじめて 心から願った
怖がらせないように
できうる限り優しく 柔らかく鳴いた
一緒に遊ぼう
かつて聞いたことが無い
美しい音が響いた
その音が自分の喉から発せられたことに
野良猫は 酷く驚いた
見開いた目で見た
水面に映った猫は 自分 だった
先ほどとは比較にならない程溢れ出した涙
(あぁ、自分が嫌いだったのは声ではなく
“真”の心を表現できない自分だったのか)
自分を固くしていたもの
それを手放して野良猫はひらりと駆けていった
見る人びとは振り返る
その美しく躍動する姿に目を奪われて
自由 受容 重要なこと
どこまでもまっすぐに真っ直ぐに
猫は進む
もう猫は振り返らない
歓喜の歌を響かせて
その凜とした誇り高き姿で
愛を聴く者
光を視る者たちを魅了しながら
真っ直ぐに 軽やかに
猫は進む