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Photo bytkgwnohitorigoto

もう1人のマウンド~本当の自分~(後編)

    toshi

    2026年8月11日俺は甲子園のマウンドに再び立っていた。
    もう1人の人格と戦ったあの日、試合終了後に消えた人格は殺人衝動のほうだった。
    結局次の2回戦で敗れてしまったが、優勝候補の黒名高校に勝利したことで静岡に戻った後もしばらく地元は大いに盛り上がっていた。
    特に黒名高校戦で完封した俺とホームランを打った優雅は連日地元の
    マスコミの取材対応に追われていた。
    それも落ち着いたころに本当に最後の大会夏予選直前になっていた。
    春に自信をつけた俺たちは勝ち進み、決勝では秋の大会で敗れた相手に
    延長12回、レギュラーに復帰した滝田の劇的サヨナラタイムリーで勝利し、悲願の夏の甲子園初出場を決めた。
    「お前やっぱりくじ運いいよな。」甲子園の組み合わせ直後、俺は優雅に
    声を掛ける。
    「春は優勝候補筆頭、夏は春に負けた相手とだもんな。」山倉も続く。
    「リベンジしないといけないからな。」笑顔の優雅。
    春に負けた時は1回戦でいろんな意味で力を使い果たしてしまい打ち込まれてしまったが、今回は予選の疲れも取れ、対戦が楽しみだった。
    それにしてもなぜあの時俺の本来の人格が消えたのか。
    確かに殺人衝動の人格を持って俺は生まれた。
    だとすればあの瞬間今の俺の人格が消えていたはずだ。
    それとも生まれた瞬間は偽の人格に乗っ取られていて、
    優雅とぶつかったことで本来の人格が出てきたということなのか。
    そうだとすれば俺は恨むどころか優雅に感謝しないといけない。
    少しひっかかるとこもあるがあれからあの人格は出てきていない。
    やはりあの試合に勝利したことで人格を消すことができたのだ。
    実は1ヶ月前に2人で自主練をしていた時に優雅が急に話し始めた。
    「2つ聞きたいことがあるんだけど今良い?」
    真剣な目つきでこちらを見てきた優雅の目を俺も見つめる。
    「考也10年前にうちが秋季大会の2回戦勝った時球場にいたんだって?」
    親父さんから聞いたよ。少しドキッとしたが嘘をつくことでもないので首を縦に振る。
    「お前その時駐車場で誰かとぶつかった?」優雅は聞いてきた。
    「あの時同じ年くらいの子とぶつかったんだけど、早く試合見たくてろくに謝らずにその場離れちゃったのをすごく覚えてるんだけど今思うと考也に
    似てたような気がして。あれって考也?」
    俺は少し沈黙した後に、「試合中に駐車場行ってないから俺じゃないね。
    まあ10年前のことだから記憶曖昧だけど。」
    それを聞いた優雅は「そうか」と答え、2つ目の質問をしてきた。
    「うまく説明できないけど考也何か病気だったりする?」
    え?さすがに動揺が表情に出てしまった。
    「なんか、お前はやさしくて、落ち着いてる奴だけどたまに違う人間?
    みたいになる時あるなと思って。昔なら殴り合いの喧嘩の時、最近なら春の甲子園の時かな。最近はあんまり感じないけど。それに何となく何か隠してる気がしてさ。」俺は黙り込んでしまう。
    そんな俺を見て優雅は「まあ、気が向いたら話してくれ。何かあったら俺が守ってやるよ」言って素振りを始めた。
    優雅はとっくに俺の異変に気付いていながら変わらず接してくれていたんだと初めて知った。
    優雅にならいつか打ち明けられる日がくるかもしれないと俺は思った。

    夏の甲子園は春とは違い猛烈な暑さだった。開会式で立っているだけでも
    倒れていしまいそうな暑さで、試合の時はどうなってしまうのかと不安に
    感じた。春心地よかった浜風も気休めにもならない。
    そんな暑さに不安を感じていたが、試合当日は雨予報ということもあり空は雨雲に覆われており、気温も昨日より5度低い30度。
    連日35度以上だったことを考えると涼しくも感じる。
    1回のマウンドに俺は立った。春のマウンドとは違った緊張感が体中をめぐっている。
    同時に春のマウンドのことを思い出す。もうあの人格はいない。
    今日は相手を抑えることだけに集中できる。
    試合の準備が整い、試合が始まろとしている。
    「先頭バッター集中!」山倉が大きな声でみんなに向かって叫ぶ。
    「考也!打たせてこう。」優雅の声も聞こえる。
    その優雅の声に応えようとした時脳内に響いた。
    「久しぶりだな偽人格君。今日こそ試合中に京本優雅死ぬよ」
    「何で?お前はいなくなったはずだ。」鼓動が急に早くなる。 
    「あの時はお前を完全にコントロールするまでにはならなかったから一旦休息の為に引いただけだよ。」
    「それに夏のほうが観客多いしな。あとお前この間人格いなくなったと思ってたみたいだけど、お前に気づかれないように現れて準備もしてたよ。」
    得意げに話すもう1人の自分。
    どんどん意識が遠のいていくのがわかった。
    遠のく意識の中で優雅、そして仲間たちの姿が見える。
    審判のプレイボールの掛け声とサイレンが遠くに聞こえる。
    甲子園は大粒の雨が降り出していた。
    完

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    #野球
    #友情

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