
ピンクの海②
幼い妹と私、そして週に数日やってくる祖父母。それが私の日常だった。食事は祖母が数日分をまとめて作り、祖父母が来ない日は私が電子レンジで温めて食卓に並べる。
四人掛けのダイニングテーブルは、当時の私にはあまりに大きすぎて、寂しかった。妹を子供用の椅子に座らせることもおぼつかず、結局おままごと用の小さなテーブルに食事を並べて二人で食べた。 妹を守るのは自分の役目だと思っていた。けれど、そのせいで友達と遊べず、習い事にも行けない不自由さを感じていたのも事実である。
母は妹の世話をする私を見て「お姉ちゃんだもんね、これからも頼んだよ」と言った。母にとって、私が妹の面倒を見るのは「姉」という役割における当然の義務なのだろう。けれど、私は自分が望んで妹の面倒を見ているのか、役割としてそうしているのか、わからなくなってきていた。きょうだいがいれば誰もが抱く寂しさだと理解はしていても、私だけが家族から疎外されているような感覚が消えない。父とは血がつながっている。なのに、父と母と妹という完成された輪の外側に、私だけが「よその子」として立たされているようだった。
そういった環境の中で、自分の人生を生きたいという思いは、日に日に強くなった。だから高校進学を機に家を出ようと考えるに至った。だが、その決意は母の一言で儚く散ることになる。
「あんたがいないと、愛香(あいか)が一人になっちゃうよ。おじいちゃんたちももう歳だし、免許を返納したら今までみたいには来られない。家を出るのは、大学に行く時でいいじゃない」
最後の一言だけ、さも娘を案じているかのように付け加えられた。普通、中三の娘が家を出たいと言えば、まずは理由を心配するものではないか。母の関心はどこまでも私ではなく、家庭の維持にあるのだろうと思った。
「みんな東高に行くんでしょ? 偏差値もちょうどいいし、まきちゃんたちと一緒なら楽しいじゃない」
娘の心情には無関心なわりに、成績や友人の動向だけは把握しているらしい。周りの友人たちが東高を志望しているなんて話はしたことがないはずだ。
「……うん、そうだね」
振り絞って、それだけ伝えた。実際、まだ中三で経済力のない私には、抗う術がなかった。祖父母に直接相談することも考えたが「家族は一緒にいるのが一番だ」と諭されるのが目に見えている。私の居場所はここにしかない。けれど、ここにいては自分を生きられない。出口のない問いが、頭の中を何度も巡った。