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オレ様監督の言うことには!第1話「ナルシストはほどほどに」

    1「ナルシストはほどほどに」

     

    僕の名前は 風祭 千早 。

    容姿端麗、高身長、高収入。

    ちなみに顔もいい。いや、かなりいい。

    この顔に産んでくれた両親には感謝しかない。

    子供の頃から、モテる人生を歩んできた。

    今までは“告白される側”だった。

    だが今日――

    僕は人生を賭けた告白をする。

    その相手は、隣を歩く 姫野 凪沙 だ。

    清楚で上品。

    まるで少女漫画から飛び出してきたような、ヤマトナデシコ。

    正直、彼女の隣に立てる男は僕くらいだと思っている。

    ……うん、今ちょっと自分でも引いた。

    ---


    「風祭さん! 見てください!」

    「ん?」

    「このペンギン、可愛いですよー!」

    水槽の前ではしゃぐ凪沙 さん。

    その姿すら絵になる。

    「ほんとだ。姫野さんみたいで可愛いね」

     決まった。

     今のは自然だった。

     爽やかで嫌味がなく、それでいて好感度も高い。

     完璧だ。

     心の中でガッツポーズを決める。

     すると彼女は、少し困ったように笑った。

    「もう、からかわないでください」

     照れてる。

     これは間違いなく照れてる。

     ……いける。

     今日の僕は完璧だ。

     そう確信した、その時だった。

     ---

    「カーーーーット!!」

    「……え?」

     突然、背後から怒号が飛んできた。

     驚いたペンギンが一羽、ズサーッと腹滑りする。

     ごめん、ペンギン。

     振り向くと、そこには見知らぬ男が立っていた。

     黒いキャップ。

     サングラス。

     無駄にデカいメガホン。

     どう見ても“クセ強監督”である。

     だが問題はそこじゃない。

     顔が――

     僕だった。

     ---

    「俺?!!」

    「はいNG〜」

    “僕監督”は面倒臭そうに台本をめくる。

    「今の冒頭のナレーションみたいなやつ、なに?」

    「え?」

    「爽やか気取ってるけどさ」

     監督はため息を吐いた。

    「ナルシスト漏れてるから」

    「うっ」

     図星だった。

    「あと、姫野さんへの台詞。アドリブ禁止」

    「アドリブ?」

    「台本には『そうだね』しか書いてないから」

     監督は僕を指差した。

    「なにあのキザな台詞」

    「え?」

    「“姫野さんみたいで可愛いね”って。あれ引いたよ」

    「引いてないだろ!」

    「何人かブラウザ閉じた」

    「ブラウザってなんだよ!」

     監督は深いため息をつく。

    「いい? ナルシストは用法用量を守らないと事故るの」

    「薬みたいに言うな!」

    「というか、台本って何なんだよ!」

    「え、主演なのに持ってないの?」

     監督がパンッと手を叩く。

    「スタッフー! 主演に台本!」

     するとどこからともなく黒子が現れ、スッ……と僕に台本を差し出した。

    「そこは黒子なんかい!」

     なんでそこだけ演劇スタイルなんだよ。

     ---

     半信半疑のまま、僕は台本を開く。

     すると次のページには――

    『テイク2』

     とだけ書かれていた。

     怖い。

     雑なのに圧がすごい。

    「次は台本通りにやること。はい、よーい……アクション!」

     強引すぎる。

     ---

    「風祭さん! 見てください!」

    「このペンギン、可愛いですよー!」

    「……そ、そうだね」

     台本通りに返す。

     すると凪沙 さんは、ぱあっと顔を輝かせた。

    「あ! あっちには風祭さんみたいなペンギンがいます!」

     目線を向ける。

     そこには、水面に映る自分を見ながら、首の角度をキメているペンギンがいた。

    「いや!あれ絶対ナルシストだろ!」

     思わず素でツッコむ。

    (しまった。)

    (やってしまった。)

     しかし、凪沙 さんは目を丸くしたあと、

    「ふふっ」

     と吹き出した。

    「風祭さんって、面白いですね」

    「……思わず素が出たよ」

     凪沙さんは一瞬きょとんとして、

     それから柔らかく笑った。

    「そんな風祭さんも、好きですよ?」

     ドクン、と心臓が跳ねた。

     思わず監督を見る。

     監督は無言で頷いていた。

     ……まさか。

     嫌な予感がして、僕は震える手で台本を確認する。

     そこにはしっかり書かれていた。

    『そんな風祭さんも好きですよ』

    「台本通りなんかい!」

     ときめきを返せ。

     ---

     僕は観念して、最後の台詞を口にする。

    「姫野さんが笑ってくれるなら、良かった」

     数秒の沈黙。

     そして――

    「カーーーーット!!」

     監督が勢いよく立ち上がる。

    「いいねぇ!! 今のは良かった!!」

    「疲れたんだけど……」

    「はい次回の台本」

    「え?」

     渡された表紙には、こう書かれていた。

     ---

     第2話

    『ナルシスト、遊園地で死す』

     ---

    「待て待て待て待て!!」

    「僕、死ぬの?!!」

     監督はニヤリと笑う。

    「この通り演じないとね」

    「失敗するよ?」

     その笑顔だけが、

     なぜか少し寂しそうに見えた。


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