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Photo byarisam

童話 なんにもないないじいさん

    むかしむかしあるところに
    『なんにもないじいさん』が住んでいた。

    名前は定吉というのだが、ある時からなんにもないじいさんが、「わしゃ、となり村の桃太郎じいさんのような勇気はない、山の向こうの村の枯れ木に花を咲かせたじいさんのように特技もない『なんにもないじいさん』じゃ。」と口癖でいうので、村のみんなもいつの間にか定吉を『なんにもないじいさん』と呼ぶようになった。

    ある日なんにもないじいさんがいつものように畑仕事をしていると、村の若い娘たちが頭に赤い風呂敷を巻いてニコニコしながら通り過ぎていくのを見かけた。
     
    なんにもないじいさんは不思議そうにその娘たちを眺めていたので、その娘たちはなんにもないじいさんに気づき話しかけてきた。

    「なんにもないじいさん、こんにちは。
    私達を不思議そうに見ているけど、もしかして、この赤ずきん知らないの?」

    なんにもないじいさんは、より不思議がって娘たちにたずねた。
     「こんにちは、娘さんたち。赤ずきんとはその赤い風呂敷かい?頭でもみんな痛いのかい?」

    そう話すと娘たちは一斉に大声で笑いだし、こうやってなんにもないじいさんにいった。
     「おかしなこと言うね、なんにもないじいさんは。村のかわら版見てないの?これは、海の向こうの女の子がかぶっていた、赤ずきん。っていいたいけど、この村には無いから赤い風呂敷を巻いているの。
    その赤ずきんって女の子が、海の向こうのある村で狼に食べられたけど、男前の猟師に助けてもらったそうだよ。その話がここの隣の隣の隣の大きな海辺の町で有名になってさ。

    女の子は赤いずきんをかぶって、男は頭に獣のほっかむりをするのが人気なんだよ。私達も『えすえぬえす』っていうかわら版を見て、みんなで真似しているんだよ。」

    なんにもないじいさんは、『えすえぬえす』も『赤ずきん』も『獣のほっかむり』もはじめて聞いたので、なにがなんだかわからなかった。

    そんな困った顔を見て、娘たちは更にこういって帰っていった。
    「なんにもないじいさんも、『えすえぬえす』やればいいのに。誰でも自分たちのことを教えられるし、色んなことを教えてもらえるよ。なんにもないから、『なんでもしってるじいさん』になるかもよ。」

     若い娘たちから赤ずきんの話や『えすえぬえす』のこと聞いた次の日から、なんにもないじいさんの周りには、赤い風呂敷を巻いているの女と獣のほっかむりをしている男の人だらけになった。

    生まれたての赤ちゃんから、なんにもないじいさんと同じ年の村の長老まで、みんなが赤ずきんの話を知り、赤ずきんや猟師の真似をしていた。
     
    村の掲示版には、村人の『えすえぬえす』と言われるかわら版がびっしり貼ってあった。なんにもないじいさんは、その『えすえぬえす』がなぜか怖く思えて、一度も見ることはなかった。

    それから数日後、不思議なことが起こった。

    それは、赤ずきんと猟師の格好をしていた村人が今度は全く違う格好をしていたのだ。隣の家に住む夫婦に聞くと、
    「山の向こうの村で鶴を助けた男がきれいな嫁さんをもらったそうだ。しかし、その嫁さんは、不思議なきれいな布を機織りでこしらえ、男を喜ばせたかと思ったら、夫婦げんかでいなくなったそうだ。

    その話が『えすえぬえす』で広まってから、女は不思議な布を織れば有名になれると一生懸命機織りをしておる。男はみんな、山に怪我した鶴がいないか探しにいっておる。

    わしも三日前から寝る間も惜しんで探してるのじゃが、怪我した鶴はおらん。クタクタになるばかりじゃ。ばあさんは、機織りをしすぎて腰を痛めて寝ておる。ばあさんの薬代のためにも、今日も鶴を探してくるつもりじゃよ。」

    なんにもないじいさんは、村人がどんどん疲れていくのを見守りながら、畑を耕し、花や木を楽しみ、鳥の声に耳を傾け、毎日変わらずとも穏やかな毎日を過ごしていた。

    一方、村人はますます『えすえぬえす』の話に夢中になり、みんな競うように新しい話を探し、他の村人に見せびらかし、また別の新しい話を探し、みんなで真似をして、「似ている」「似ていない」「そのかわら版は嘘だ」「いや本当だ」と、昔の仲の良い村ではなく、いがみ合うようになってしまった。

    そんな村人が『えすえぬえす』に夢中になってから一年経った頃、いつものようになんにもないじいさんが畑仕事をしていると、小さな子どもたちが十人ほど、なんにもないじさんのところに遊びに来るようになった。

     「なんにもないじいさん、はなさいたね」
     「なんにもないじいさん、おさかなとって」
     「なんにもないじいさん、あったかいね」
     「なんにもないじいさんといるとたのしいね」

    それを見ていた別のこどもたちも、そしてとなりの村や、更にとなりの村のこどもたちも、なんにもないじいさんのところに来て遊ぶようになった。

    なんにもないじいさんは、その理由をある女の子から聞きいた。

    「あのね、おっとうも、おっかあも、あたしのためだっていって『えすえぬなんとか』ばっかりやってる。あたしは、まえの『なんにもないおっとうとおっかあ』がだいすき。

    だれかのまねしているおっとうとおっかあは
    さみしいきもちになる。
    ここはたのしいよ。」 

    なんにもないじいさんは、こどもたちの気持ちを聞いて、あることをすることにした。

    そのあることをした途端、村人は夢中になっていた『えすえぬえす』をお休みし、村人の生活に『えすえぬえす』を上手く取り入れて、ますます楽しい生活を送ることとなった。そのあることは…なんにもないじいさんがはじめて『えすえぬえす』にかわら版を書いたのだった。

    【ここのかわら版に、村の笑顔の絵を載せてください。まずは、なんにもないじいさんと一緒にあそんでくれているかわいいこどもたちが描いた皆の笑顔の絵をみてください。

    みなさん、この顔になっていますか?
          なんにもないじいさんより】

    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

     
     

    tora

     
     
    東北から見える日々を、少しおすそわけ。 文字や絵や写真で、ウキウキをおすそわけ。 #ボランティア地域ガイド #イラスト #エッセイ

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