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朝日が差す床を 第10話 朝日が差す床を

    正式な停止命令が来たのは、夜明け前だった。
    封筒ではなかった。端末への通知だった。都市運営局からの公式文書。カメダが開いた。
    「活動停止命令、および登録審査の最終通告です」
    全員が起きていた。眠れなかった。
    「期限は」さび先輩が聞いた。
    「本日正午です」
    午前三時だった。九時間ある。
    「選択肢は二つです」カメダは続けた。「登録して制度内で活動を継続するか。または全活動を停止するか」
    「登録したら何が変わる」トラニャンが聞いた。
    「作業範囲が制限されます。記録の提出義務があります。事故時の全責任を負います」
    「変わらないじゃないですか」
    「今より狭くなります。でも、続けられます」
    沈黙があった。

    カメダが先に言った。
    「登録すべきだと思います」
    誰も驚かなかった。
    「現実的に考えて、続けることが最優先です。制限を受け入れれば、活動できる。理想より、継続です」
    トラニャンが床を見た。
    「でも、制限の中でやるって、今と同じことできないっすよね」
    「できません」
    「じゃあ、また取りこぼすじゃないですか」
    「取りこぼしながらでも、続ける方がゼロよりましです」
    トラニャンは答えなかった。
    ハナはさび先輩を見た。
    さび先輩は窓の外を見ていた。街灯が一本だけ、まだ点いていた。
    「先輩は」
    さび先輩は振り返らなかった。
    「お前が決めろ」
    それだけだった。

    ハナは登録申請書を手に取った。
    カメダが用意していた。用紙はすでに印刷されていた。記入欄には、拠点の住所、活動内容、代表者の名前を書く欄があった。
    代表者。
    ハナの名前が入るはずの場所だった。
    ペンを持った。
    守ることを選べば、残らない。残すことを選べば、守れない。
    老婆が転んだ夜のことを思った。三件同時に依頼が来た夜のことを思った。それでも動いた夜のことを思った。
    ペン先が紙に触れた。
    そのまま、止まった。

    夜明けが来た。
    東の空が白み始めた頃、ハナは拠点の引き戸を開けた。
    段ボールの看板がある。「街の清掃相談所」。少し曲がった文字。自分が書いた。
    モップを手に取った。
    床が汚れていた。
    磨き始めた。
    朝日が差してきた。
    申請書は、机の上にあった。
    サインはまだない。
    さび先輩が拠点に入ってきた。何も言わなかった。隣にしゃがんで、道具を取った。
    二人で、磨いた。
    トラニャンが来た。カメダが来た。
    誰も何も言わなかった。
    四人で、磨いた。
    申請書は、まだそこにあった。
    ペンも、まだそこにあった。
    朝日が差す床を、ハナは磨いていた。

     
     
    「まず、試してみる」が私のスタイル。 うまくいったこともあるし、失敗したこともある。 その記録をここに残していきます。🐾

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