【新連載】連作短編「追憶レゾナンス」第一話・第二話公開のお知らせ
あらすじ
夏のお盆休みに、あることを考えながら歩いていた男性は、ふと見慣れない建物を目にします。
その建物に入ると、初めて出会った老人から、いわくつきの絵にだけは触れないようにと、注意されます。
しかし男性は、その禁忌を犯してしまって──。
それぞれが抱えている想いに触れる、連作短編です。
新作をようやくお届けできて、安心と緊張がないまぜになっています。
まずは、第一話と第二話を掲載しました。もしお時間があれば、第一話の冒頭をご覧いただけると幸いです。
(※この作品を含めて、私個人のサイトで全文ご覧いただけます。この記事では、冒頭だけを抜粋していますので、もしご興味を持っていただけましたら、どうぞお立ち寄りください)
【ここからが冒頭です】
「追憶レゾナンス」第一話「時枝匠篇」
一
古風な木造の町並みが、彼方まで軒を連ねている。
平屋か、二階建ての瓦葺きの屋根が並び立ち、町屋の出格子が石畳の通りに、わずかながらも突き出て、存在を主張していた。
人家と町屋が混ざり合う町並みが、どこまでも続いている通りは、なんとも趣のある風景だが、それに誘われて横道に入ってしまえば、ともすれば袋小路の中にとらわれて、出られなくなってしまいそうな雰囲気すら醸し出している。
時折、甘い匂いやお茶の香りがただよってくるのは、茶屋や土産物の店が点在しているからで、普段よりは人通りがある。
お盆に入った夏の昼下がりに、刺すような日射しを浴びていると、一休みでもしたくなるというものだ。
しかし時枝匠は、それらに目もくれることなく、長方形の平石が交互に並ぶ石畳の上を、黙々と歩いていた。
季節には似合わない真っ黒な半袖を着て、紺色のジーンズのポケットに手を突っ込み、滴る汗をぬぐうこともなく進んでいた。
その伏せがちな視線の奥には、なだらかな坂の始まりが見えてくるはずで、その先が匠の目的地だった。
この通りは、江戸時代の町並みを残しているらしく、もし関心がある人なら、まるでタイムスリップでもしたようだと、喜んだのかもしれない。
しかし興味がない匠は、濁ったような目で、照りつけてくる太陽をにらもうとした。
そんな匠の目に、ふと高くて先が尖った塔のような建物が映り、止まることのなかった歩みが緩やかになった。
その左側にある建物は、町屋と同じで木造のようだが、黒い漆が塗られたような色で、それにふさわしい異様な存在感を放っている。
平屋や町屋が並ぶばかりで、こんな建物があれば目立つに決まっている。何度も訪れていた匠なら、さすがに気づくはずだが、まったく見覚えがなかった。
目的地は違う。
それなのに匠は、塔のような建物に興味を抱いていた。
その建物まで続いているであろう細い小路まで来たところで、匠はようやく足を止めた。
ポケットから手を出して、引き輪のチェーンがついた懐中時計を見ると、十三時を過ぎた頃だった。
「この奥か……」
そんな独り言をつぶやいた匠の額から頬にかけて、一筋の汗がつたっていく。
匠はその突き当たりにある建物を、しばし見つめた。
眺めていても遠近感が狂いそうで、遠いのか近いのかも判然としない。それでも目が離せなかった。
匠はついに方向転換して、その細い小路に足を踏み出した。
進んでいくと、さっきまでよりも石畳が荒くなっていき、形や配置もいびつだ。
まるで寂れた河原でも渡っているようで、右に曲がったり左に曲がったりと忙しく、一本道なのに、森の中に一人で迷い込んでしまったような寒気がした。
もう甘い香りが、鼻をくすぐってくることはなかった。
【ここまでが冒頭です】
読んでくださった皆様へ
冒頭をご覧いただき、ありがとうございました。
これからひと月ごとに、二話ずつ更新していく予定です。楽しみにしていただけると、とても嬉しいです。
続きは以下のサイトから、すべてご覧いただけます。お時間のあるときに、どうぞお越しください。
初めてnoteに触れて、作品をこうしてお届けできたことが、とても感慨深いです。
私の物語の存在に気づいてくださったことに、心から感謝申し上げます。
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