見出し画像

長編小説「桜」のご紹介



あらすじ

 いじめにあっている中学生の男子が、同じクラスになった女子との再会によって、思わぬ世界の姿を目の当たりにします。

 桜の舞い散る満月の夜に、彼は何を見て、どんな選択をするのか。世界を駆け抜ける二人を描いた、青春長編です。


 冒頭から、ショッキングな描写になっているかもしれませんが、もしよろしければご覧ください。

(※この作品を含めて、私の個人のサイトで全文をご覧いただけます。この記事では、冒頭だけを抜粋しています)


【ここからが冒頭です】

「桜」

一

 目の前の光景は、まさに阿鼻叫喚だった。

 教室から逃げ惑うクラスメイトに、血を流して倒れるあいつら。床を見下ろすと、真っ赤に染まっている。

 クズの取り巻きどもは、なおさらタチが悪い。
 大して手を汚さぬまま、陰口を叩いて人を貶めることばかり考えて、何の咎を受けることもない。

 煽るだけ煽って嘲るような奴らに、どれだけの人が苦しんで死に追いやられたのだろうか。だから俺が、天誅を下すのだ。

 やり遂げた俺は持っていた刃物で、首を掻っ切る。俺の体は風船から空気が抜けていくように萎んで、息絶える……。


 この想像がいつも、俺の頭から離れない。
 ぼんやりと俺は、想像したことをノートに描きなぐっていた。教師の声が、右から左へ流れていく。

「山下、当てられてるよ」

 制服の裾をまくっていた腕をゆすられ、横から小声でそう言ってきたのは、中学二年に進級して同じクラスになり、さっそくの席替えで久しぶりに隣になった、桜月霞だった。

 同じ小学校からこの公立の桜坂中学校に入学したが、俺から話しかけることはほとんどない。
 でも桜月は誰にでも分け隔てなく話しかけるタイプで、先生やクラスメイトからの人望も厚いようだった。

「……すみません、聞いてませんでした」

「だから成績が悪いんじゃないか?ちゃんと聞け」

 どこからか嘲笑う声が聞こえ、俺は舌打ちでもしそうになりながら、胸元に伸ばした片手を当てて、桜月に向かってごめんというジェスチャーをした。

 しかし桜月は憂うかのような表情をしていて、さっと目を逸らした。もしかすると、この落書きでも見られたのかもしれない。
 俺はすぐにノートを閉じ、貧乏ゆすりが止まらぬまま、授業が終わるチャイムが鳴った。

「山下、放課後になったら、ちょっと校舎裏に来て」

「えっ、何でだよ。もしかして、あの落書き見た?」

「見た……?そういうわけじゃないけど、ある意味当たってるかも」

 桜月は小声でそう言い残すと、いつもの雰囲気に戻って他の女子たちと談笑を始めた。
 それなのに俺の心臓が、大きく脈打つのを感じた。


 今日の授業が終わり、俺は校舎裏に行こうとしたが、そこでいつも嫌な気分になる声が聞こえた。

 また同じクラスになった、林田だ。同じ人間だというのに、どうしてこんなにも聞こえ方が違うのか。

 桜月とはまるで違う、低く下卑た声だった。

「おい、山下!今日も付きあえよ」

 俺も部活にはほとんど行っていなかったが、林田も同じで付き合わされることがあった。
 ただ遊びに行くだけならまだしも、言うことを聞かないと嫌がらせが始まる。

 他のクラスメイトにも無視させ、仲間はずれにして取り巻きどもと俺を嘲笑うのだ。
 それを他のクラスメイトに強要できるだけの恵まれた体躯だけでなく、狡猾さも持っていた。

「ごめん。今日は用事があるから、また今度で」

 俺は心の扉をぴしゃりと閉めて、きわめて冷静に言い放った。

「はぁ?うざっ、調子乗んなよ」

 林田は機嫌が悪かったのか、眉間にしわを寄せて俺の首を掴んだ。

 囃し立てる取り巻きどもの声に合わせるように、首が締まって俺の体が持ち上げられていく。
 足はつま先しかつかず、息苦しさのあまり俺は呻いた。

 目を細める林田を俺はきっと睨みつけ、その血管の浮いた太い腕を掴んで離させようとした。
 しかし抵抗すると、より力を込めてくる。

 林田は昔から柔道をやっているらしく、俺を持ち上げることができるほど腕力が強い。

 でも柔道をしているのは、こんなことをするためではないはずだ。
 誰も止めようとしなかったところにドアの開く音がして、誰かが教室に入ってきたらしい。

「何してんの?山下、先生が呼んでるよ」

「ちっ、桜月か」

 林田の力は緩み、足がようやく地に着いた。
 俺は咳き込みながらも、桜月と一緒に教室を出て行った。

「げほっ、げほっ。せ、先生に呼ばれたなら、今日は校舎裏には行けないな。ごめん」

「謝らなくたっていいよ。それに先生に呼ばれたってのは、嘘だから。山下、やっぱりあいつらに酷いことされてない?」

「……そんなことないって」

「だといいけどね」

 颯爽と前を歩く桜月は、栗色のウェーブがかかった髪を後ろでくくっている。
 目の前にぶら下がった人参を追いかける馬のように、俺は揺れる髪に釣られて歩いた。

【ここまでが冒頭です】


読んでくださった皆様へ

 冒頭をご覧いただき、ありがとうございました。
 二人の行く末を見守っていただけると、嬉しく思います。

 続きは以下のサイトから、すべてご覧いただけます。お時間のあるときに、どうぞお越しください。
【追記:2025年12月21日に新サイトへ移転したので、URLを差し替えました】

#小説 #創作 #長編小説 #ライトノベル #いじめ #遠野圭人

いいなと思ったら応援しよう!

遠野圭人 いつもありがとうございます。もし作品を気に入っていただけましたら、応援していただけると、とても嬉しいです。創作を続けていくための活動費として、つかわせていただきます。