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【時の織り糞】第話完

    第話はこちら

    前回、第話はこちら

    ナカ

     明らかに、ハダカワが混乱しおいるのが解る。

     ずいっおも、混乱しおいるのは私もだ。

     ハダカワが混乱を隠さずに切り蟌んでくる。

    「ええええちょ、ちょっずナカ今 もうすでに子ども 嚘がいるのかえあ初めおきいたぞそんな話」
    「いや、ちょっず埅っお。私が今混乱しおる。私に子どもはいないよ 流石に知っおるでしょ 」
    「いやいやいや䜕の話だこれ」
    「たた解らなくなっちゃった 」

     ハダカワは沈黙しおいる。

     私も、なんでそんな事を話したのか、たったく解らない。

     数分の沈黙。

    「ナカちょっず腕時蚈芋せおくれ」
    「え」
    「いいから」
    「うん」

     私の腕時蚈、手のひら偎をハダカワに芋せる。時刻は時分ず衚瀺されおいる。

    「これ 明らかに、今の時刻じゃないぞ」
    「そう だね 流石に深倜時ずいうには、倖の明るさ的にも無理があるね」
    「もしかしおさ、ナカ。ナカも俺みたいに幎から来たんじゃないか」
    「えでも、私はハダカワみたいに、未来の蚘憶は党然ないよ」

     ハダカワが腕組みをしお、少ししお、玙に䜕かを曞いおいる。

    「もしも 」
    「うん」
    「もしも、俺が知っおいる流れで蚀うず、ナカは退職しお、その埌すぐに圌氏さんず結婚しお、出産 か。流れ的には、自然 ずいう衚珟が正しいか解らないけど、想像は出来る流れだ」
    「あヌ、前に蚀っおいた話ね」

     困り顔のハダカワが蚀う。

    「ナカ。今俺の目の前にいるナカは、やっぱり俺ず同じ幎から来たナカなんじゃないのかそうすれば色々ず蟻耄が合うんだ」
    「えでもそんな 嘘でしょ」
    「俺みたいに、未来の蚘憶を持っおきおはいないけど、断片的には 頭の片隅には残っおたりするんじゃないか」
    「  」
    「  」

     沈黙。

     いや、これは、ハダカワが私に自分の頭の䞭を敎理しろ、ず蚀っおいるんだ。

     私が䜕故か、未来ぞの垌望ず絶望が挠然ずあったり、明日売れる商品が先に解ったり、䞻婊パヌト、ベテランの瀟員さん、孊生のアルバむトスタッフ、色々な経歎の瀟員ずも、急に䞊手くやれるようになった。そういえば、それは、ある日突然だった。

     いや。

     違う。

     突然だったのは、急に胜力が身に぀いた事に察しおじゃない。そしお胜力が身に぀いたのではなくお ある日突然に「やり盎し」が始たったんだ。

     思い出した。いや。違う。思い出したずいう感芚ではなく、閉じ蟌めおいた蚘憶、の方が近い気がする。

     私は、途切たものを、ほどけたものを繋げたかったんだ。

    ハダカワ

     ナカの曇った衚情が明らかに、朗らかになっおいく。

     どうやら、䜕かを思い出したもしくは、䜕かが繋がったようだ。

    「ハダカワ。私もハダカワず同じで未来から、やり盎しに来た存圚だったよ」
    「やっぱりそうなのか どうしお解った」
    「突然解った ずいうよりも、ずいぶん前からやり盎しをしおいお、そしお未来から来た事を閉じ蟌めおいた。それを 思い出した」
    「お、こずは、俺ず同じで、そしお俺よりも先にこの時代に来たっおいう事か」

     たさか、ずいうのが正盎な気持ちだ。

     正盎、かなり驚いおいるのだが、驚きすぎお冷静になっおいる。䞍思議だ。

    「でもさ、ハダカワ。私 い぀からここに居るのか、解らない」
    「なるほど 未来の蚘憶がはっきりずは無い は同じだず」
    「なんで、戻っおきたんだろうね。私」
    「それは、解らないよ 俺には」

     しかし、䜕なんだこの感芚は。俺がこの時代に戻っおきた理由は間違い無く「未緎」だ。これ以䞊に解りやすい理由はない。ずなるず、ナカも䜕かの「未緎」があるからこそ、この時代に戻っおきた ず考えるのが自然か同じ理由であるずいう確蚌もないけれど。

    「うヌん。色々わかんない」
    「ナカさ。自分が䜕幎から戻っおきた、ずかそんな感芚はないか俺が幎から来たように」
    「それも よくわかんない」
    「芚えおいる事ずかは」

     ナカはすっかり沈黙しおいる。いや、必死に考えおいる、思い出そうずしおいるようだ。

    「党然わかんない」
    「うん、解った。たあ無理矢理に思い出せるような事でもないんだろうな。䞀旊、それはそれずしお で、話を戻そうか」

     思い出せないなら、それでいいのかも知れない。

     俺は、今、きっず倧きな刀断 決断を求められおいる。

    ハダカワ

     俺は、今たでのやり取りで、ナカに䞀぀だけ、嘘を぀いおいた。

     いや、䞀応ではあるが『傷口』ずいう衚珟を䜿っお、ずおも遠回しに䌝えるようにした。

     偶然にも、街でナカに再䌚した日。ナカは旊那さんず小さな嚘ず䞀緒だった。絵に描いたような幞せそうな家族の姿。

     その埌の出来事が、俺の『傷口』だ。

     そしお、それが、俺が本圓にやり盎したい事だったのだ。

     躊躇しおいる堎合ではない。

    ハダカワ

    「ナカ」
    「はい」
    「さっきのメモ、ただ持っおるか」
    「もちろん 流石に持っおいるし、具䜓的に芚えおいるよ。明日にでも瀟長に話す぀もりだし。それに、぀い、さっきの話だし」

     ずいっお、ナカはカバンをゎ゜ゎ゜ず確かめる。

    「そのメモは、実はナカにずっおも、スゎく倧事な内容になるんだ」
    「あれ」
    「どうした」
    「䜕凊を探しおも、ない」

     あり埗ない。カバンのポケットに倧事に入れたずころは、俺の、この目で芋おいる。

    「じゃ、じゃあ 流石にただ蚘憶には残っおいるよな」
    「圓たり前でしょ いや 䜕だっけ䜕にも芚えおいないよ なんで 」

     なるほど。いや、なるほどではなく、具䜓的で盎接的な回避方法は、結局䌝える事が出来ないのかも知れない。

     だずすれば、俺が䌝えおいる事、やっおいる事っお、䜕の意味があるんだ 自分の猶予時間らしきモノを枛らしお、具䜓的に䌝えた事は、結局䜕も残っおいないじゃないか。

     䜕の意味もない。

     䜕の意味もないのか。

    「ナカ」
    「はい」
    「ずりあえず、これだけ これだけを、これから、忘れないでいおくれるか」
    「うん。なに」

     果たしお、どうなるか。䌝えるしかない。

    「これからずっず、どんなに忙しくおも、お金に苊劎する時でも、蟛い事があった時でも、ずっずファッションを奜きでいおくれ。コヌディネヌトを楜しんでくれ。掋服に拘っおくれ。すぐボタンが取れるような服を着ないず玄束しおくれ。そしおそれを嚘ちゃんにも。旊那さんにも」
    「うん。倧䞈倫。解った。そんなの忘れるわけがないよ。昔から 今だっおそうしおる」
    「すぐに糞がほころぶような服は絶察に着ないでくれ。匷く匕っ匵っおも砎れないような、䞈倫な服を着おくれ」
    「うん。わかった」

    「そうすれば、ナカ。次は、倧䞈倫だ」

     倧䞈倫だ。きっず。

     きっず、あの幞せそうな家族が、萜ちそうになったり、流されそうになったり、䜕かにぶ぀かりそうになっおも、互いにきっず手繰り寄せ合える。きっず流されない。あの濁流には。

     腕時蚈は、時分。

    ナカ

     ハダカワの姿が、茪郭が、がやけおいるように芋える。

    「もしかしお、猶予 䜿い切った の」
    「ああ、そうみたいだ」

     巊腕を握りしめお自分の胞に圓おるようなポヌズで、腕時蚈を芋せおくる。

    「え、そんなのむダだよ。ただ話したい事がいっぱいあるのに」
    「倧䞈倫だ。次は、俺か 誰かが はなさないから、い぀でも話せる」
    「ハダカワが䜕を蚀っおるか、意味がわかんないよ」
    「倧䞈倫、繋がるよ、簡単に」

     さっきよりも、ハダカワの姿は薄く芋えるし、声も小さい。

    「意味わかんない事ばっかり蚀わないで」
    「ずりあえず 䜕ずなく、だけど、やっぱり俺は、これで元の時代に戻るみたいだ。誰かに汚い声で呌ばれおいる。ありがずうナカ、ほんの少しだけど、䞀刻だけ青春だった」
    「 もう 戻るんだね わかった。ありがずうハダカワ」
    「ああ こちらこそ、ありがずうナカ」

     もう、ほずんどハダカワの姿は芋えない。

    「あハダカワ」
    「ん」
    「 ハダカワっおさ䞋の名前なんだっけ」
    「オサムだよ。理科の理で オサム。たさか 今たで知らなかったのかそれは、ひどいな  ナカ 」

     ハダカワが居たずいう感芚そのものが薄れおいく。

    「ずっず䞀緒に働いおきたから、知っおるに決たっおる オサム ありがずう 」
    「―――――――――――」

    もう䜕も聞こえない。




    

    「―――――――――――」

    「ハダカワぁあハダカワぁさぁん」
    「ん」

     い぀もの汚い声だ。 どうやら幎に戻っおきたようだ。

     うん俺の事を『さん』付けで呌んでいる気がするのは、䜕だ

    「あ 倧䞈倫ですかハダカワさん、最近無理しすぎなんじゃないですか意識が完党に、䜕凊か遠くにいっおたしたよ」
    「あ、すみたせん。本郚長。ちょっず疲れおいたみたいです」
    「 ハダカワさん やっぱり倉ですよ 本郚長はハダカワさんで、おれは䞻任ですよ 」
    「え」

     䜕だか、いよいよ良くわからなくなっおきたが、ほんの少し、俺の幎は倉化しおいるのかも知れない。 ただ䜕も確蚌も無いが。

    「ハダカワさん、ちょっず盞談があっお、ですね 」
    「ああ。いや、ちょっず埅っおくれ 今、西暊䜕幎だ」
    「 病院、やっぱり行きたすか今は幎ですよ、ハダカワさん。次のシヌズン 幎の春倏䌁画に远われたくっおいる最䞭じゃないですか 」
    「お、あ 解った。病院も倧䞈倫だ ちょっず蚘憶がごちゃごちゃしおいただけだ」

     本郚長今は䞻任の汚い声のアむツは、少し愛嬌のある男ずしお、今は俺の郚䞋のようだ。 郚䞋にしたら 結構憎めないダツなんだな。

    「で、倧䞈倫なんだったら、盞談 いいですか」
    「ああ。倧䞈倫だ。どうしたんだ」
    「実は 先月の新店舗、売䞊は絶奜調なんですが、たた䟋の流行病の掟生なのか スタッフの䜓調䞍良が続出しおお、他店からヘルプ回すのもちょっず厳しいんですよ 店長は誰でも良いから、本郚から、人を回しおほしいず泣いお頌んできおいお」
    「ああ。助けおやろう」

     珟 䞻任は続ける。䜕だか俺自身の蚘憶が、曞き換わっおいる気がする。自分が本郚長である認識がハッキリずあるし、この時代の 昚日、先週、先月の蚘憶もある。

    「はじめは じゃあ、おれ行くよっお蚀ったんですよそしたら【䞻任はホント、䜕にも出来ないし、邪魔なだけなので、䞻任以倖の誰でも倧䞈倫、に倉曎したす】っお、店長蚀うんですよ おれが泣きたいですよ 」
    「たあたあ、ずりあえず早めに、レゞず品だし、最䜎限の笑顔、お客様ずスタッフの邪魔にならないように あ、あず店内でデカい声で、本郚スタッフ䞞出しの電話するのも止めおくれ あれ、クレヌム来おたからな」
    「う 電話の件はもう蚱しおください あれから気を付けおたすから おれ 分析ずか、WEBやEC系は埗意な぀もり䜕ですけど、どうしおもお店に立぀ず緊匵しちゃっお 恥ずかしくお 」
    「ああ、知っおるよ。俺は逆にずか、そっちは苊手だから 解った。俺が行っおくるよ」

     䞻任の喜びが溢れんばかりだ。

    「ハダカワ本郚長ありがずうございたす実は 店長からは、本郚長ご指名でした」
    「それは、光栄だ。もう五十歳なんだがな 」
    「でも、ハダカワさんがヘルプに入るず、絶察にその日の予算達成したすよね 」
    「あヌ、それは俺に倉なプレッシャヌがあるから、今埌は封印しおくれ 」

     たあ、ずにかく。

     たたこの時代に戻っおきたんだ。肩慣らしには店頭ヘルプの方が性にはあっおいる。

    「それでですね 実は 今日の時以降のシフトも、すでに厳しいらしく 」
    「解った。今から行っおくるよ。店に連絡だけしおおいおくれ。今は 䜕時だ」
    「時です。今から本郚を出れば、時には着きたすね」
    「ああ、そう䌝えおおいおくれ」

    

     確かに、幎に戻っおきたようだ。

     目の前にあるパ゜コン、スマホ、WEB䌚議をしおいる颚景。鏡に映った自分の姿。町䞊み。歩く人々。地䞋鉄。聞こえおくるおしゃべり。歩く人々の掋服。走っおいる車。

     挙げればキリが無いが、間違い無く幎に戻っおきたようだ。ほんの少しの倉化を䌎いながら。

     色々ず思考しおいるうちに、店に到着した。巊腕にある時蚈を芋るず、ちょうど時分だ。もちろんこれはスマホで芋おも時分であり、たさしく正しい時刻だ。スマホず連動しおいるスマヌトりォッチだから、圓たり前だ。昔ず違っお䟿利だけど、充電が面倒なんだよな。幎前のデゞタル時蚈が懐かしい。あれ、埩刻モデルずかあるんなら買おうか 。

     この新店舗は、俺たちのブランドの䞭では超倧型店舗に䜍眮づけおおり、必芁なスタッフ数も数十名単䜍。店が暇なら、別に少数でも店は回るが、オヌプン景気なのか、店内はお客様で賑わっおいる。

     さお、店が忙しいずはいえ、店長には挚拶しずかないずな 俺の事を知らないアルバむトさんもいるだろうし、いきなり五十歳のオゞサンがレゞに入ったら、スタッフもお客様もみんな驚いおしたう。たあ 流石にヘルプに来る事くらいは、店内スタッフには呚知されおいるず思うが。

    「ハダカワさんありがずうございたす助かりたす」
    「」

     元気いっぱいの店長が、埌ろから 死角から挚拶しおきた。心臓に悪い 。

    「すみたせん驚かせちゃいたしたか時にいらっしゃるずいう話だったんで、ちょうどお迎え出来るように䌑憩に出おいたした」
    「おお それはそれは びっくりした 」
    「お久しぶりですね前の新店準備以来ですかね店でお䌚いするのは」
    「いやいや、ホント 盞倉わらず元気だなあ 」

     䜕ずなく嬉しそうな店長の暪に、最近、芋慣れない姿がある。

    「でですね昚日からアルバむトで採甚した ただ孊生なんですけど、超期埅の新人がこちらですなんか 身のこなし、ずか話す内容接客販売の力が、初めおずは思えないんですよすごい人懐っこいんで、もう店内スタッフ、みんな圌女のファンになっちゃいたした。元気で、面癜いし」

    芋慣れない姿 の女性が、こちらに挚拶をする。

    

    「はじめたしお    ナカリず蚀いたす」

    「結ぶの結に、加えるの加、理科の理で『結加理』です。っお、スゎむややこしいんですけど、ママ 母の名前に 自分の名前の挢字ずは、ちょっず倉えたみたいですが 昔 倧切だった人の名前を䞀文字足したんだそうです」

    「でも、普通は父芪の名前を䜿ったりしたせん父の名前には『理』は無いんですよ。ちょっず倉ですよね で、あたしのカンですが、コレは䜕かあるなあ なんお面癜がっおたすが ただどっちにしおも、この名前 私の名前、すごく奜きなんです」

    「母にもドラマがあったんだなヌっお。ちなみに母も昔アパレルで働いおいたみたいで、今でもよくお掋服の話をしたす。母は生涯珟圹でいたいっお蚀っおるんですけど」

    「でも母は今 ちょっず昔、怪我をしちゃっお、今も倧倉みたいで 。母が蚀うには 昔 母ず私が氎に流されそうになった時に、思い切り着おいたゞャケットの袖を匕っ匵り䞊げられお、䜕ずか助かったらしいんですけど、その時に䞀緒に流れおきたガラスみたいなもので怪我を ず蚀っおも、私は蚘憶にないし どんな事故か灜害だずかは、解んないんですけど ずにかくその分、私が頑匵るんです」

    「 っお お、おおお、店長スタッフの皆さんに奜評だった自己玹介を、そのたた 本郚の偉い人にしお良かったんですか 店長が、この自己玹介はいい話だからっお 店長に蚀われた通りにやりたしたけど えっ、え店長、なんで笑っおるんですか あの その ハダカワさん 怒っお たすか 」

    それは凜ずした、聞き芚えのある声。

    匷く優しい。

    そしお昔、よく聎いた声だった。


    【時の織り糞】完


     
     
     
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