
ヤンヤン誘拐事件 第20話 さっさと
手錠が固定された机の向こうで、アンサングはタバコを灰皿に擦り付けた。
「どうだい、調子は?」
崔は、まっすぐと、アンサングに視線を上げた。
「罪を償います」
アンサングは頷き、腕を組んだ。
「お母さんにもう会えないかもよ」
「綾が生きられただけマシです」
崔は頭を下げた。
「綾はなんも悪く無いです。僕が無理やりさせたんです。お願いします。何とかして助けてやって下さい」
アンサングは頭を掻いた。
「二人とも、同じことを言ってるよ」
「あいつが嘘をついてます。バカなんです」
「本当に名前以外異口同音だよ。こんなことあるんだね」
「お願いします」
「笑えないよもう」
アンサングは立ち上がった。
「ま、動物園でも寄って行きな」
手首が一気に軽くなった。
「え?」見上げると、アンサングは手錠をしまって、扉を開けた。
「ま、今回は全部仕組まれてたらしいから」
「どういうことですか?」
「知らない方がいい」
崔は廊下に出された。アンサングは扉を閉め、崔を階段に促す。
「あの子も体調が回復次第出さすから」
「でも、ビザが…」
アンサングは、封筒を崔のポケットに入れた。
「問題は、君が出た後だ。東威の奴らに絡まれるかもしれない。そこまでは守れない。キリアンとゲオルグが殺された」
何も言い返せなかった。礼も出ない。あの東威人の冷たい目を思い出して、心臓が捩れるような感覚に陥った。
「エサーグにどう滞在するかは、君ら次第だから」
あっという間に、公安の建物を出る。
「これから、どうしたらいいですか?」
「勝手にしな。動物を誘拐するのは別に大した罪じゃねえよ」
崔が振り返ると、アンサングは笑う。
「でも変だよな。人の命はパンダより軽いらしい。別にパンダヘイトじゃないけど」
巨大な朝日を受けて立つ公安を前に、崔は言葉を見つけることができなかった。
「気をつけてな」
雲ひとつない、晴天だった。