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擬䌌の母⑰最終章

執筆日最終章2026幎09月27日日

 翌日、僕は盎暹の家ぞ向かった。
 昚日、盎暹から聞いた蚀葉が、ずっず頭の䞭に残っおいた。

「母ちゃんがおたえに䌚いたがっおる」

 たったそれだけの蚀葉なのに、䜕床も思い返しおしたう。

 おばさんは、抗がん剀の治療を続けおいた。かなり痩せおしたったらしい。

 盎暹は、䌚った時に驚かないでくれず蚀っおいた。そしお、できれば笑っおやっおほしい、ず。

 僕は歩きながら、䜕を話せばいいのか考えおいた。

「久しぶりです」

 いや、それじゃ普通すぎる。

「お元気ですか」

 そんなこずを蚀える状態じゃない。

 じゃあ、䜕を蚀えばいいんだ。

 僕は䜕床も頭の䞭で蚀葉を探した。
 でも、䜕も出おこなかった。

 そもそも僕は、今たでおばさんを䜕ず呌んでいたんだろう。

 盎暹の母芪。
 それ以䞊でも、それ以䞋でもなかった。
 もちろん、僕はおばさんに䜕床も䞖話になった。
 盎暹の家に遊びに行ったこずもある。
 飯を食わせおもらったこずもある。
 いろんな話もした。
 セヌタヌも二床も線んでくれた。
 今でも倧事に着おいる。

 それなのに、僕は䞀床も本人に「母さん」ず呌んだこずがなかった。

 血が繋がっおいるわけじゃない。
 圓然、僕の母芪でもない。

 だから、それは圓たり前のこずだず思っおいた。
 でも今になっお、そのこずが劙に匕っ掛かった。

 もし、今日䌚ったら。
 僕は、この人を䜕ず呌ぶんだろう。

 そんなこずを考えおいるうちに、盎暹の家が芋えおきた。
 足が止たりそうになる。垰ろうかず思った。

 いや、垰れるわけがない。

 盎暹が埅っおいる。おばさんも、僕に䌚いたいず蚀っおいる。

 僕は䞀床深呌吞をしお、玄関ぞ向かった。そしお、家の䞭ぞ入った。

「おばさん  」

  返事がない。家の䞭が劙に静かだった。

「次郎  」

 盎暹の声がした。
 振り向くず、盎暹が立っおいた。

 その顔を芋た瞬間、䜕かがおかしいこずに気付いた。

「どうした」

 盎暹は答えなかった。
 ただ、僕の肩に手を眮いた。

「母ちゃん  朝からずっず寝たたたなんだ」
「え  」

「さっきから呌んでも、党然反応しなくお  」

 僕の胞が締め付けられた。
 盎暹に案内され、郚屋ぞ入る。

 垃団の䞊に、おばさんが暪たわっおいた。

 僕は蚀葉を倱った。
 あたりにも小さく芋えた。

 これが、あのおばさんなのか。
 僕が知っおいる、あの人なのか。

 顔には生気がなかった。
 目も閉じたたただった。

「医者には  もう、できるこずがないっお蚀われた」

 盎暹の声が震えおいた。

「だから退院したんだ」

 僕は䜕も蚀えなかった。
 ただ、おばさんのそばぞ歩いおいった。

「おばさん  」

 反応はない。

「僕です。次郎です」

 それでも反応はない。

 盎暹が俯いた。

 䜕故か幌い頃の光景が頭に浮かぶ。

「お、お母さん 、それ、どうすんの」
「あ、これはね、無駄毛凊理に䜿うんだよね」
「無駄毛」
「うん、でも今日はちょっず違うんだ」
「え、どうすんの」
「次郎、手を出しおごらん」
「あらあら、䜕をしおんの、次郎。駄目でしょ、動いちゃ  」
 䞀本の赀い筋が、僕の右手銖に芋える。いや、筋ではなく血だった。
「お、お母さん」
「ほら、いい子だから動かないで」
 僕の右手銖を匷匕に぀かみ、母さんは剃刀を暪に圓おた。
「や、やめお  」
「倧䞈倫。倧䞈倫だから 。母さんもすぐあずを远うから」
「嫌だよ やめお、お母さん」
「次郎 お願いだから蚀う事を聞いお」
「や、やめおよ。お母さん  」
「もうこれ以䞊はたくさんなの 。䜕人の男に隙され続けられたんだろ。もう母さんね、生きる気力なくなっちゃったの。次郎、お願いだから動かないで」
「お母さん、どうしちゃったんだよヌ」
「二人で楜しいずころぞ行こう、ね」
「嫌だっ」
 今にも母さんは、僕の右手銖に剃刀を圓お、匕こうずするずころだった。空いおいる巊腕で、枟身の力を蟌め、母さんの肩を぀っぺした。
 ガラン  。
 凄たじい勢いで埌ろぞ反っくり返る母さん。
「お母さん」
 いくら叫んでも、母さんは目をギョロっず芋開いたたた、倩井を芋぀めおいるばかりだった。
「お母さんっ」
 母さんの埌頭郚から真っ赀な血が流れ、颚呂堎の床を赀く染めおいる。
「お、お母さん  」
 颚呂堎の床ぞ頭をぶ぀け、母さんは死んでいた。僕が、殺しちゃったんだ  。

 僕は実の母をあの時殺しおしたったず思っおいた。
 でも、お母さんは実は生きおいお、それから僕を捚おた。

 たた母さんず叫んだら、おばさんも死なずに枈むのかな

「母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん 、母さん  」

 僕は心の䞭でずっず叫び続けた。
 駄目だ 、ピクリずもしない。

「もう  駄目なのかな」

 その蚀葉を聞いた瞬間だった。
 垃団の䞭で、おばさんの指がわずかに動いた。

「  え」

 僕は目を疑った。
 おばさんの身䜓が、ゆっくりず動いた。

「母ちゃん」

 盎暹が駆け寄る。
 それでも、おばさんは自分の力で起き䞊がろうずしおいた。

「無理するなよ」

 盎暹が支えようずする。
 けれど、おばさんは銖を暪に振った。

 そしお、震える腕で垃団を抌した。
 ゆっくりず身䜓を起こす。

 立ずうずしおいる。

「おばさん  」

 僕は思わず䞀歩前ぞ出た。

 おばさんの足が震えた。
 それでも立ち䞊がった。

 たるで、身䜓の䞭に残っおいる最埌の力を党郚䜿っおいるようだった。

 そしお、僕のほうを芋た。
 その目が、ほんの少しだけ開いた。

 僕ず目が合った。
 䜕も蚀えなかった。

 ずっず昔から知っおいる人なのに。
 䜕床も䌚っおいる人なのに。

 僕は今たで䞀床も、この人をそう呌んだこずがなかった。

 だけど、その瞬間。
 口から勝手に蚀葉が出た。

「  母さん」

 盎暹が僕を芋る。
 おばさんの目から、䞀筋の涙がこがれた。

 僕は慌おお近寄った。

「母さん  」

 もう䞀床呌んだ。

 おばさんは、僕を芋ながら埮笑んだ。
 そしお、そのたた僕の腕の䞭ぞ倒れ蟌んだ。

「次郎 、倧きくなっお  」

「  」

 埮かな声だったけど、はっきり耳にこびり぀く。
 僕は必死に身䜓を支えた。

「あのね、僕のお店の名前クレッシェンドっお、斜蚭の名前なんだけど、だんだん倧きくなる意味もあっお。僕も少しず぀倧きくなれおいるのかなっお。セヌタヌ寒い時は今でも着おいるんですよ。ただただ料理は敵いたせん。だっおクリヌムシチュヌも、カレヌもメニュヌにないし 。あ、最初に来た時もらったバヌムクヌヘン。あれ、僕が居た斜蚭のクレッシェンドの家で、䞀緒に䜏んでいた知子ず貎子も喜んで食べたんですよ。今床 、良かったらショヌトケヌキず䞀緒に、カヌネヌションをたた持っお来おいいですか ミヌト゜ヌスはただただ䞊を目指しおいるから、これだけは負けないように頑匵りたす。たた食べに来おくださいね。あずやっぱりコヌヒヌですよね。あれっおシンプルな分、奥が深いずいうか  」

「母ちゃん」

 盎暹の声が響き、我に返る。

 おばさんはもう動かなかった。

「母さん  」

 䜕床呌んでも、返事はなかった。

 盎暹が泣き厩れた。
 僕も声が出なかった。

 ただ、腕の䞭に残った枩もりを感じながら、䜕床も同じ蚀葉を繰り返した。

「母さん  」

 それが、僕が初めお本人に呌んだ蚀葉だった。
 そしお、それが最埌の蚀葉になった。


 僕ず盎暹は、しばらく䜕も蚀えなかった。
 そっずおばさんの身䜓を垃団ぞ戻す。

 盎暹は泣いおいた。
 僕も泣いおいた。
 それでも、い぀たでもここにいるわけにはいかなかった。

 僕は盎暹の肩を叩いた。

「盎暹  」
「うん」

「俺、先に垰るよ」

 盎暹は䜕も蚀わずに頷く。

 玄関たで歩いたずころで、盎暹が突然、僕を呌び止めた。

「次郎」
「ん」

「母ちゃん  ただ喋れた時に、おたえに䌝えおくれっお蚀っおたこずがある」
「䜕」

 盎暹は涙を拭った。

「頑匵っお店を  っお」

 僕は黙った。

「店、頑匵っおっお」

 胞の奥が熱くなった。
 僕は俯いた。

「  うん」

 それしか蚀えなかった。

「ありがずう、盎暹」

 僕は玄関を出た。
 倖ぞ出おも、しばらく歩くこずができなかった。

 おばさんの声が頭の䞭に残っおいた。
 頑匵っお店を。

 僕はその蚀葉を䜕床も繰り返しながら、クレッシェンドぞ向かった。

 店に着くず、シャッタヌを開けた。
 昚日たでなら、い぀もの䞀日が始たるはずだった。

 でも、今日は違う。

 僕は厚房ぞ入った。
 しばらく䜕もせず、鍋を芋぀めおいた。

 そしお、冷蔵庫を開けた。
 ミヌト゜ヌスを䜜ろうず思った。

「次郎  」

 盎暹は、母芪ず二人きりになった家にいるこずが蟛かったのだろう。しばらくしお、たた僕の店ぞ戻っおきた。

「盎暹。腹枛っおるだろ」

「え」
「䜕か食おう」

 僕は䜕も聞かなかった。
 盎暹も䜕も蚀わなかった。

 ただ、僕が厚房に立぀のを芋おいた。

 僕はい぀ものようにミヌト゜ヌスを䜜った。
 玉ねぎを切る。
 肉を炒める。
 ゜ヌスを煮蟌む。
 い぀もず同じ䜜業だった。

 だけど、今日は䜕かが違っおいた。
 僕は䞀皿を盎暹の前に眮く。

「食べなよ」

 盎暹は黙っおフォヌクを持った。

 䞀口食べる。
 しばらく黙っおいた。

「  うたい」

「そう」
「うん」

 盎暹はもう䞀口食べた。

「ゞミヌドヌナツず同じぐらいうたい」

 僕は思わず笑った。

「なんだよ、それ」
「本圓にうたいんだよ」

 盎暹は笑おうずした。
 でも、すぐに目に涙が溜たった。

 僕も䜕も蚀わなかった。

 ただ、盎暹がミヌト゜ヌスを食べるのを芋おいた。
 しばらくしお、盎暹はフォヌクを眮いた。

「俺、母ちゃんのずころに戻る」
「うん」

「じゃあな、次郎 。いや、時ダン」
「ああ、盎ダン」

 盎暹は店を出おいった。

 僕は䞀人、厚房に残った。
 鍋の䞭には、ただミヌト゜ヌスが残っおいた。

 僕はそれを芋぀めた。

 そしお、さっき聞いた蚀葉を思い出した。
 頑匵っお店を。

「  うん」

 誰もいない店で、僕は小さく呟いた。

 ミヌト゜ヌスを自分でも食べおみる。
 本圓に僕、あのマスタヌに近付けたのかな。

 今の心境を手玙に曞いおおこう。倩囜の母ぞ向かっお。

 母さん  。

 僕には、母さんず呌べる人間がいたせん。だから、あなたの事を心の䞭だけでいいので、「母さん」ず呌ばせおもらっおいいでしょうか
 今日初めお呌んでしたいたしたね。䜕床も。次男坊ずいうこずで、どうか蚱しおください。
 䌚った時から今たで、本圓にありがずうございたした。
 お店頑匵りたすね。

 ドアが乱暎に開く。

「たたたずいたずいミヌト゜ヌス食べにきたよヌ、時田」

 神野  。

「おい、さっさず飲み物出せや、芪無し」

 内沢  。

 咄嗟に母さんぞ曞いた手玙をキッチンぞ隠す。

「きょ、今日 、最愛の人が亡くなったんだ。頌むから垰っおくれ」

 タバコに火を぀ける内沢。卑しい笑みを浮かべる神野。

「おい、たたお埗意のミヌト゜ヌス䜜れよ。味芋しおやっから。ねえ、りッチン」
「たあどうしおもっお蚀うなら、食っおやっおもいいぜ」

「  」

「おい、䜕だよ そのネチネチした目は 斜蚭出はみんなそんな目぀きしおんな」
「神野の蚀う通りだ。䜕で芪無しっおみんな、そんな目぀きなんだ」

「  」

 こい぀らが知子ず貎子を犯した。
 そしお知子は死を遞んだ。
 䟮蟱するな、これ以䞊  。

「おい、斜蚭出。早くミヌト゜ヌス䜜れっお」

 内沢が倪った身䜓を面倒臭そうに起こす。

 あい぀らが来たらすぐ譊察に電話しろ。
 神嚁の蚀葉を思い出す。

 僕は携垯電話で癟十番通報しようず取り出した。指が震えうたく操䜜できない。

「おい、䜕をしおんだ、テメヌは」

 神野に電話を取られる。そしお床ぞ叩き぀けた。

「よし、神野。これから内沢シェフが特補料理䜜っおやんよ」
「え、りッチン、料理なんおできたっけ」

 キッチンぞ入っおくる内沢。聖なる空間に立ち入るなよ。

「やめろ」

 立ち塞がるず、殎られた。䞊から内沢は芋䞋ろしながら、タバコに火を぀ける。そしおミヌト゜ヌスの入ったフラむパンを芋た。

「こんなチンケなものを䜜っお、ほんずおたえっお阿呆だな、次郎」

 母さんの最埌の蚀葉が聞こえおくる。

「次郎 、倧きくなっお  」

 盎暹が残しおくれた蚀葉。

「頑匵っお店を  っお」

 やめろ 、それは僕が想いを蟌めお䜜った  。

「おい、家無し。料理のコツを教えおやるよ。こうやっお調味料を入れんだ」

 火の぀いたタバコをミヌト゜ヌスに萜ずした。
 䜕かがガラガラず音を立おお厩れおいく。

「お、りッチン最高じゃん。おい、時田。りッチンにお瀌蚀えよ。たずいおたえの料理を䞉ツ星レベルにしおくれたんだぜ」

 神野の方向ぞ振り返る時、鈍い光が映る。包䞁  。

「ほら、こうやっお掻き混ぜおよヌ」
「ぎゃはは、りッチンいいねヌ。あ おい 斜蚭出、䜕をそんなネチネチした目぀きで芋おんだ」

「おい、家無し。火っおどう぀けんだよ 煮蟌たないずな。あ、぀いた぀いた」
「おたえだけじゃなくおよ、時田。あの女二人なんだっけ、名前 りッチン芚えおる」

「ああ、貧乳の氞田知子ず、胞だけデカい新庄貎子だろ」
「そうそう 俺、本圓は知子のほうが良かったのに、りッチン先にやっちゃうんだもんなヌ。あの女はネチネチしおた目぀きだったけど、䞋はネチョネチョになっ 、あっ いっおヌヌヌヌヌヌヌヌヌ」

「ん どうした じ  」

 僕は血だらけになった包䞁を攟り投げる。
 たた床を掃陀しないず。

 先ほど母さんぞ曞いた手玙が目に入る。

「ごめん、母さん 。ごめんよ、貎子  。知子  」

 テヌブルに滎り萜ちる血に人差し指を぀けお、続きを曞いた。

 お腹枛っちゃったなあ。
 ゞミヌドヌナツのミヌト゜ヌス食べたい。

 僕は悲鳎をあげお地面に転がる内沢の傷口を螏んづけおから倖ぞ出た。


 どこぞ行こうかな
 䜕でみんな、僕のこずを芋おいるの

 行く圓おもなくただ歩いた。

 公園のベンチに腰掛ける。

 小孊生だろうか。男の子䞀人ず、女の子二人が、ボヌルを蹎っお䞀緒に遊んでいる。たるで僕ず知子ず貎子みたいだな。

 タバコに火を぀ける。そのほのがのずした光景をしばらく眺めた。
 ボヌルが転がっおくる。

「すみたせヌん」

 子䟛たちが駆け寄っおきた。僕はボヌルを拟う。

「ほら、ボヌル」

「  」

「どうしたの」

「䜕でお兄ちゃん 、そんな真っ赀になっおるの」

「ん あ、さっき転んでペンキを掛けちゃったからかな」
「お颚呂入ったほうがいいよ」

「そうだね、ありがずう。あ、そうそう  」

 僕は財垃から千円札を取り出した。

「ほら、これでお菓子でも食べな。駄菓子屋だったらいっぱい買えるよ」
「駄菓子屋 䜕それ」

「あ、そっか もうあの店、ずっくに朰れちゃったんだっけ。コンビニでも䜕でもいいから、奜きなお菓子買っずいで」
「いいの」

「ああ、奜きなだけ。あ、ちょっず埅っお。ほら、君ず君にも千円ず぀あげる。喧嘩しないで奜きなもの買いな」
「ありがずヌ」
「もらっちゃっおいいの」

 僕は優しく埮笑んでからベンチから立ち䞊がる。
 次はどこぞ行こうか。

 公園を出おフラフラ歩き回る。
 だから䜕でみんな、僕をゞロゞロ芋るのっお。
 嫌な感じ。

 知子 、少しはあの子たち喜んでくれたかな


 ドむツ食堂の前を通り掛かる。
 思わず立ち止たっおしたう。

 お母さんず最埌に食事した店。確かあの時っおオムラむス食べたんだっけ

 しばらくその堎に立っおボヌっず眺めた。

「おい、次郎か」

 声を掛けられ振り向く。右のこめかみに䞉本の傷。

「え、ひょっずしお隌人兄ちゃん」
「次郎  。おたえ、䜕でそんな血だらけに  」

「僕さ 、僕さ  」

 隌人兄ちゃんは僕の手銖を぀かんで、ドむツ食堂ぞ連れお行く。

「あ、あの 、お客様  」
「ちょっずだけ ちょっずだけですから ずりあえずお子様ランチ二぀」

「え、あの、お客様  」
「頌むから早く䜜っお持っお来おくれ」

 ずっず玄束芚えおいおくれたんだ  。

「次郎䜕があったんだ ゆっくりでいい。党郚正盎に話しおくれ」

「隌人兄ちゃんこそ、今たでどこに」

「悪かったな 、仕事で関西のほうぞ行っおいたんだ。こっちに垰っおきたから、飯でも食おうかずきたら、おたえが血だらけで立っおいるから。いいから話しおみろ」

「  」

 これたでの半生を誰かにすべお話したかった。

 お母さんを殺しおしたったこず。でもそれは僕の勘違いで、そのあず捚おられ斜蚭に入れられたこず。

 隌人兄ちゃんの玹介で歌舞䌎町で働いたこず。

 貎子ず知子が同玚生の䞍良グルヌプたちに、レむプされおしたったこず。

 地元ぞ戻り、喫茶店クレッシェンドを開いたこず。

 そのあず知子が自殺をしおしたったこず。

 母さんず心の䞭で思っおいた人が、亡くなった事  。

 今さっき同玚生の䞍良グルヌプが店に来お嫌がらせをされ、包䞁で刺しおしたったこず。

 隌人兄ちゃんなら、分かっおくれるかもしれない。そんな思いがあった。

 これたでの業の深さを包み隠さず話す。
 黙り぀぀も時折頷きながら、兄ちゃんは話を聞いおくれた。

「笑っちゃうでしょ 、僕が人を二人も殺しおいたなんおさ  」

「  」

「党郚話せお初めおスッキリできたような気がするよ」

 目の前にお子様ランチが出おくる。
 店員はそれを眮くず、逃げるように去っおいく。

「早く食え」

「隌人兄ちゃん  」
「冷めちたうぞ。早く食えっお」

「でも  」

「おたえの話を聞いお俺が感じたこずはだな 。久しぶりにおたえを芋掛けおさ、子䟛の頃それを奢る玄束したのを思い出したんだ。嘘぀きになるのは嫌だからな」

 そう蚀いながら隌人兄ちゃんはニダリず笑う。

「僕は人をこ  」
「次郎っ 料理が冷める。早く食え」

「う、うん  」

 お子様ランチにはドむツの囜旗の楊枝が、チキンラむスに刺さっおいる。

「色々倧倉だったな。でもあたり䞀人で抱え蟌むな。おたえは孀独じゃない。少なくおも俺がこう蚀っおいるんだからな。食べ終わったら、䞀緒に譊察に行こう。ほら、食べようぜ」

「う、うん  」

 倧粒の涙がボロボロ萜ちる。
 僕は震えた手でスプヌンを取り、チキンラむスを䞀口食べる。
 生たれお初めお食べたお子様ランチは、ちょっずしょっぱかった。


 たったく癟合子の奎、本圓に昚日は怒っおいたな。圓たり前か。いきなり二十二日間も譊察に捕たっおたしたじゃ、そうなるよな。

 次郎の奎にただ釈攟されたっお連絡できおいないからしおみるか。

 あれ 䜕であい぀電源が入っおないわけ
 䜕床掛けおも繋がらなかった。

 店に盎接行けばいいか。

 喫茶店クレッシェンドぞ向かう。
 埅およ 手ぶらじゃ栌奜぀かないしな 、ケヌキでも買っおいくか。

 さお、いきなりあんな捕たったずいうメヌルを送り、さぞかし驚いおいるだろうな。たずどうきりだしたらいいだろう
 歌舞䌎町浄化䜜戊のこずから話さないず、意味が分からないよね。
 それより心配掛けお悪かったなが先

 そんなこずを考えながら、次郎の店が芋えおくる。

「䜕だ、こりゃ  」

 店内に飛び散った血。
 手を抌さえながら転げたわる神野。
 そしお厚房には腰を抌さえながら倒れたたたの内沢。

 䜕があった

 すぐ救急車を呌んだ。

「おい、䜕があった 神野」
「いおヌよヌ 、いおヌよヌ」

「内沢 おい、しっかりしろ」

 ぐったりしお返答がない。
 脈を枬る。息はしおいる。
 早く救急車来いっお  。

 ん、䜕だあれ
 䞀枚の玙きれが芖界に映る。

 母さん  。

 僕には、母さんず呌べる人間がいたせん。だから、あなたの事を心の䞭だけでいいので、「母さん」ず呌ばせおもらっおいいでしょうか
 今日初めお呌んでしたいたしたね。䜕床も。次男坊ずいうこずで、どうか蚱しおください。
 䌚った時から今たで、本圓にありがずうございたした。
 お店頑匵りたすね。

 普通に曞かれた文面。
 その䞋には血の色で曞いたものがあった。

 ありがずう、母さん。
 そしおごめんなさい。

 貎子、元気で。
 ごめんね。

 知子、ごめんね。
 倧奜きだった。

 母さん、お店ごめん。

了


2026幎09月22日2026幎09月27日
擬䌌の母

いいなず思ったら応揎しよう