
所見 【重力制御シリーズ】
「人類は重力の制御に成功した。
身体は、手つかずのままだった」
皮膚科の診察室。
医師はルーペを外した。
女は黙っていた。
左の乳房の真下。
直径二センチほどの赤みを帯びた小さな膨らみ。
腫瘍の中央に、ごく細い幾重もの輪。
「いつ頃から?」
「一週間くらい前からです」
「痛みやかゆみは?」
「ありません」
「最近、何か変わったことは?」
「……夫が部屋に籠りっきりで」
「……」
ルーペ越しにもう一度見た。
同心円がわずかに動いた。
机の上のボールペンがゆっくり女に向かって転がってきた。
沈黙。
カルテに一行書き加えた。
診断名:重力結節?
「先生」
「はい」
「これ……大きくなりますか?」
答えなかった。
ボールペンが机から落ちた。
着想:ザ・ブルード/怒りのメタファー(1979)