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鬌死骞䞃぀盛りの前倜

    この物語は、実圚の土地・史跡を基にした
    フィクションであり、神話であり、蚘録である。
    䞀぀の語りずしおの蚘録である。
    鬌死骞村探怜隊実圚する旧鬌死骞村を舞台にした物語


    あらすじ
    過疎化の進む鬌死骞村。
    岩手の山あいに、いく぀もの盛り土が残っおいる。
    蝊倷の時代から、制圧のたびに塗り替えられおきたこの土地で、誰かが䜕かを土の䞭に残した。
    戻る぀もりで。届ける぀もりで。
    珟代の調査者たちは、蚘録の空癜ず写しのズレを蟿りながら、制圧の圢だけが倉わり続けおきた歎史に気づく。
    今もたた、静かに人が枛っおいく。
    次ぞ枡せる者は、ただいるだろうか。

    本線玄4,400文字

    前文

    この土地では、
    䜕床も名が぀けられ、
    䜕床も消えた。

    残ったものず、残らなかったものは、同じ堎所にある。

    ——同じ圢では、残らない。


    「この土地、䜕床も倉えられおるらしいな」
    沢枡が、助手垭から蚀った。

    「倉えられおる、っお」
    ケンゞは前を芋たたた返す。

    「名前ずか、支配ずか。そういうの党郚だ」

    「ぞえ」

    川が、道に沿っお流れおいた。
    底の石たで芋える、冷たい氎だった。

    沢枡がぜ぀りず蚀う。
    「流れおるものは、残るのか」

    ケンゞは答えなかった。

    氎だけが、同じ速さで流れおいた。


    䞀 凊された男

    あい぀は、流れもんだった。
    飢饉の幎であった。
    米は実らず、人はみな、どこか様子を倉えずった。
    腹が枛るず、人は倉わる。
    それは、どの時代も倉わらぬこずよ。

    豊吉ずいう男がおっおな。
    盗賊ずしお捕らえられ、橋田原にお凊された。
    倩明五幎の、十䞀月のこずだった。
    されど、それで終わりではなかった。

    遺䜓は医垫に枡され、腹を開かれた。
    その折に、芋぀かったのだずいう。
    䜓に刻たれたものがあった。
    现かな線ず印が、手足にだ。

    医垫は、それを曞き写した。
    䜕か意味があるず芋たんだべな。
    その写しは、埌になっお豊吉の墓に刻たれた。

    捕たった理由を、誰も正確には知らなんだ。
    あの男が䜕をしたのか、しなかったのか。
    村では、いろいろなこずが蚀われた。
    されど、誰も確かなこずは知らなんだ。

    法が、そう決めた。
    それだけのこずだった。
    誰も、声を䞊げなんだ。

    䜓に刻む者もおる。
    土に刻む者もおる。
    あの男も、䜕かを残そうずしおおったのかもしれぬ。

    誰かに向けお。
    届くかどうかもわからぬたた。


    麓に車を停めお、山道を登った。
    道ず呌べるか、迷うくらいの道だった。
    枯れ草が足銖に絡んで、萜ち葉が積もっお、地面が芋えないずころもあった。

    ケンゞが先を歩きながら、時々振り返った。
    「こっちで合っおたすか」

    「たぶん」

    杉林に入るず、音が消えた。
    手入れされた杉が、真っすぐに䞊んでいた。
    地面に光が届かなくお、䞋草がほずんどない。
    頂䞊に、鉄塔が建っおいた。
    電力䌚瀟の、倧きな鉄塔だ。

    「なんか、思っおたのず違いたすね」
    ケンゞが蚀った。

    沢枡は、朚々の間から䞋を芋た。
    杉に遮られお、村はほずんど芋えなかった。
    川だけが、かろうじお光っおいた。

    「昔は、道が党郚芋えたんだろうな」

    「今は芋えなくなったんですね」

    「芋えなくなるもんだ」

    ケンゞは、鉄塔を芋䞊げた。
    しばらく、䜕も蚀わなかった。

    「でも」
    ぜ぀りず蚀った。
    「でも、あるんですよね。村」

    鉄塔が、颚に鳎っおいた。


    二 芁害の男

    あの山からは、道が芋えたんだ。
    朚々の間からな、北ず南を結ぶ道が芋えた。
    人が通れば、すぐにわかったそうな。

    小岩䌊賀守ずいう名の男がおった。
    芁害城ずも、鬌死骞城ずも呌ばれた城に、その男は䜏んでおった。
    葛西ずいう倧きな家の家臣でな、この土地を守る番圹だった。

    鹿島神瀟にはな、あの男が奉玍したずいう、䞍思議な石があった。
    牙のような圢をしおおっお、
    鬌の歯だずも、倩狗の爪だずも、蚀われおおったが、
    海の生き物の化石だ、ずいう者もおった。
    じゃがな、誰も海なんぞ芋たこずがねかった。
    確かめようもなかったんだべな。

    あの男は、この土地のこずをよく知っおおった。
    蝊倷の時代からある塚のこずも。
    田村麻呂が来る前から、この土地に人が生きおおったこずも。

    知っおおったからな。
    あの倜、あの男は塚を遞んだ。


    集䌚堎の資料宀は、叀い匂いがした。

    映矎が写真を出した。
    「これです」

    墚の線。现かい図圢。

    沢枡が芗く。
    「写しか」

    「豊吉を解剖した医垫が、刺青を曞き写したものだず蚀われおいたす。同じ図圢が、墓石にも刻たれおいお」

    地図が広げられた。沢枡が芋比べる。
    「䌌おるな」

    「はい。でも」
    映矎は蚀葉を切る。
    「ズレおたす」

    沢枡は、しばらく黙っお二枚を芋比べた。
    「重ねおみろ」

    玙を少しずらしお、重ねる。
    最初は、合っおいるように芋えた。
    だが——

    「なんだ、これ」

    映矎が息を止めた。

    どちらの写しにもない線が、浮かび䞊がっおいた。
    现く、尟のように䌞びおいる。
    沢枡は、その先を指でなぞる。

    そこには、䜕もない。
    地図にも、蚘録にも。

    「動いたな」


    䞉 䞃぀盛りの倜

    倜、動かす者がおった。
    倩正十八幎1590幎の、秋のこずであったず申す。
    祖父が、幌い頃に叀老から聞いた話ゆえな、どこたでが真かは、分からね。

    されど——
    豊臣秀吉の呜により、䞻君・葛西晎信が改易された。
    遠い䞭倮の論理が、この土地たで動かした。
    埌の蚘録には「散々ニ打砎ラレテ敗走シ」ずある。

    じゃがな、叀老の語りでは、その蚀葉ずは違う光景になっおおった。
    小岩䌊賀守は、倜、䞃぀盛りぞ来た。
    束明を持った男が、数人の䟛を連れお、塚のそばたで来た。
    䜕かを運んでおったずいう。ずいぶん重そうだったそうな。
    しばらく䜜業をしおおった。
    土を掘る音。朚を組む音。それから、たた土を戻す音。

    倜明け前に、男たちは去った。
    埌には、叀い塚の隣に、新しい盛り土が増えおおったそうだ。
    叀い塚ず、同じ圢にな。玛れ蟌むようにな。

    「なぜ、止めなかったんだ」
    ず、わしは䞀床だけ祖父に聞いた。

    祖父は、しばらく黙っおおった。それからな、
    「止めおも、意味はなかった、ず叀老は蚀うおおった」

    小岩䌊賀守は戻らなんだ。
    䞋芁害の豪蟲の家に匿われ、その埌、油田村ぞ移ったずいう。

    されどな。わしはずっず、こう思うおおる。
    あの男は、戻る぀もりだったんでねぇかずな。
    い぀か、必ずここぞ戻る぀もりで、土の䞭に䜕かを残した。
    誰かに受け取っおもらう぀もりでな。

    届くかどうかは、わからぬ。
    それでも、あの倜、あの男は䜕かを未来ぞ向けお投げたんだべ。
    戻れなんだ男が、それでも、投げた。


    倜だった。
    集䌚堎の、小さな郚屋。
    猶コヌヒヌが、テヌブルの䞊に䞉぀䞊んでいた。

    「来月、たた䞀軒廃屋の凊理があっおさあ」
    ケンゞが、手元の曞類を芋ながら蚀った。

    「今幎で䜕件目だ」

    「六件目ですね」

    窓の倖、倜の村は暗かった。
    灯りの数が、少ない。

    「田村麻呂が来た」
    沢枡が、ぜ぀りず蚀った。
    ケンゞが顔を䞊げた。

    「頌朝が通った。秀吉が仕眮をした。法が、豊吉を殺した。
    明治になっお、村の名前が消えた。
    そのたびに、人が枛っお、蚘録が塗り替えられた」

    「でも、村は残っおきたしたよね」
    ず映矎。

    「うん。残っおきた。今は、誰も刀を抜いおいない。呜什を出す人間もいない。でも——」
    ケンゞが、曞類を芋たたた蚀った。

    「人が、枛っおいく」

    「圢が、倉わっおるだけか」
    誰も、それを吊定しなかった。
    しばらく、䞉人ずも黙っおいた。

    「あの財宝」
    映矎が、ゆっくりず口を開いた。
    「䞃぀盛りに隠されたっお蚀われおるや぀、ただそこにあるんですかね」

    沢枡は、答えなかった。
    窓の倖の、暗い村を、芋おいた。


    四 䌝えるこず

    刀で来た者がおった。
    暩力で来た者もおった。

    されど、そのたびにな、誰かが、䜕かを次ぞ枡そうずしおきた。
    小岩䌊賀守は、土の䞭に残した。
    豊吉ずいう男は、䜓に刻んだ。
    祖父は、わしに語った。
    わしは、今、ここに語っおおる。

    届くかどうかは、わからぬ。
    でも、今床は、どうであろう。

    今床の制圧には、顔がない。
    刀もない。
    呜什を出す者もおらぬ。
    ただ、静かに、人が枛っおいく。

    次ぞ向けお、䜕かを投げようずしおおる者が、おるだろうか。
    受け取ろうずしおおる者が、おるだろうか。

    わしには、わからぬ。


    「もう䞀぀、芋぀かりたした」
    映矎が蚀った。

    「どこだ」

    「個人蔵です。公開されおいない資料で」
    封筒が机に眮かれた。少し叀い玙の匂いがした。
    「写しです。同じものの」

    沢枡が封を開ける。
    和玙が䞀枚。墚の線。现かい図圢。
    芋芚えがあった。

    だが——
    「違うな」

    二枚を䞊べる。
    最初は、合っおいるように芋えた。
    だが、少しずらすず、線が、噛み合わなくなる。

    「どっちが正しいんですか」
    映矎は銖を振る。
    「わかりたせん」

    「足されおるな。写したや぀が、繋いでいる」

    「繋ごうずしたのかもしれたせん」

    地図が広げられた。二枚の写しず䞊べる。
    䞀枚だけでは芋えなかった圢が、重ねるこずで浮かび䞊がる。

    「䞃぀じゃない」
    沢枡が蚀った。


    䞃぀盛りの前に、䞉人は立っおいた。
    地図ず写しを手に、盛り土を䞀぀ず぀確かめおいく。

    「  䞀぀、二぀、䞉぀  」
    ケンゞが、小さく数えた。
    「䞃぀、ですね」

    沢枡は答えなかった。
    もう䞀床、目を向ける。

    「いや」
    沢枡が蚀った。
    「六぀しかない」

    ケンゞが顔を䞊げた。
    「え」
    「さっき、䞃぀——」
    蚀いかけお、止たる。
    もう䞀床、芋た。

    今床は——
    「八぀、ある」

    誰も動かなかった。
    颚だけが、杉の梢を揺らした。

    「あれ、違うよ」
    声がした。
    振り返るず、少女が立っおいた。

    「そこ、足りおないよ」

    指をさす。
    杉林の奥、朚挏れ日の届かない堎所。
    地図には、䜕もない堎所だった。

    「ただあるよ」

    「䜕が」

    「揃っおないや぀」

    沢枡が目を向けた瞬間、少女はいなくなっおいた。

    颚だけが、杉の梢を揺らした。


    あかりの断片

    䞀 そこにあるもの

    そこは、い぀も同じだった。

    土があっお、少し盛り䞊がっおいる。
    数は、決たっおいない。

    䞃぀のずきもあるし、そうでないずきもある。
    誰かが数えるず、少なくなる。

    数えなければ、増える。


    二 曞いたもの

    䜓に曞いたものがあった。

    芋えなくなる前に、曞いた。
    曞いたものは残らない。

    写したものが残る。
    写したものは違う。


    䞉 ない堎所

    そこには、ない。
    前はあった。
    今はない。

    気づくず、ずれる。


    四 流れおいるもの

    氎は、動いおいる。
    同じ圢で、流れおいる。

    誰も動かしおいない。
    止めるこずもできない。

    倉えようずするず、別の圢になる。


    五 揃わないもの

    揃うこずはない。
    揃う前に、倉わる。

    それでも、揃えようずする。
    だから、違うものになる。


    終幕

    春だった。
    沢枡は、䞃぀盛りの前に立っおいた。

    杉林の䞭だった。
    朚挏れ日が、盛り土の衚面を滑っおいた。
    林の倖ずは、空気が違った。
    冷たくお、静かだった。

    いく぀かの盛り土が、䞊んでいた。
    圢が、埮劙に違っおいた。
    叀いものず、そうでないものが、混ざっおいるようにも芋えた。
    はっきりずは、わからなかった。
    沢枡は数えなかった。

    「あれ、違うよ」
    声がした。
    あかりが立っおいた。
    「そこ、前はなかった」
    指をさす。盛り土の䞀぀。

    沢枡が、杉林の奥を芋た。地図にない堎所。
    ゆっくりず近づいお、しゃがんだ。
    手のひらを、土に圓おた。
    春の日差しが届かない、杉林の奥の冷たさだった。

    少し、沈んだ。
    沢枡は、眉を寄せた。
    抌したわけではない。
    ただ、觊れただけだった。

    手を離す。
    土は、元の圢に戻っおいた。
    跡は、残っおいなかった。

    「流れおるものは、倉わらないよ」
    あかりが、ぜ぀りず蚀った。

    沢枡は、立ち䞊がった。
    朚々の間から、遠くに川が光っおいた。

    「この先、この村、どうなるんですかね」
    ケンゞが、盛り土を芋たたた蚀った。

    「わからない」

    「今たで、残っおきたじゃないですか」
    ず映矎。

    誰も、続きを蚀わなかった。
    振り返るず、あかりはいなかった。

    川の音が、遠くから聞こえた。

    氎は、同じ方向に流れおいた。


    この物語は、実圚する岩手県䞀関垂・旧鬌死骞村を舞台にした、
    蚘録・神話・珟代が織りなす物語の䞀線です。
    この村には、フィクションでは䜜れない地圢ず歎史がありたす。
    鬌死骞村の党䜓像は、【鬌死骞村探怜隊】ポヌタルペヌゞにお。
    地図・動画・神話・怪異蚘録が重なっおいたす。



     
     
    岩手県䞀関垂に実圚した旧・鬌死骞村。 史跡・文化財等の調査のため探怜しおいたす。 実際の珟地調査に基づく蚘録、 神話や䌝承等を基にした物語など、 ここに蚘録したす。 鬌死骞村探怜隊ポヌタル https://note.com/tom_g3x/n/n7ffe3c0c5caf

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