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恋愛今昔物語 第二章 「ちえ」㉝ 「うつ病」②

    「おい、福田死んじまったぞ、昨日、車庫で首吊ってるのが見つかったってさ」

    もう、何も考えられなくなりました。あの時に声をかけとけば良かったという後悔と、俺が声をかけたところで何も変わらなかっただろうという虚しさでいっぱいでした。

    それからしばらくして、内科を受診してみることにしました。

    上司には「内科を受診したいので有給をとらせてください」と言っておきました。

    入院設備のある少し大きめなクリニックで胃カメラの検査をしました。

    検査結果は、胃と十二指腸に潰瘍があるというものでした。

    しかし、この程度の潰瘍で食事がまったくとれなくなる事は考えづらいので、一度精神科を受診するように勧められました。

    上司には、「内科で精神科の受診を勧められたので、もう一度有給ください」と伝えておきました。

    一度、実家に帰ってタウンページで精神科を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。

    やっと「神経内科」を1軒見つけて受診してみると「うつ病」と診断されました。

    「うつ病?、うつ病ってなに?」当時は今のように精神病についてオープンになっていませんでした。

    その精神科の医師には「1ヶ月休みなさい。診断書に「うつ病」と書くとあなたの経歴に傷がつくかもしれないから「自律神経失調症」と書いておきます」と言われました。

    この間も「ちえ」とは毎週土日には会っていましたが以前のように楽しむことができませんでした。

    そして、とうとう「ちえ」と会うのが苦痛になってしまいました。

    「俺、しばらく「ちえ」と会えない」と電話しました。

    「それって、私とは別れたいってこと?」

    「違うよ。ちょっと忙しいだけだから⋯」

    「ちえ」は、私が浮気しているのか、新しい彼女ができたのかと疑っていました。

    そして「ちえ」と会わなくなって3週間ほどたった土曜日のお昼頃に「ちえ」が来ました。

    スーパーで買った食材を抱えて。

    「トクちゃん。久しぶりだね」

    「ああ」

    その頃は仕事を休んでいたのでヒゲもそらずにいました。

    「トクちゃん、どうしたの?ヒゲぼうぼうだよ」

    「うん⋯」

    「俺、病気になっちゃった。もお、俺のこと忘れた方が良いぞ」

    「「ちえ」別れよう」

    「なんで、私は絶対に別れないからね」

    「プロポーズしといて悪いけど、あれ取り消してくれ」

    「どうして?私のこと嫌いになった?」

    「そんなんじゃないんだ⋯」

    「俺、もうダメだ⋯。「ちえ」を幸せにできない。だから別れよう」

    「私を幸せにするってなんなの?私はトクちゃんの側にいないと幸せになんかなれないよ」

    「俺、もう仕事もできないかもしんない。だから別れよう。俺らも26歳だ。今ならまだ、間に合う「ちえ」はちゃんとした男と結婚して幸せになれ」

    「トクちゃん、私は絶対に別れないからね。トクちゃんが病気だとか働けないとか、そんなの関係ないからね」

    「それから、今日は泊まってくからね」

    「トクちゃん、何にも食べてないでしょ?凄く細くなったよ」

    「ああ、4kg痩せた。また、50kg台に戻っちゃったよ」

    「ちゃんと食べないとダメだよ、夕飯なに食べたい?」

    「ダメだ。帰れ、俺をひとりにしてくれ」

    「イヤだよ。今日の夕飯は私が作るから2人で食べよ」

    「余計なお節介はするな!帰れ!」

    「分かった、そんなに私が嫌いなら帰るよ⋯」と言って「ちえ」が玄関に向かいました。

    このまま帰すと2度と会えなくなってしまいそうで思わず「やっぱり、ここにいてくれ」と言ってしまいました。

    「やっぱり「ちえ」がいないと俺、自殺しゃいそうだ⋯」

    「トクちゃんの様子がおかしいのは、ずっと前から分かってたよ。私といても笑わないし、ほとんどしゃべらないし、Hもしたいって言わなくなったし⋯」

    「ねえ、私達、婚約したんだよ。苦しかったら私に話してよ」

    「⋯」

    「実は、「ちえ」に電話してから仕事行ってないんだ⋯」

    「うん。仕事なんて二の次だよ。市役所行くのがイヤだったら辞めればいいじゃん。トクちゃんなら病気が治ればなんでもできると思うよ」

    「その間は、私がトクちゃんのお世話するから。トクちゃんがダメっ言おうがヤダっ言おうが関係ないからね」

    「婚約者として、トクちゃんの面倒は私が見る。それが私の義務」

    「そうすることが私にとっても幸せなんだよ。トクちゃん」

    「うん。ありがとう⋯」

    その晩は「ちえ」が作ってくれた辛〜いカレーを食べました。

    夜になって2人で布団に横になりました。

    「ちえ」が裸になっても私のアソコはまったく反応しませんでした。

    「トクちゃん、手でしてあげようか?」

    「イヤ、いい。そんなことしても多分ダメだと思う」

    「だってトクちゃんもう1ヶ月以上Hしてなんだよ。溜まってるんじゃないの?」

    「その気になれないんだ」

    「分かった、無理にHしなくてもいいよ。このまま2人で裸でいるだけでも十分私は幸せなんだよ」

    「「ちえ」ゴメンな」

    「何言ってるの。トクちゃんの病気は2人で治して行こうね」

    「それから、明日起きたらヒゲそろうね」

    「じゃあ、お休み」

    「お休み」

    「ちえ」に帰れと言っておきながら「ちえ」とくっついてると安心する自分がいました。

    「もしかしたら、「ちえ」がいてくれれば病気は治るかも」そんな思いもしてきました。

    つづく



     
     

    トク

     
     
    元市役所職員で現在は介護士をしています。33歳の時に、職場の先輩職員のパワハラにより、うつ病を発症しました。以来、10数年間も再発を繰り返し、結局、市役所をクビになりました。 うつ病で失ったものはたくさんありますが、うつ病から得た物もたくさんあります。それを発信していきます。

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