メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byhanausagi33

旧き日の追憶、そして彼方

    櫻井とこ

    今の職場に異動して以来、初めて本社ラボに足を踏み入れた。
    先輩に試作品を届けるためだ。

    当時そのままにセキュリティゲートを通過する。
    何度も何度もロックが故障していたゲート。今日はスムーズに開いた。
    途中、別棟に立ち寄り試作加工メーカーさんに2年ぶりに依頼したものを引き取りしばし歓談した。

    「皆さん、散り散りになられましたね」

    旧職場からかなりの売上を上げていたであろう担当さんは、寂しそうに呟いていた。

    そのまま別れ、旧職場実験区近くの先輩のいる部屋へ向かう。

    当時設備がぎっしり詰まっていた旧職場実験区は「どんがら」と言っても差し支えないほどの空間が拡がり、他職場の実験場に生まれ変わっていた。

    16年。
    朝早くから夜遅くまでいた日は数しれず。

    試作品の出来に落ち込み、不具合要因を見つけて歓喜し、先輩と喧嘩寸前の口論をし、東日本大震災の揺れを経験し、後輩に自分の情けなさを謝罪しながら、いくつもの「我が子」とも言える製品を見送った場所。

    面影は、跡形もなくなっていた。
    まるで、今の会社での僕のようだった。

    ⛑️

    先輩にモノを届けてとんぼ返り。
    上司との週1面談だ。
    体調に波があることを伝えた上で、今回のプロジェクトの惨状を聞く。

    どうやら、決していつものことではないらしい。
    しかし、今回から解釈の間違いの見つかった『会社ルール』に則ってプロジェクトを進めたところ、今まで通りにいかなくなったのが実際のところのようだ。

    正論のままに進めて、その分余計な負担をかける。
    もちろん会社にとってルールは法律で、いろいろな事情から決められたものだ。

    そこに、弱小事業部の事情は考慮されない。
    どこかで感じたやるせない感情が胸をよぎった。

    肝心の僕の担当業務については、経験の少ないシステム仕様設計になりそうだ。動かし方を考える仕事。『カラクリ』の設計の機の希望からまた遠ざかってしまった。

    いいんだ。
    この部署に、いや、上司にささやかな恩返しをするんだ。今はそれでいい。

     
     
     
    道産子物書き| すのう杯2024グランプリ受賞| 第2回灯火杯言葉のチカラ賞受賞| KINDLE書籍「なんのはなしですか どうかしているとしか」寄稿|「なんのはなしです珈ZINE な編」寄稿 プロフィール画はきょうたのさん作、キャッチコピーは本田すのうさん作です。

    あなたへのおすすめ