
40社落ち東大生のリアルな面接不合格日記
もう40社は受けた。3月から始めた就職活動は季節を跨いで4ヶ月目に突入していた。
2次面接を受けるためだけに飛行機に乗って東京に来た。
「失礼します」
ドアを開けるとキシリトールの匂いが一気に鼻をつんざく。
視界一面おじさんだった。おじさんってこんなにキシリトール摂取するのか、とぼんやり思った。
面接でよくあるように長テーブルに横一列おじさんが座っているのではなく、小学校の机のように一人一つの机を持って私の椅子を囲うように6人のおじさんが座っていた。
ホモソーシャルってこういうことなのかもと思う。
7人目の司会のおじさんが「どうぞ」と軽く言う。
6人のおじさんは「あなたが入ってきたことに気づいてませんよ」みたいな無反応を決め込んでいる。私がこの時点でうっすらと「なんだこいつら」という敵意を感じた。
司会のおじさんが「先週ってお昼ごはん何食べたか聞かれましたか」と言う。
面接が始まった。今回もアイスブレイクが始まった。
私は「こんな面接では緊張しませんが?」という余裕の表情を浮かべながら「いいえ。先週はどこの駅から来たかという質問でした。」と余裕の微笑みをかます。
するとその瞬間さっきまで目を合わせようともしなかったおじさんたちが一斉に笑う。
「質問のレパートリーがないねえ」
一人のおじさんが司会のおじさんに冗談ぽく言う。
なんだこの内輪ノリ。私は一人取り残されたように感じながら、引き攣った笑顔を作った。ホモソーシャルなノリを全身で浴びた。
「では何か質問ある方はどうぞ」
司会のおじさんが言い、おじさんたちはまた黙り込む。先ほどの笑いが嘘のように場が静まり返った。
みんな私に興味ないんだな。そんな絶望を感じる沈黙だった。
どんな作品を作りたいかなど、定番の質問をされつつ、用意してきたことを必死で伝える。おじさんは相槌をしない。「うん」とも言わないし、うなづきもしない。ただ、つまらなそうな顔でこちら側を見ている。それがやりづらいのなんの。喋れば喋るほどに自分が喋っていることってつまらないんだろうなと自信をなくしていった。
「恋愛リアリティショーを見ているときは、キュンキュンしたりするんですか?」
「キュンキュンもしますけど、出ている登場人物の感情や考え方の癖、その背景などを考えたりすることが多いです」
なぜか笑いが起きる。
「全部を研究対象にしてるって感じなんだね」
またそういうキャラになってしまったと焦った。”東大”、”心理学専攻”という肩書きが揃うとどうしてもサイコパスじみた全てを見通すマッドメンタリストのようなイメージをもたれてしまう。日常生活を含めてこの手に何度も引っ掛かってきたので気をつけようと思っていたのにまたそうなってしまった。
もはやこのキャラを打開しようという勇気は残されておらず、「はは、ですね〜」と曖昧に笑うことしかできない。
「その感情を出さない感じって昔からなんですか?」おじさんがニヤリと笑いながら言う。面接では質問の意図を考えて喋るのが鉄則だと言うが、考えても意図はわからなかった。もうどうにでもなれと思い、思いついたままに喋る。
「小学校の頃は喋り方とかがわかんなくて、周りのお調子者の男子たちを見て、なんでこんなに喋れるんだろうって不思議に思ってました」
またおじさんたちが笑う。私はまた笑いの理由がわからなかった。
質問したおじさんが「面白いね」と顎を撫でながらにやりと笑った。
認められたような気がして嬉しかった。
結果は不合格で、この面接を振り返る度に鋭いキシリトールの匂いとそこに混ざるおじさんの匂いとおじさんの笑い声で、胸がうっとなるのだった。