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『校閲後の世界』 第十章 校了 

    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門



    〔此ノ原稿ハ、夫ノ死マデシカ、書カレテイナカッタ。〕

     

    〔机ノ抽斗ノ最下段、薄イ茶封筒ノ中。〕

     

    〔最後ノページ、四月二日、夕方、病室、ノ場面マデ。〕

     

    〔便箋、四百二十三枚。〕

     

     

    〔続キヲ、私ガ、書イタ。〕

     

    〔本文トシテ、書ク資格、ナシ。〕

     

    〔校閲文字デ、書イタ。〕

     

     

    〔書キ始メタノハ、二〇二四年六月。〕

     

    〔書キ終ワッタノハ、二〇二六年四月。〕

     

    〔一年十ヶ月。〕

     

     

    〔此ノ校閲、誰ニモ、頼マレナカッタ。〕

     

    〔此ノ校閲、誰ニモ、確認サレナカッタ。〕

     

    〔此ノゲラニ、校閲ヲ、入レテイル。〕

     

     

    〔私ハ、校閲者デアル。〕

     

    〔三十年。〕

     

    〔正確デアルコトガ、人生ノ唯一ノ倫理デアッタ。〕

     

    〔正確デアルコトハ、訂正スルコトデハナイ。〕

     

    〔ハズダッタ。〕

     

     

    〔此レハ、校閲デハナイ。〕

     

    〔此レハ、〕

     

    〔ハズダッタ。〕

     

     

    〔此ノ原稿、校了。〕

     

    〔二〇二六年四月十二日。〕

     

    〔責任者、沢渡聡子。〕

     

     

     
     
    朱鷺田凛(ときた・りん) 書けないことを、書けないと書く。 震えるか、息を止めるか、たぶん両方おきます。

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