
アイスランド妄想旅行記
過去にnoteで連載していたものを創作大賞用にまとめました。
1日目
少し時間に余裕ができたので、旅行に行くことにする。
行き先はアイスランド。火と氷の国である。
私はたまに一人で旅行に行くことがあるのだが、旅程を組むのがすごく苦手なので何も決めずに行く。
計画を立てないといけない時は知り合いの「加賀さん」というおじさんに任せる。
加賀さんは 旅行計画を立てるのが好きらしく、「予定を立ててるだけで行った気になれるよね」と喜んでいた。 変わった人である。いつもありがとう。
関西国際空港から飛行機で16時間。
機内の席はとても狭く、前の座席の人が180度くらいに椅子を倒していたのでさらに狭かった。
途中、乗務員さんに「大丈夫ですか?」と声をかけられたが、もちろん大丈夫ではなかった。まぁこ れも旅の思い出か、と最近読み始めた「百年の孤独」を開く。
普段あまり狭い空間で読書をすることが無いので知らなかったが、極端に首を下に向けて本を読むととても疲れることが分かった。
機内のラジオをイヤフォンで聞いていた。
何を言ってるかほとんどわからなかったが、読書の BGMにはちょうど良かった。
着陸前に飛行機の窓から見えたケプラヴィーク国際空港は、なんとなく中学生の頃に理科の実験で使ったハンダゴテに似ている気がした。あれは正式にはなんという名前だったか。
ハンダゴテを使って電気を流す、あの薄い四角いやつが広大な地上に乗っているのを想像しても らえればいいと思う。
あの四角いやつ、なんだったっけな。思い出したい。
夕方に到着した時には、すでにぐったりしていた。
空港内にあるカフェに入り、アイスのカフェオレを注文する。
空港から出ている送迎バスの出発時間までには少し時間がある。
窓の外を眺めながら一休みし ようと思った。
なんだかんだで勢いでやってきてしまったが、とても良い息抜きになりそうな気持ちと、一人旅という少し不安な気持ちがごちゃまぜになっている。
驚くほど濃いカフェオレを一口飲み、スマホの電源を入れる。 加賀さんから連絡が来ていた。「アイスランドのコーヒーは濃いから気をつけてね。」持っていた水でカフェオレを薄めた。
これからはじまるアイスランド旅行、胃が痛かったで終わらせたくなかった。
調べたところ、ハンダゴテで電気が流れるようにする四角い薄いやつは「ユニバーサル基板」というらしい。聞き覚えがない。
私の中学生の頃はそんなおしゃれな名前じゃなかったのかもしれな い。
確か、懐中電灯を作る授業で使った気がする。
私の懐中電灯は最後まで電気が付かなかっ た。
あの理科の先生は元気だろうか。一つ年上の姉の担任だったのだが、事あるごとに「お姉ちゃんは出来たのにねぇ」と私の頭を撫でていた、あの先生。元気にしてるといいな。
バスが到着したとのことで、Flybusという送迎バスに乗ってホテルへ向かう。 この日は天気もよく、まだ外は明るかった。空がとても大きくて遠かった。日本にいては感じられない空の大きさだった。「空って宇宙だったな」と実感できる。 明日からが楽しみである。
2日目
1日目、アイスランドの気温を舐めていたため、今日は絶対に上着を着て出かける決意をする。
日本はまだ暖かいので、飛行機を降りる時に上着を出さずにいたら送迎バスから降りた時、あまりの寒さに震えた。
ちなみにホテルの部屋は暖かく、私は寒がりで暑がりなので、今はとても上着を着たい気分ではないが、スーツケースに入れていた厚手のジャンバーを引っ張り出した。
今日はツアーバスでアイスランドの王道観光ルートを楽しもうという計画だ。
待機所で本を読みながらツアーバスを待つ。
途中で、同じツアーに参加する外国人が話しかけてきたが、言葉が一切わからなかったのでヘラ ヘラしていたら離れていった。
こういう時、英語がペラペラだったらな~と本気で思う。
9時前にバスが到着し、ツアーが始まった。
最初に行ったのはシンクヴェトリル国立公園である。
古い歴史があり、かつてのアイスランドの偉い人たちが集まって会議をした場所らしい。
夏場に数週間行われた会議というのはどんなものだったのだろう。案外ほんわか美味しいご飯を食べたりもしていたんだろうか。
地球の割れ目を触っていいとお達しがあったので触る。
これが地球の割れ目…。地球の割れ目ってなんだか不思議な響きだ。地面の割れ目かな。
隣の夫婦がにこにこ話しながら割れ目を触っている。
言葉はわからないが、祖母が昔、鳥取砂丘に観光に行った際に砂漠の砂に手を埋めて、「いいことがありますように」と言っていたのを思い出した。
人は大自然を前にすると何かを祈ってしまうのかもしれない。
1時間弱滞在したあと、ゲイシールに移動した。
バスの中で知らないおじさんがずっと話しかけてきていた。
何を言っているかは分からなかったがポテチ的なお菓子をずっと私の方に傾けて、「食べなよ!」的なことを言っていたのでずっと食べていた。
おじさんは一口も食べていなかった。
ゲイシールは思っていたよりうるさかった。轟音がすごい。
ガイドさんが大声で喋っているのに口パクしているみたいな時がある。
もしかしたら口パクかもしれない。毎回ツアーの度に声を張り上げ ていたら喉がやられてしまう。
ゲイシールには来てみたかった。昔読んだ漫画で、ゲイシール間欠泉の傍を主人公と友人が通る描写があって、「なんて素敵な場所だろう」と思っていたのだ。
間欠泉が吹き上げる瞬間を写真に収めようと思ってチャレンジしていたが、タイミングを狙うために集中しすぎて吹き上げた瞬間、驚いて「わ!」と叫ぶと、シンクヴェトリル国立公園で仲良く割れ目を撫でていた夫婦に笑っていただいた。もう友達だね。
吹き上げる瞬間を撮ることはついぞ叶わず諦めた。
心のシャッターに刻むことにする。
そのまま昼食を食べることになっていたのだが、バスでポテチを食べすぎたせいでお腹が空いていなかった。ポテチめ…
さて、最後はグトルフォスの滝である。
これも先程話した漫画に載っていたのでとても行ってみたかった場所だ。
自分がちっぽけに感じられるのなんか、宇宙の端っこには端っこがなくて外側にはまた宇宙が無限に続いていて…と想像した時くらいだが、グトルフォスの滝を間近で見た時、「あ、本当に自分ってちっぽけなんだな~」と実感できる。
なんかもう物理的にもちっぽけだし、存在もちっぽけで、このまま地球になりそうな気がした。
二段になっている滝で、運が良ければ虹が見られることがあるらしいが、あいにく今回は虹を見 ることは出来なかった。 アイスランドってなんか、すごいなと思った。
アイスランドがすごいというか地球がすごいな、と思った。
全部があまりにも壮大で、ついていけなかった。
ついていけないまま帰りのバスに乗り、ようやく服がびしょ濡れになっていることに気がついた。
上着、明日までに乾くかしら。
3日目
今日はブルーラグーンに行く。
どうしても行きたかった場所というわけではないが、せっかくアイスランドまで来たのだからやっぱり行っておくべきかと思った。
ブルーラグーン行きのバスに乗り、外を眺める。
昨日まで天気が良かったのに、今日はどんよりと曇っている。
ちょっとおしゃれな言い方をすると、「雲が落ちてきそう」である。ユーミンの歌詞みたいだ。
ブルーラグーンはご存知の人も多いだろうが、簡単に言うと温泉である。
水着は必須だ。レンタルもあるらしいが、私はちょっとあの…人前に出せる体をしていないので、今日のためだけに水着を買っていた。
ラッシュガード的なやつだ。たるんだ腹を隠してくれる。
到着すると人でごった返していた。
事前予約をしていたのでちょっと並んだらすぐ中に入ることができた。
ブルーラグーンに入る前には儀式がある。シャンプーとボディーソープで全身をキレイにするのだ。
美しいブルーの自然の温泉に入るのだから、汚い状態では入らせてもらえない。当たり前である。
体を清め、買っていた水着を着る。
どうして水着ってやつは、濡れた状態で着るのがこんなに難しいんだろう。
小学生の頃から思っていた。
乾いた状態ではスッと着れるのに、濡れたら着るのも 脱ぐのも一苦労だ。
そもそも水着ってべつに水を弾くわけでもないのに「これを着たら水に入れるよ」とされているのはどういう理由なのか。もし水着が水を弾いたら…弾いたら浮いちゃうのかしら。 そしたら泳げないもんね。なるほどなるほど。
少し白く濁った青いお湯から蒸気が出ている。コンタクト付けっぱなしだったなぁ。でも外すと何も見えなくなるからな~。鞄に替えを入れてたかなぁ。
お湯は心地よい温度だった。
なんで自然の温泉なのにこんなに人間にちょうどいい温度になっているのか。不思議である。
普段のお風呂は烏の行水タイプの私だが、たまにはこうやって肩までお湯に浸かるのもいいものだ。
あと開放感がすごい。露天風呂ともまた違う、そもそも大地がでかいからお湯から見る景色が地平線みたいなもんである。
せっかくなので帰りにレイキャビク市内にある人気のホットドック店に寄った。
お昼時をとうに過ぎていたので行列もそこまでではなく、すんなり購入することが出来た。
アイス ランドは食べ物の物価が高いと聞いてはいたが、まぁ…思い出だし、いっか!ということで購入。
ひとつひとつトッピングを入れるかどうか聞いてくれる親切なおじちゃんがホットドックを手渡してくれた。
できたてホットドックはほかほかで、両手で持たないとソーセージの重みで落としてしまいそうだった。
不思議な苦みのあるソースがとても美味しかった。また食べたい。
でもそもそも私はあまり食べ歩きしない質なので、歩きながら食べるのが下手だ。 汚れた手をハンカチで拭く。
風呂に入るために片道1時間かけ、ホテルに戻り再び風呂に入るのであった。
さて、風呂に入ったので、手配していたレンタカーで出かける準備をする。
外は暗くて寒いので、乾かしていた厚着のジャンバーを羽織る。
ホテルのロビーにあるカフェでホットコーヒーを薄めに入れてもらい、テイクアウトにする。
今からオーロラを見に行く。
オーロラを見に行くときは人里離れた草原に寝転がって見るもんだと思っていたのだが、
加賀さんによると、「そうそう、草原のど真ん中で寝転がって見るイメージ強いけど、実際アイスランドって「どこ行っても人里離れてる」みたいな国だからなぁ。もちろん、もっと「人っ子一人いない大草原」みたいな場所もあるけど、道が凍結してたり迷いやすかったりするから、観光客はわりとシ ンクヴェトリルとかゴールデンサークル周辺でオーロラ狙う人が多いよ。」
との事だったので、素直にシンクヴェトリル国立公園に向かう。
なかなか駐車場を見つけられず苦戦した。
マットやらひざ掛け毛布やらコーヒーやらを抱え、良さげなスポットを探す。 想像していたよりも人はいなかった。
少なくとも目視では2~3組の観光客が遠くにいた程度だっ た。
昨日の昼間に触った「割れ目」のあたりにマットを引き、毛布を被ってホットコーヒーをすする。
大きいサイズにしといてよかった。寒くて凍えそうだ。
コンセントがあればヒーターを持ってきたが、こんな大自然にちまっとコンセントが文明の顔をして用意されてたら興ざめなので無くて良かった。
しばらくそのまま空を眺める。星がよく見える。よく見えるというか見えすぎる。明るい。
誰だ、電気なんか発明したのは。星明かりで充分じゃないか。
と思うくらい明るいが、夜な夜な電気を付けて仕事してるので本当に電気があって良かったと思っています。ありがとう、エジソン?
1時間だかそれ以上だか、とりあえずもう寒さに耐えられそうにないのでオーロラはいいや、この星空を見れただけで大満足、と冷めたコーヒーを飲み干そうとした、一瞬、真上に緑色の布が上から落ちてきたような気がした。
実際に布は落ちてきていなかった。オーロラだった。
不思議だなぁ。なんだかアイスランドに来てからずっと不思議だなぁと思っている気がする。地球ってそれだけでこんなにキレイなんだなぁ。
さ、ホテルに帰ろう。冷えたのでお風呂に入ろう。
4日目
アイスランド最終日。
今日は観光の予定は立てていないので、ゆっくりお土産を見て回ろうと思う。
行き先の目星は付けていた。
コラポルティッドという、週末限定の屋内フリーマーケットだ。
中に入った途端、生臭さが鼻を突く、というほどではないが「魚売ってるな~」という匂いはする。
活気のある場所で、店員さんたちが呼び込みをしている姿が目立つ。
人の間をくぐり抜けながら、お土産に良さそうな店を探す。
みんな背が高いので、くぐり抜けるのはそう難しいことではなかった。
少し進むと、雑貨屋さんみたいなところがあったので立ち止まる。
お土産選ぶのって難しいよね。
消え物が良いという意見もあるが、今回は気にせず選ぼうと思 う。
ところで「冬って感じの柄のセーター」で想像する柄は、私の場合だいたいこれ、というのがある のだが、人によると思うのでこの表現では伝わらないと思うのだが、どうだろう。 伝わらないよな。
アイスランドの雑貨屋さんにあるセーターや靴下でよく見る柄なのだが、「ロペパイサ」というらしい。意味は知らない。
勉強になったので、今後はあの柄を見かけたら「ロペパイサ柄だ」と少し顎を持ち上げて言うことにしよう。
かわいいグレーのロペパイサ柄の靴下があったので、自分用に購入する。
同じ店で、なんだろう。これはなんと言えばいいのか難しいのだが、おじさんの顔をしたマスコットが置いてあった。
第一印象は「加賀さん…?」だったが、よく見ると似ていたのは体型だけで顔は似ていなかった。
フェルトで作られたマスコットで、目にガラスかプラスチックが使われている。
加賀さんに渡そう。たぶん喜ぶ。
会計の時に店員さんが「この子には名前があるんだよ」と言っていた。
もちろん翻訳機を使った会話である。
「この子には名前があります」
「なんて名前ですか?」
「Steini(ステイニ)という名前の熊です」
言葉の壁を感じた。
それから別の雑貨屋さんに入り、妹に石鹸とバスソルトを購入。若者はこういうのが好きでしょう。
コラポルティッドから脱出し、昨日寄ったホットドックのお店に行く。
帰る前にもう一度食べておこうと思ったからだ。
今日はウェットシートも持ってきたので手が汚れても問題ない。
お店には昨日と同じおじさんが立っており、昨日とまったく同じやり取りをしてホットドックを手に入 れる。お金を支払う時、おじさんが笑顔で話しかけてくれた。手が塞がっていたのでなんて言っていたかはわからないが、たぶん「またおいで」とかそんな感じだろう。
その店の近くの、出店というかこれもフリーマーケットっていうんでしょうか。
手作りの商品を売ってる小さなお店があったので眺めていると、レイキャビクの風景を描いたイラストのポストカードが売ってあったので一枚購入する。
そういえば母に、アイスランドに来ることを知らせていなかったので、サプライズで手紙を出そう。
母はこういう、ちょっと情緒的なことをされるととても喜ぶ。
郵便局でポストカードを出し、ホテルに戻る。
明日帰国なので、スーツケースやお土産を日本に送りたいのだがいくらくらいかかりますか、とロビーで聞くと、荷物の追跡も希望するなら私の荷物の量だと安くて60,000円とのことだった。
やっぱり旅の荷物は自分で持って帰ってこそだな。
5日目
大荷物を持ってケプラヴィーク国際空港へ。
なんだかちょっと時間に余裕が出来たから、という理由の割には遠くまで来てしまったが、とても充実した5日間であった。
英語もアイスランド語も分からない私だが、それなりに楽しめるものだなと感じた。
何より来てよかったと感じたのが、ありふれた言葉だが「地球の大きさを感じられたこと」だった。
さて、帰ろう。 飛行機に搭乗して、今回は前の席も120度くらいまでしか倒れていなかったので安心して読書の続きができた。
離陸した記憶はあるが、読書の記憶は無かった。
寝る前にスマホゲームをしたり読書をしていると、ウトウトしながら「…ハッ!」としてまた続きを始めたりして、しばらく眠気と戦った後「そもそもなんで戦ってるんだ。寝ればいいじゃない」と思い直すことはよくあるのだが、今回もそんな感じだった。よく寝た。
関西国際空港に到着して、荷物の重さにぐったりする。誰か助けて…
疲れ果てているのに荷物も持たなきゃいけないなんて。
家がアイスランドより遠く感じる。
荷物の重さも飛行機もホットドックもお土産も地球の大きさも全部妄想だが、書いてて色々楽しかった。
ちなみに加賀さんに旅程を組んでもらったのだけは事実だ。加賀さん、ありがとう。