低いところに登りたい
しおりがいちばん
本にしおりをはさもうとしたら
見当たらなかったから
ティッシュを挟んだ
次の日、また見当たらなかったから
折り紙で作った椿の花を挟んだ
その次の日は、ぬりえの本
その次の日は、レゴブロック
その次の日は、りかちゃん人形
本を読もうと思うのに
おもちゃで遊んでしまうから
やっぱりしおりがいちばんだと気がついた
ティッシュなら大丈夫かなと思ったんだけど
鼻水が出たときに使っちゃったから
やっぱりしおりがいいみたい
メロンパン
分かってる?
メロンパン作るのって大変なんだよ
汗かきながら生地こねて
生地をこねる前にクッキー生地を作って
冷蔵庫に寝かしておかないといけなくて
そんなことも知らずに
あの子は嫌いだ
仲間はずれにしよう だなんて
わたしだってあなたたちに
こんなことを言ってるあいだ
こねる手が止まってるの
あれ おかしいな
ただメロンパンをこねていれば
こんなことにはならなかったのに
どうしてメロンパンから
目をそらしちゃったんだろう
待ってくれているクラスメイトに
おいしいメロンパンを届けなきゃ
低いところに登りたい
低いところに登りたい
ちょっとした段差に登りたい
まっすぐ道は歩けない
だっていろんな場所に
低いところがあるから
高いところには登らないよ
あぶない場所にも登らないよ
だから低いところに登る
あぶなくないよ 大丈夫だよ
たんじょうびが過ぎたら
もう少し高いところに登ってもいい?
重なった紙
本屋さんで本を買うと
それだけでもう楽しい気分になって
別に読まなくてもいいやという
気持ちになってくる
晴れの日に
カッパを着てもいいよ
と教えてくれたのも
マクドナルドでハンバーガーを
一度に2つ食べていいことを
教えてくれたのも
ぜんぶ本だったから
ぼくは本に期待している
ぼくを許してくれる人が
どこかに必ずいることを
重なった紙を見ていたら
おでかけしたくなってきた
みんな
みんなって
だれのことを指すんだろう
家族とかクラスとか
はっきりした言葉が
あるときは分かるんだけど
そうじゃないときのみんなに
自分が含まれているのか
不安になることがある
そのみんなに わたしは入ってる?
今日は鬼ごっこに参加せず
教室で本を読んでいようかな
そう思って教室に戻ろうとすると
たけしくんが 何してるの?
早く鬼決めじゃんけんしようよ
と話しかけてくれた
みんなの中に
わたしも入ってたんだ よかった
いちいち それわたしも含まれてる?
と確認することはできないから
空気で見分けないといけないのが
むずかしいから
たけしくんにだけ こっそり
このはなしをしてみようかな
いつも「みんな」にわたしを入れてね
メープル全部吸っちゃった
メープルパンの袋を開けたら
あまりにも甘い香りが広がって
思わずわたしは
香りのすべてを吸ってしまった
あしたの朝に食べようって
ママがたのしみにしていたのに
メープルぜんぶ吸っちゃった
甘い香りで満たされて
なんだか眠くなってきた
あしたは白いふわふわに
いちごのジャムをたっぷり塗って
しあわせよって伝えよう
ラッキーなねがいごと
短冊がない
せっかく願おうとしたのに
お菓子をたくさん
食べられますようにって
お菓子よりも今は
短冊がほしい
紙とハサミがほしい
あると思ってたものがなくなって
いつの間にか願いは変わってて
短冊があればお菓子を願い
お菓子があればケーキを願い
ケーキがあればポテトを願い
まいにち何かを願ってて
たまたま7月7日に願われた
ラッキーなねがいごとたち
ふくらはぎ
お昼におやまずわりをして
ジャムパンを食べていたとき
カオリちゃんの足に虫が近づいてきた
カオリちゃんは 手にジャムが
ついていることに気づかずに
その手で虫を追い払った
そのときぼくにいちごジャムが付いたんだ
カオリちゃんはとにかく
虫を追い払うのに必死だった
カオリちゃんは虫を気にしながら
焦ってパンを食べ終えて
滑り台の方に走って行ってしまったんだ
まだジャムが付いた足のままで
お風呂に入るまで きっとぼくにジャムが
ついていることに気がつかないんだろうな
お風呂に入ったって
シャワーで簡単に洗い流されて
ぼくが汚れていたことにも気が付かず
カオリちゃんは髪にトリートメントを
一生懸命塗るんだと思う
ぼくにジャムが付いていたことを
ぼくだけが知っている
ぼくは今日のことを忘れない
ジャムで汚れて視界は悪かったけど
甘いあの匂いだけは本当に良かった
こっそりとぼくは
またジャムがつかないかなと
心のどこかで楽しみにしてしまっている
カーテン
背中に光を感じる
もうじきまた 朝が来る
きのうも来たのに また今日も来る
毎日毎日やってくる朝は
ぼくの背中をやさしく照らす
振り返ることはできないから
背中で感じることしかできないのだけれど
それは明るくてあたたかなものだ
できたての みたらし団子みたいな
それなのに あの子はまだ寝ている
そろそろ起きて 朝が来たよ
明るくて美しい 朝が来たよ
ぼくが永遠に見ることができない朝を
きみは毎日見ることができるんだ
いつか この役目を終えたら
思いっきり朝を見てやるんだ
それで いっぱい写真を撮って
仲間たちに見せてあげるんだ
あしたも来るといいな 朝
リベイク
夜中に暑さで目が覚めて
スマホを開いたのが
間違いだったんだ
あのころ家族で見ていた
懐かしいドラマを見つけて
再生ボタンを押してしまった
おもしろさとよみがえってくる思い出と
画面の明るさで 脳はすっかり僕がもう
起きるつもりなんだと錯覚したみたい
なぜエアコンをつけて眠らなかったんだろう
後悔して 後悔して
悔しさでさらに眠れなくなって
さすがにそろそろ寝ないと
明日の活動が止まってしまう
活動といっても大したことはしない
散歩に行って 本を読んで
お腹が空いたらごはんを食べる
それだけなんだけど
眠いときはそんなことすらまともに
できなくなってしまうんだ
ついには布団に抱きついて
大切なことを思い出した
ぼく 幸せだったんだ
あたためてくれる布団があって
手の届くところにリモコンがあって
冷蔵庫にはピザパンだって残ってる
ぜんぶが幸せだったんだ
明日の朝はピザパンをリベイクして食べよう
リベイクっていうのは焼き直すっていう意味
他の誰かがいるときは使ったりしないけどね
心の中だけで使う言葉
まだ眠くはならないけど
幸せだって思い出せてよかった
明日は昼寝を呼び出して
夕方コーヒーにでも付き合ってもらおうかな
平凡
毎日はみがきをしてお風呂に入るし
家族のためにごはんを作ったりもする
かみが伸びたら切りに行くし
ふうとうが届いたら選挙にも行く
これをくり返すことって
けっこう大変なんだ
家族やねこが感謝してくれるから
ぼくはそれだけで大満足なんだけど
得体の知れない大きな何かが
それをよしとしてくれてない気がして
ときどき不安になる
あれ ぼくってこんなに平凡で
大丈夫なんだっけ
みんながワールドカップに熱狂している間も
ぼくは淡々と平凡をがんばった
自分以外の人たちが
みんな平凡じゃなく見えて
ワールドカップに興味がない
自分が普通じゃなく見えて
自分が普通に見えるときも
そうじゃないときも
どちらも不安になる
この不安さえも
平凡な悩みで嫌になる
誰もこの平凡さを評価してくれないけど
やっぱりこの平凡さはすごくがんばって
守らなければならないものなんだ
きのう夢に出てきた八百屋のおじさんが
こっそりぼくに教えてくれたこと
命のメーター
こまっている人たちが
つぎつぎと目の前にあらわれて
怖いおばけを倒してほしいと
ぼくにお願いをしてくる
お願いされたら断れなくて
ぼくはみんなのために
レベルを上げて
どんどん強くなっていく
そしたら仲間が増えて
みんなで戦うことになって
あ また命のメーターが減ってきた
宿で休んで満タンにしよう
おばけを全部倒したら
世界はいったいどうなるのかな
分からない
けれど
満タンにしたいと思えるぼくは
生きて戦い続けたいんだきっと
青へと進む
目の前の信号が赤になっちゃって
横を見たらそっちは青だったから
なんとなくそっちへ進んでみたんだ
そうしたら
どこに向かっていたか
分からなくなって
ぼくはとにかく青へと進むことにした
たまに 周りのようすをうかがいながら
おそるおそる赤信号を渡っている人もいて
あの人たちはどこにたどり着くんだろう
そろそろのどが渇いたから
おいしいアイスコーヒーと
ナポリタンスパゲッティのある
喫茶店(禁煙)にたどりつけたら
今日はもう大満足だ