
木曜日が2回ある あらすじ
羽田空港の保安検査員・田村は、毎朝3時に起き、5時から20時まで立ち続ける。「お願いします。ありがとうございます。」
——声は体に染みついて、口が勝手に動く。
出発する人を毎日見送りながら、自分はどこにも行かない。
曜日の感覚は薄れ、1日に木曜日が2回あるような時間を生きていた。
ある休日、図書館で出会った子どもに言われる。
「空港にいるのに、どこにも行かないんだ」
悪意のない一言が、田村の中の何かに体当たりした。
衝動というほどでもない。ただ、スーツケースを引っ張り出した。
大分で食べただんご汁の温かさ、ホバークラフトから見た水平線、露天風呂から眺めた湯けむり。
空港にいるのに、どこにも行かない男の、小さな往復の話。
(304文字)