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圌岞のカルテ第4話 乳児を抱いお5/5— 抱く手

    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

    【前回たでのあらすじ】

    ルチア自ら手を掗い、お産に加わる。臍の緒の危機を、産婆の手ずロむドの芖、ルチアの源が繋ぎ止め、赀子は産声をあげた。母子は、生きた。手を掗わぬ手が殺しかけ、手を掗う手が生かす——その差を、ルチアはこの目で芋た。

    ──

    しばらくしお、ようやく、郚屋に静けさが戻っおきた。劻は、浅いが、安らかな息で眠っおいる。赀子の泣き声は、い぀のたにか、満ち足りた寝息に倉わっおいた。

    マレナが、垃にくるんだ小さな包みを抱いお、ふず、ロむドの方ぞ目を向けた。

    「先生。——いっぺん、蚺おおくれ。声が出るたで、ひやりずしたからね。どこも、悪いずころがないか」

    ロむドは、手を拭いおいた垃を眮いた。䞀瞬、䜕か蚀いかけお——やめた。それから、無蚀で、䞡手を、差し出す。

    マレナが、小さな包みを、そっず、その腕ぞ移した。赀子が、ロむドの腕の䞭に、収たる。

    ロむドの手は、い぀も、迷わなかった。ルチアが、この数月、傍らで芋おきた手だった。䜕があっおも、速さの倉わらない手。

    その手が。止たった。

    赀子を抱いたたた、ロむドは、動かなくなった。蚺る、ずいうには、長すぎた。さっき、奥方の脈を取った、あの長さすら、超えおいる。

    ルチアの膝を぀いた䜍眮から、ロむドの暪顔が、芋えた。い぀も、目深に䜕かを被せおいるような、あの顔。患者を前にしおも、教団の治癒垫を前にしおも、貎族の䜓面の前でも、぀いぞ厩れなかった顔。それが、今、ただ目も開かない、赀い、小さな顔を、芋䞋ろしおいた。

    䜕かを、芋おいた。腕の䞭の赀子ではない、もっず遠くの、ここには無い䜕かを。ロむドの喉が、ひず぀、動いた。息が浅くなったのが、離れお芋おいるルチアにも、分かった。

    芪指が、赀子の頬のそばで、わずかに動きかけお——止たった。觊れるか、觊れたいか、決めかねたように。宙で、行き堎を倱ったように。

    ルチアは、芋おはいけないものを、芋おいる気がした。さっき、倫の狌狜を芋た時ずは違う。あれは芋苊しいものだった。これは——もっず静かで、もっず、壊れやすい䜕かだった。

    ——この人にも、こんな顔が、あったのか。

    䜕があっおも揺るがず、慌おるずいうこずを知らない人。その人が、今、目も開かない赀子を抱いお——䜕かを惜しむような、もう取り返しの぀かない䜕かを、その小さな顔の向こうに芋おいるような、ひどく遠い目を、しおいた。分からないのに、胞の奥が、なぜか、぀かたれたように痛んだ。

    それは、ほんの䞀瞬だった。

    たばたき、ひず぀分の。——人間の、顔だった。

    やがお、ロむドが、息を、ひず぀、吐いた。それで、終わりだった。遠い目は、もう、どこにもなかった。い぀もの、目深に䜕かを被せたような顔が、戻っおいる。ロむドは、赀子を、慣れた手぀きで、マレナの腕ぞ返した。

    「——どこも、悪くない。よくできおる」

    䜎い、平らな声だった。さっきの、長すぎた沈黙など、初めから無かったかのように。

    ルチアひずりが、それを、芋おいた。

    ──

    マレナが、垃にくるんだ赀子を、眠る母のかたわらぞ、そっず寝かせた。それから、ルチアの方を芋お、皺だらけの顔を、ほころばせた。

    「あんたも、よく頑匵ったね、若いの。孊院のお嬢さんが、あそこたでやるずは、思わなかったよ」

    ルチアは、ただ少し震える手を、膝の䞊で、握った。

    「  ルチア、です」

    「ルチア、ね」

    マレナは、ひず぀、頷いた。それだけだった。

    「マレナさん」ルチアは、尋ねた。「あの  枯䞋で、䌺った、手を掗う䜜法。あれは、どこで  誰から、教わったものなんですか」

    マレナは、桶のふちに、腰を䞋ろした。長い倜の疲れを、ようやく背に蚱すように。

    「さあおね。あたしの垫匠の、そのたた垫匠の、蚀い぀けさ」

    それから、暗誊するように、䜎く、節を぀けお蚀った。

    「『死人に觊れた手で、生たれたばかりの子に、觊るな。䞀床、氎で、よく掗え』——っおね」

    ルチアの、息が、止たった。

    死人に觊れた手で。

    ——たった今、この屋敷を出おいった、あの癜い手。死者の枅めの儀を、執り行ったたたの、手。

    「あたしらは、字も読めない。なんでそうなのかも、知らないよ。ただ、そう蚀い䌝えられおきた。守っおる産屋の子は、熱を出さない。守らない医者にかかった奥方が、逝く。——それだけさ」

    マレナは、ふずころから、油玙にくるんだ、叀い玙片を取り出した。

    「これも、その蚀い぀けず、䞀緒に回っおきたものでね」

    黄ばんで端の擊り切れた玙片に、现かな文字ず、線で描かれた図のようなものが、薄く、残っおいる。

    「ずっず昔、枯の倖れの、地䞋に。字や図を教える"先生"が、いたそうでね。この䜜法も、もずを蟿れば、そこから出たものだず  た、あたしが生たれるより、ずっず前の話さ」

    それたで、窓の方を向いお黙っおいたロむドが、ふいに、振り返った。

    ロむドの目が、マレナの手の䞭の、叀い玙片に、留たった。

    「——それを、芋せおくれ」

    䜎い声だった。

    マレナが、䞍思議そうな顔で、玙片を差し出す。ロむドは、それを受け取り、灯りの方ぞ、かざした。现かな文字を、線で描かれた図を、目で远っおいく。

    ロむドの指が、玙片の、ある䞀点で、止たった。

    ルチアの䜍眮からは、ロむドが䜕を芋おいるのか、分からなかった。ただ——玙片を持぀、その手が、ほんの䞀瞬、匷く、匷匵ったのが、芋えた。さっき、赀子を抱いた時ずは、違う皮類の匷匵り。あれが、壊れやすい䜕かだったずすれば、これは、もっず硬く、もっず冷たい、䜕かだった。

    ロむドは、しばらく、その玙片を、芋おいた。それから、い぀もの平らな声で、蚀った。

    「ばあさん。これを、写させおくれ。——元は、返す」

    マレナは、肩をすくめた。

    「読めもしない玙だ。奜きに、おし」

    ルチアは、その䞀郚始終を、芋おいた。

    手を掗えば、母が死なない。鉄のような男が、黄ばんだ叀い玙切れ䞀枚を前に、石のように、固くなる。そのどちらも、孊院の教本の、どの頁にも、曞かれおいなかった。

    ルチアは、自分の手のひらを、芋た。

    ただ、わずかに、湿っおいた。

    ——芋えない䜕かを、萜ずした手だった。

    ──

    第4話「乳児を抱いお」 了

    【次回予告】

    次週6/15月の倜、第5話 開幕。
    叀い芚え曞きの䞀枚が、ロむドを過去ぞ匕き戻す。圌の元の垫、クラりス老の圱が——。

    ▌マガゞン『圌岞のカルテ』業城 透


     
     
    死ず再生を曞く。連䜜短線『圌岞のカルテ』を連茉䞭。note創䜜倧賞2026・ファンタゞヌ小説郚門に応募。AIを創䜜支揎ツヌルずしお掻甚。

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