
騙され人間、応援する
どうしたものか。我が家のおっとり猫、ノエルが俳優を目指し始めたようなのである。
ノエルは人間のご飯に興味がある。特にパンと揚げ物。前世はアメリカ人だったのかと思うくらい執着がすごい。我が家はコタツテーブルで食事をするのだが、どんなに注意しても、どんなに腕でブロックしようとも、パンや揚げ物が並ぶとひょいと乗ってきてしまう。しかし、おっとりしているせいか、生後半年もないくらいしかノラじゃなかったせいか、物を盗ることに関しては非常にのんびりだしわかりやすい。「とるぞ、とるぞー」と腰を揺らして、瞳孔をまんまるに見開き、丸見えにも関わらずそーっと手を伸ばす。そのためうっかり食べられたということは一度もない。しかしその圧は凄まじく、食事をしにくいことこの上ない。
しかし、このところその執着心がなりを潜めている。テーブルの周りをぐるぐるとサメのように徘徊し、テーブルに前足を掛けると手で制される。このやり取りを一回すると、横目でちらっとこちらを見て、部屋の端にある除湿機の裏に隠れるようになったのだ。何かきっかけがあったわけでもない(人間的には)。
目の前の壁をひたすら見つめ、まるで六月の空のような哀愁を漂わせる。声をかけるとこちらを見るが、怒りでも諦観でもなく、本当の無表情で見返してくるのだ。
心配して構いに行ったが、うんともすんとも動かない。
しかし毎回決まって晩ご飯時となると、具合が悪いわけでもなさそうなので、いよいよこれは「拗ねてる演技」だと勝手に結論付けた。
なぜ演技か。それは四、五年付き合った勘である。ぜひ本猫に尋ねてみたいところではあるが。
少なくとも数日間は見事に転がされたので、カンヌまではいかなくとも、何かしらの新猫賞には引っかかるのではないか。それは親バカというものだろうか。
なんにせよ、そういうことなら応援してみようと思う。