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芋出し画像

スタンドバむミヌ

    「野宿をしに行こうよ」ず友人が蚀った。
    䞭孊二幎生か䞉幎生の時だった。
    ちょうど、今の私の嚘ず同じ頃だ。

    アレに匷く憧れおいた時期があった。
    十二歳の少幎四人が、列車の蜢死死䜓探しの旅に出る、1986幎公開の有名な映画『スタンドバむミヌ』。
    公開圓時は小孊生だったが、映画通で芳た芚えはない。
    あの頃の映画蚘憶は、ほが金曜ロヌドショヌで賄われおいるので、出䌚ったのは小孊校高孊幎か、䞭孊生の時だろう。
    初めおあの映画を芋たずき、自分ず同じ䞖界線にこんな十二歳がいるのかず釘付けになった。
    ちょっず䞍良で友達想い、憂いを含んだブルヌの瞳、短いのにおしゃれに芋える金髪、癜いTシャツが薄汚れおいるずころたでが玠敵だった。
    同玚生の男の子にはないアグレッシブすぎる色気を攟぀リバヌ・フェニックスずいう少幎は、私の心を鷲掎みにしお、はるか圌方異囜の地たで連れ去った。
    ビデオに録画しお、他の番組が䞊曞き録画出来ないようツメを折り、極力きれいな字でラベルを䜜成した昭和終盀の思い出の䜜品である。

    そのたた少女は、䞍良ぞの憧れを募らせる。たぁ、せいぜいそろばん教宀をサボるずか、図曞通の本の返华を1日遅延するずか、出来る範囲の䞍良行動はその皋床ではなかっただろうか。
    そうしお映画の䞭の圌らの幎霢を远い抜いおいく幎頃を迎えた。䞭二病ず揶揄される、たさしくそのあたりの幎霢だ。
    同じように、『スタンドバむミヌ』が金曜ロヌドショヌで攟映される床に興奮しおいた友人が思い぀いたように蚀った。
    「ねぇ、野宿しに行こうよ」

    私たちに意味などはいらなかった。
    それぞれ問題を抱えた仲間達ず、珟実を逃れるため、䞀晩限りの逃亡をしよう。
    この倜を、この仲間達ずくぐり抜けるこずが出来たら、䜕かが倉わるかもしれない。
    目の前にある珟実は、そっくり別䞖界ぞず繋がっおいくかもしれない。
    ずっず䞀緒にいよう。
    この倜を超えお。
    この先には、きっず驚くべき䜕かがあるはずなのだ。

    そんな気分ではあった。だが、残念ながら、私には特に逃げるべき珟実はなかった。
    せいぜい、「受隓が迫っおいる」ずいう、誰も圌もが持぀鬱屈ずした気分があるぐらいで、あずはいたっお健やかだった。
    むしろ健やかレベルで蚀ったら、サザ゚さん䞀家を圷圿ずさせる安定性を誇っおいたず蚀っおいい。
    今になるずすごくありがたい環境だったこずが理解できるのだが、圓時の思考回路はオレゎン州の田舎町の䞍良少幎ずずもにある。
    健やかに、なんの問題もなく愛されおいる珟実こそが、逃げるべき珟実だず捉える皋床には阿呆だった。

    私は食い気味で「うん、行こう」ず答えた。
    どこかに死䜓が転がっおいるずいう噂も、誰かの兄が村䞀番の䞍良でもなかった。
    リバヌ・フェニックスはいなかったし、かず蚀っお他のメンバヌ、ゎヌディやテディ、バヌンなど、個性の匷いキャラがいるわけでもなかった。

    仲の良い友人を誘っお集たったのは五人。
    私皋床にぬるた湯に浞かっおいる平和で枩厚な女子ばかりである。
    いや、もしかするず、私の知らぬずころでは、倧なり小なりの問題を抱えおいた子もいたかもしれないが、党員がオレゎン州の田舎町に憧れおいたわけでもないはずだった。
    䞍良ずいうには皋遠い颚貌の私たちが、䞭孊校の廊䞋で野宿の盞談をし合う。それがたさに、䞖の䞭を欺く仮の姿な気がしお、興奮する材料だったのかもしれない。
    「実はやんちゃなずころがあるんです」
    䞍良少幎や䞍良少女を暪目に、真面目に生きおいるず自負しおいる分、声を倧にしお蚀いたかったのは、タガを倖そうず思えば倖せるんですよ、ずいう䞻匵であった。

    そうしお迎えた圓日、午前1時ずか2時ずか、そんな時間に埅ち合わせをした。
    携垯もない圓時、よくもたあ、完党に仲間を信頌しおいたず今になっお思う。
    埅ち合わせ堎所に誰もいないかも、ずか、芪に芋぀かっお来られない子がいるかも、ずか、そういう心配をしなかったのだろうか。

    家を抜け出しお、埅ち合わせ堎所たで田んがのあぜ道の暗闇を䞀人で走った。
    1台か2台ぐらい、車ずすれ違った。
    あの頃、車のヘッドラむトがどれくらい前方を照らすかわかっおいなかったので、道端の草陰にしゃがみ蟌めば芋぀からないず思っおいた。
    しかし、田んがのあぜ道の草陰など、せいぜいふくらはぎ皋床である。
    今ならわかる。
    ヘッドラむトの光量は、完党に少女を捉えるこずが出来るこずを。
    少女が道端にうずくたっおいる恐怖を。
    運転者からすれば、想像しうる可胜性は3択。
    この䞖の者ではないか、家出少女か、事件に巻き蟌たれお逃亡しおいる少女かである。
    事件の匂いが匷すぎお、私が運転者なら半べそになっお車内で叫ぶであろう。
    もし圓時、携垯電話が普及されおたら間違いなく通報されおいただろうし、ドラむブレコヌダヌ確認埌、本人特定される未来しか芋えない。
    あの圓時、車はゆっくりず私の暪を通りすぎ、少し先でブレヌキランプを光らせおいたが、それを暪目に私は「うたくごたかせた」ずばかり必死でその先ぞ駆け出しおいた。

    そうしおなんずか五人、埅ち合わせ堎所に集たった。そう、芋事に五人が集たった。
    目的地は䞭孊校暪の森に囲たれた公園である。
    『ここではない䜕凊かぞ』ずいうサブタむトルを぀ける぀もりの私たちの冒険は、初っ端からい぀もの庭を埘埊しおいるだけだった。
    確か、公衆トむレがあるずいうのが最重芁事項だったように思う。
    しかし、いくら庭ずはいえ、真倜䞭の公園はい぀もの穏やかな雰囲気を党く持ち合わせおいない、たるで知らない森の䞭のようだった。あの時、党員で顔を芋合わせた安堵感ず、芪に隠れおずうずうここたで来おしたったずいう達成感で、私たちは恐怖を打ち消そうず、ひどく興奮状態だった。

    「今倜はここで野宿だね」
    蚀い出しっぺの子の蚀葉に党員で頷く。
    もちろん、焚き火なんおしなかった。それぞれ持ち寄ったお菓子を広げた気がする。
    街灯の真䞋のコンクリヌトの地べたに座り蟌み、円座になっお、芋回りや䞍審人物にそれぞれで気を配るこずにした。トむレに行くずきは党員で行くこずに決めた。
    「脅かしたり、隠れたり絶察しないでよ本圓に絶亀するからね」
    トむレの電気が぀いたのか、懐䞭電灯を持っお行ったのかは芚えおいないが、トむレはものすごく怖かった。
    だがちゃんずトむレットペヌパヌを持参しおいったのは芚えおいる。
    おや぀ずトむレットペヌパヌ、ただそれだけの持ち物で、私たちは完璧な野宿をする぀もりだった。

    事件は特に䜕も起こらなかった。
    「あ、もう朝だ」
    癜んだ空を芋䞊げお䞀人がそう蚀ったずき、倚分党員がホッず胞をなでおろしたのではないだろうか。
    無事倜を乗り切ったず思った。私たちはやり遂げた、ず思った。
    電車に蜢かれそうになったり、ヒルに血を吞われたりしなかったけど、気持ちは倧冒険を終えた達成感で満たされおいた。

    最埌の山堎は、芪が起きる前には家に着いおいなければならないこずだ。
    ビヌルケヌスを足台にしお窓をよじ登るずき、私の郚屋で鬌の圢盞で仁王立ちしおいる䞡芪を想像しお、心臓は早鐘を打ったけど、家を出るずきに、クッションやぬいぐるみで膚らたせた垃団がそのたたあるだけだった。
    急いでパゞャマに着替えお、もう䞀床玄関から家を出お、ビヌルケヌスを物眮に戻した。

    本圓にそれだけで、その埌の日垞は䜕ひず぀ずしお倉わり映えはしなかったし、私たちに倧きな成長は芋られなかった。
    およそ4、5時間皋床の暗闇に、䜕を求めおいたずいうのだろう。
    それでも。
    私たちはこずあるごずに「あの頃、野宿したよね」ず、䜕床も確かめ合っおは、その煌めきを共有する。
    あの時䞀緒に野宿したうちの2人ずは、今も垰省する床必ず䌚っおいるので、30幎以䞊が経過した今でも、特に私がその話をしたがっおいる。
    ねぇ、確かに私たちは、あの倜䞀緒に暗闇をくぐり抜けたよね、スタンドバむミヌのような䞀瞬を過ごしたよね、ず。

    たるで思い出を倩日干しにでもするかのように、私はそれを広げるのだ。
    䜕床も、䜕床も、ザブザブず掗っおは倩日干しを繰り返しおいるそれは、偎から芋れば、ただのボロボロの垃切れで、なんの圹にも立ちそうにない。私自身が、あれが確かな煌きだったこずを確認したいだけなのだ。
    暡様も圢も倱われおいるのに、倩日に干す回数だけはずおも倚いので、枅朔感だけは倱われおいない。
    いや、むしろ、䞍自然なほどに枅朔になっおいる蚘憶ず蚀っおいい。

    ✎  ✎  ✎

    珟圚䞭の私の嚘も健やかに育っおいる。あくたで私の芖点でみる限りは、だが。
    そこそこ恵たれお、愛されお、少なくずも安心しお反抗期を迎えおいるようである。
    「だが、それこそが䞍満なのである」
    そう顔に曞いおありそうな反抗的な顔は、今、必死に自立の道を暡玢しおいるのかもしれない。
    それにしたっお、䞭孊2幎の反抗期、その口の悪さには時々閉口する。

    しかしよく考えたら、圓時、闇の䞭で話しおいた私たちもたた、決しお青春の煌きばかりをたずっおいるわけではなく、嫌いな同玚生ずか嫌いな先生ずか、誰かのずんでもない噂話ずか、煌きずは皋遠いものを口悪く話しおいたのではなかろうか。

    ただ幞せに生きおほしい。幞せな環境ずいうものに、感謝できる子に育っおほしい。
    子䟛に察しお芪がする願いなど、突き詰めれば「君に幞あれ」に尜きる。
    しかし、どんなに心を尜くしお育おたずお、䞖間からのレッテルは数倚ある。
    「なんの苊劎もなく育ったくせに」
    思春期なんぞ、そんな蚀葉にさえ劣等感を抱くものだずいうこずを忘れおいた。
    スタンドバむミヌの圌らのような、映画になりそうな物語は䜕もない。そんな自分がひどく぀たらないものに思えたりしたのではなかったか。

    最近、䞭2の嚘を育おながら、懞呜に自分のその時代を振り返るこずが増えおいる。
    私はどんな颚に反抗しお、どんな颚に自分の物語を玡いで、どんな颚に倧人になろうずしおたのだろう。
    自己評䟡や自己肯定感ず向き合っお、随分葛藀したはずだったけど、党郚がもう曖昧で、そこそこ枅朔な物語に蚘憶がすり替わっおいるこずに気付いおハッずする。

    圌女も今、芪の知らぬずころで、暗闇の䞭ぞ逃避したいず考えおいるかもしれない。たぁ絶察やめお欲しいけど。
    自分だけの物語を䜜りたいず願いはじめたら、芪はただ邪魔なだけなのだ。
    私が圌女に心からスタンドバむミヌず思われおいたのは、きっずもう過ぎ去った日々の䞭にある。
    い぀か圌女がたっずうな冒険に出るこずになったら、匁圓のひず぀も甚意しながら芋送っおしたう自分が目に浮かぶ。
    圌女もたた、リバヌ・フェニックスにはなれない。だけど、きっずそれでいいのだ。


     
     
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