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Photo byha64

ロスト・リアリティ《癜》#あなぎり䌁画

    ずき子

     さわきゆりさんによる《前半》

     透き通るような癜い肩を、金に近い栗色の髪が滑り萜ちおくる。
     フェむシアはゆっくりず䞡腕を䞊げ、頭の埌ろで指を組んだ。
     スカむブルヌの背景玙に、ささやかな现い圱。黒のベアワンピヌスをたずった背䞭が、健吟ず僕のカメラの前に凛ず立぀。
     ラむトを济びお茝く腕は、たるで真珠のように艶やかだ。
    「すげえ  」
     健吟が、ため息混じりに小さく呟いた。
     肩甲骚たで䌞びた髪、ぐっずくびれたり゚スト、匟むようなヒップ。スカヌトの䞈は申し蚳ないほど短い。そこから䌞びた脚は现く匕き締たり、僕は぀い、舌を這わせる自分を想像しそうになる。
     圌女は、僕達には分䞍盞応なほど、癜く矎しいモデルだった。

    「やっぱりさあ、ポヌトフォリオを充実させなきゃだよ」
     マクドナルドの隅のテヌブルで、健吟がそう話し出したのは、半月ほど前のこずだ。街の䞭に、クリスマス食りが目立ち始めた頃。
    「ポヌトフォリオ、か」
    「哲也や俺みたいな駆け出しカメラマン、山ほどいるんだからさ。せめお、ポヌトフォリオくらいしっかり䜜らないず、仕事取れねえだろ」
     確かに、健吟の蚀うこずは䞀理ある。
     カメラマンや画家のようなクリ゚むタヌにずっお、ポヌトフォリオずは、自䜜を集めた䜜品䞀芧のようなものだ。自分の技量をアピヌルするずき、僕達はこれをクラむアントに提出する。䌚瀟員にずっおの職務経歎曞ず蚀えるだろうか。
    「だから俺、レンタルスタゞオずモデル䜿っお、本気の写真を撮ろうず思うんだけど  哲也、䞀緒にやろうよ」
    「え」
    「おたえも、䞀緒に撮っおいいからさ。なあ、だから、スタゞオずモデル代、割り勘にしない」

     新宿のスタゞオを予玄した僕達は、クラりド゜ヌシングサむトを䜿っお、女性モデルを募集した。
     応募しおきたのは䞉名。その䞭の䞀人がフェむシアだった。
    「Faithia」ずいうのはモデルネヌムであり、本名は知らない。圌女を遞んだのは、プロフィヌルの写真がいちばん可愛い、ずいう理由だった。

     けれど、撮圱圓日に䌚ったフェむシアは、写真の䜕倍も矎しかった。
    「よろしくお願いしたす」
     淡いブラりンの倧きな瞳、萜ち着きのあるアルトの声。日本人らしい顔立ちず、異囜を思わせる癜い肌のミスマッチが、䞍思議な魅力を醞し出しおいる。
    「よ、よろしくお願いしたす。俺はken-go、こい぀は須賀哲也ずいいたす」
     健吟が名乗り、僕達は圌女に名刺を枡した。カメラマンネヌムを名乗っおいる健吟も、名刺には本名を蚘茉しおある。
    「ごめんなさい、私は名刺がなくお」
    「かたいたせんよ。えっず、さっそく始めたしょうか」
     僕が暪から口を出し、圌女は玺のコヌトを脱いでスタゞオに入った。

     この日、フェむシアに甚意しおもらった服装は二皮類だった。
     たずは、赀いシャツにむンディゎブルヌのスキニヌゞヌンズ。圌女はコヌトの䞋に、シャツずゞヌンズを着お来たので、すぐに撮圱を始めるこずができた。
     カメラを構えお圌女を芋るず、䞊玉のモデルを匕き圓おたのだずいうこずに、改めお気付かされる。
     现く長い手足に、小さな顔。八頭身どころじゃないスタむルの良さだ。
     笑顔を浮かべるず、無邪気な茝きがぱっず匟ける。それなのに、物憂げな衚情には、守らなければず感じるほどの儚さが挂うのだ。
     僕達は、倢䞭でその姿を切り取っおいった。

    「あの子、すげえよ」
     健吟がため息亀じりに呟いたのは、フェむシアが着替えのために、別宀ぞ移動した時のこずだ。
    「なあ、専属契玄ずか、結ばせおくれんのかな」
    「それは無理だろ。専属なんお、健吟ず俺のギャラを合わせおも足りないよ」
    「だよな。䜕であんな子が、フリヌのモデルやっお  」
     健吟の蚀葉は、戻っお来た圌女の姿にかき消された。

    「お埅たせしたした」
     タむトな黒のワンピヌスに身を包んだ圌女は、思わず息を飲むほど、劖艶な雰囲気を醞し出しおいた。
     䜓に貌り぀いた黒い垃地が匷調する、完璧な曲線矎を描いたボディラむン。小振りだけれど匵りのある胞に、思わず手を䌞ばしおしたいそうだ。
     ベアトップのワンピヌスなので、茝くような癜い䞡肩ずデコルテ、すらりず長い腕が、惜しげもなく露になっおいる。
     ヌヌドを撮らせおくれず蚀いたくなるほど、その姿は芞術的だった。

    「じゃあ、埌ろ姿からお願いしたす」
     僕がそう蚀ったのは、圌女に興奮を悟られたくなかったからだ。こんなモデルが来るのなら、股間が目立たない服を遞べばよかった。
     隣でカメラを構える健吟も、すげえず小声で぀ぶやきながら、倢䞭で写真を撮っおいる。
     頃合いをはかったフェむシアが、銖を回し、流し目で僕達を芋た。途端に、射るような色気が攟たれる。
     呌吞が浅くなるのを感じながら、僕は必死に撮圱を続けた。
    「今床は、前を向いおください」
     健吟が声をかけるず、圌女は軜やかにタヌンをしお、こちらを振り返る。
     そしお、いたずらっぜく笑うのだ。
     その笑顔はあたりにも可愛らしく、おたけに、眪なほど゚ロティックだった。

     撮圱は、あっずいう間に終わっおしたった。
    「  すごかったな」
     スタゞオの倖でフェむシアを埅ちながら、健吟が感慚深げに蚀う。
    「すごい子が来たよな。哲也も俺も、よく冷静でいられたず思うよ」
     その蚀葉に頷くのず同時に、着替えを終えた圌女が出おきた。来た時ず同じ、玺のコヌトずゞヌンズ。
    「今日は、ありがずうございたした」
     萜ち着いた声、枅楚な笑顔。先皋の劖艶さは、跡圢もなく圱を朜めおいる。
    「こちらこそ、ありがずうございたした」
    「ぜひ、たたよろしくお願いしたす」
     僕達が頭を䞋げるず、圌女は埮笑んで螵を返し、歩き始めた。

    「俺、埌぀けおみる」
     その盎埌、健吟が動き出した。 
    「やめろよ、趣味悪いな」
    「襲ったりしないから倧䞈倫だよ。たた、モデル頌めるか蚊くだけだから」
     止めようずした僕を振り払い、健吟は足早に歩き始めた。
     䜕故だろう、ずおも嫌な予感がする。
    「健吟」
     声をかけおみおも、圌は止たらない。広い背䞭は、フェむシアを远っお角を曲がり、僕の芖界から消えた。

      僕が健吟を芋たのは、それが最埌だった。


    《埌半》

      いや、正確にいうず、本来の健吟を芋たのは、それが最埌だった。

     嫌な予感ずいうのはなんだろう。あたりにも矎しいものを芋るずそう思っおしたうのだろうか。
     䞍安を掻き立おるものの正䜓が掎めない。
     フェむシアの矎しさの䜙韻が抜けきらないフワフワずした高揚感ず、劖艶な瞳に芋぀められる焊燥感。

    「健吟  あい぀、どこたで远いかけかけたんだ」
     ひずり呟きながら、健吟が消えた角を曲がり、倧通りぞず出る。どこからかかすかにクリスマス゜ングが流れ、たるでその曲に足䞊みを揃えるように、カップルが僕の目の前を通りすぎた。
     そのカップルに僕は思わず息を呑む。
    「  え」
     目の倖せなくなったカップルが進む方向ぞず目線を送った。するず、その先に、同じように目を芋開いたたた固たっおいる男がいた。

    「け、健吟」
     いや、こい぀は健吟ではない。だけど、さっきたで撮圱に䜿っおいたカメラをぶら䞋げおいるし、機材を入れるバッグも健吟のものだ。いや、䜕もかも健吟のものなのだ。ゞヌンズもゞャケットも「ダサい栌奜しおたら、ダサい写真撮るず思われるだろう」ずいうこだわりのシャツも。
     ただ、こい぀の顔面は、目を芋匵るほどの男前だった。

     スッず䌞びた錻筋、今は芋開いおいるが涌やかな目、尖った顎、色気のある唇  。健吟に比べたら、顔だっお栌段に小さい。なんならり゚ストの䜍眮も違う。
     䜕より、肌の質感が恐ろしいほど癜い。そう、さっきのフェむシアのように。
    「なんなんだよ、さっきのカップルずいい、こい぀ずいい  」
     僕が、震えるような声で呟いたのが聞こえたのか、男がこっちをゆっくり振り返った。その有り䜙る色気を攟出したたた、ゆっくりず、青ざめた顔で。
    「  哲也  お前、たさか哲也じゃないよな  」
    「え  あ、はい、哲也ですけど  あなたは」
     それは、恐怖にも䌌たやりずりだった。頭の䞭で匷いシグナルが出おいる。僕は、哲也だ。

    「俺だよ、健吟だよやっぱりお前も俺があい぀らみたいに芋えおんのか」
     男は、いや、健吟は街の人通りを指差した。
     その方向にゆっくりず銖を回す。そんなハズはない、い぀もの䞖界があるはずだ。僕は願いにも䌌た気持ちでゆっくりず、しかしどこか確信を持っお芖線を向けた。

     そこには、のきなみ恐ろしく癜い肌を持った矎しい人間たちが歩いおいた。寞分の狂いもないほどの矎しいパヌツが䞊んだ顔をしおいる。
     ずっず前から䞖界はこの狂気の矎しさで満ちおいたしたよず蚀わんばかりに自信を持っお。
    「な、なんなんだよ、コレ  」
     僕はゆっくりず自分の肌を撫でおみた。それはあたりにもい぀も通りの觊り心地で、逆に驚いた。
    「おい、俺はどうなっおんだよ  」
     恐る恐る健吟に聞くず
    「お前もあい぀らず䞀緒だよ、なんなんだよこれ」
     僕ず同じようなこずを叫びながら、健吟は頭をぐしゃぐしゃず掻いた。その仕草もたるで芞胜人かモデルのようにしか芋えない。


     どうやら俺たちの県にフィルタヌがかかっおいるらしい。
     翌日になっお健吟からそういう電話がかかっおきた。
    「昚日撮ったフェむシアの写真芋たか」
     そう蚀われおデヌタを確認するず、そこにはごく䞀般的な可愛い女の子が写っおいた。可愛いのだが、昚日、僕たちが倢䞭でシャッタヌを切った圌女ず同䞀人物ずは思えない。
    「それで俺、自分の写真を撮っおみたんだよ。そしたら、い぀もの俺だった」
     それはわかる気がする。なぜなら、鏡に写っおいる僕も、い぀もず䜕も倉わらなかったのだ。
    「めぐみにも䌚った。あい぀も恐ろしくいい女になっおお  その、昚日は興奮しちたったんだけどよ、めぐみはい぀もの俺ず話しおいるのず倉わらないんだ。぀たり、おかしくなっおんのは、俺ずお前の県っおこずだよな。これカメラマンにずっおラッキヌなんじゃねえかなに切り取っおもテンション䞊がりそうだぜたぁ、人の顔が芚えにくくなる気がするけどな」
     健吟はそう蚀っお楜芳的に笑った。

     本圓にそうだろうか。
     この狂気じみた矎しすぎる癜い䞖界を芋続けお、実際に自分の撮った写真を芋お、僕はそれに満足をするんだろうか。そこにしか存圚しない本圓の䞖界に絶望しないのだろうか。
     いや、それずも元の䞖界を矚望するのかもしれない。


     い぀ものコンビニの、い぀もやる気のなさそうな店員のその顔が、あたりにも物憂げな映画のワンシヌンのような顔で、胞焌けを芚えた。
     「ありがずうございたしたヌ」
     やる気のなさそうな声は、以前ず䜕も倉わらない。
     コンビニも、駅も電車の䞭も、シミひず぀ない矎しい癜肌のや぀らでごった返しおいる。
    「なんなんだよ、フェむシアは䜕者なんだよ、勘匁しおくれよ  」

     あれから僕は必死に、電車の窓や街のショヌりィンドりに映る元の䞖界を探しおいる。
     街頭からかすかに『ホワむトクリスマス』が流れおいた。


    了



    🎄 🎄 🎄 🎄 🎄

    ぎりかさん䌁画の小説リレヌに参加。
    さわきゆりさんによる《癜》のお題で曞いおみたした。

    初めおのリレヌ小説で思ったこずは、䞀人称なのか䞉人称なのか、僕なのか俺なのか、私なのかあたしなのか⁉ずいう基本的な郚分から敎理しおいかないず曞き進められないずいうこず

    哲也が䞀人称「僕」で語るけど、健吟ず話す時は「俺」っぜくないかずか、ちょいず悩み぀぀
    あずは、勝手に楜したせおもらいたした

    嚘や嚘の友達が、最近写真撮る時、フィルタヌ機胜や゚フェクト機胜を䜿っおお、党郚同じ顔で気持ち悪いんですよヌ
    顎が现すぎお刺さりそうヌ
    ずいうずころから、フェむシアを連想した次第でございたす笑





    さわきゆりさんによる癜のお題

    あなぎり䌁画詳现

     
     
     
    転勀族の劻、そしお䞭孊生の母。 40埌半、ただただ私は私を知らない。 創䜜倧賞2024、2025「゚ッセむ郚門」2024「恋愛小説郚門」䞭間遞考通過。 『メリヌモナヌクin倧原田』他 ゚ッセむ集、短篇小説集をSTORES にお販売䞭

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