
種いも泥棒とすでにじゃがいも畑➁|遺産農業はじめました
心躍る植え付けの日の巻
父の生前から冷蔵庫に合ったじゃがいもを割って作った、
納屋で乾燥中の種芋がプランA。
メルカリで購入したじゃがいも苗がプランBとなった。
遺産農業の地で、どんな野菜を庭畑に植えていくのかという議論の結果、
メインコンテンツはサツマイモ、そして次点としてじゃがいもを選んだ姉(私)と弟。
かなり野良仕事が好きな姉と、自然大好きだけど農業に興味のない弟という組み合わせで実施している遺産農業には大事なことがいくつかある。
1.手間がかかってはいけない。
週末、それも毎週末は行くのが難しい遺産農業は世話は最小限、手間がかかってはいけない。
2.みんな楽しい。
毎週のように休みを遺産農業の地で過ごすため、支えてくれる周囲の人も楽しくなくてはいけない。
3.収穫は一回で済む。
これは夏野菜のような、毎日の楽しみとしての収穫は難しいため。間が開くときは3週間とか行けないことを覚悟しなければならないので。
ずぼらでも収穫の喜びを味わい、その幸せをおすそ分けできるのが、さつまいもとじゃがいも、ということになったのだ。
プランAは遺産農業の地の納屋で乾燥中である。
姉(私)はプランBのじゃがいもの苗@メルカリを携え、
私たちは少しうきうきしていた。
いつもはほとんど休憩なしで走り切るのだけど、
今日はさつまいもの苗を入手しなければならない。
先週の準備中、
当初私たちは、さつまいもも『種芋』を購入して育てるのだと思っていた。けれど、じゃがいもの種芋探し中に理解したところによると、
さつまいもはどうやら、『棒』みたいな苗(?)を購入して始めるもののようだった。
初めてその『棒』に、『べにあずま』と書いてあるのを見た時、
私たちは数十秒、無口だった。
「こ、これなのか?プロ仕様すぎないか?」
「これからほんとに根が出て葉が出るのか?」
「イメージと違う。じぇんじぇん違う…」
まあそんな感じのことを、お互い考えていたと思う。
だけど、それはあまりに当たり前に、大量にそこに売られていた。
田舎の慣れないしきたりや習慣に翻弄されていたころで、
勝手がわからないことばかりの日々に少し疲れていたのかもしれない。
すっかり恥ずかしがり屋にもなっていた二人は、
店の人に相談することも、
隣の春江ちゃんに相談することもなく、
黙ってそれを購入することを決めたのだった。
植え付けを予定していた日の往路、
私たちはいつもは素通りするだけのいくつかのホームセンターに立ち寄り、素人二人が納得のいく元気そうなさつまいもの棒(苗)を入手した。
植え付け準備は先週から始まっている。
先週、納屋にあった『じゃがいもの肥料』の袋から黒いつぶつぶを取り出し、庭畑にパラーっと撒いた。
昨年父がじゃがいも用に使った肥料だと信じているが、袋を再利用しているだけで、中身が入れ替えられているかもしれない。
が、しかし知るすべはない。信じて進むのみ。
それでいいのかわからない農機具を手に、土に混ぜ込んである。
「土の状態を整えるなんて、これは本格的だ!」
自画自賛である。
まだ種芋を植え付けてないのに、
先週はもうすでに誰かに自慢したい気持ちだった。
先週は東北で少し強めの地震があり、お菓子の箱に入れて納屋で乾燥中のプランAの種芋のことを思った。
「不安定な場所に置いてきてしまったけど、落ちてしまっただろうか…」
父の生前は、母もそこにいて、地震があるたび心配して電話したものだったな。
今のその家は、震災の日の1週間前に竣工した。
建て直す前の家は、古い2階建てで、ものすごく広かったけど、半分以上が農作業用の部屋だった。
私たちも小さい頃から『おばあちゃんち』として訪れていたから、
思い出がたくさんある家だった。
家の主人だった祖母が91歳で亡くなったのをきっかけに、
父は私たちを育てたマンションを離れて、
そこにオール電化平屋建ての家を建て直し、自分の終の棲家とした。
父がかなり強引に建て直しを決めたものだから家族はかなりむっとしていたのだけど、それでも母は田舎暮らしを少し楽しみにしているようだった。
「こちらは快調、最高だ!」
と、酔っぱらって連絡してきた新居への入居の1週間後、
あの大きな震災が起こった。
以前の家、農家仕様の立派な2階建ての家は、壊す前すでに傾いていた。
もしかしたらあの地震で倒壊していたかもしれない。
私たちは、しばらく元のマンションで過ごしたらどうかと父を説得したけれど、
「新築の家は雨どいが少し外れた程度で済んだし、米も野菜もある。
途中給油できなかったら帰りつかないんだし、
好きな音楽を聴いて、こちらでのんびり過ごすよ。」
といって、帰ってこなかった。
父は大学進学から実家を離れて、そのまま東京で就職した。
農家ばかりのその地域では、神童のように育ったと、これは本人談。
笑いながら、だけどマジで自慢していた。
反面、できすぎ君で早くに家を出てしまった父は、
その土地に帰りたくて帰りたくて、
母親(祖母)に愛されたくて、可愛がられたくて、
仕方なかったのだと思う。
子ども心に、それをいつも感じていた。
そんなことを子どもに悟られていることが、
「かっこ悪いな」
と、姉(私)は思っていた。
やっと帰った、やっと始まった新生活を、父が手放すはずもなかった。
作業開始!
さて、現代の話に戻ろう。
私は遺産農業の地、庭畑に到着すると、
また納屋から見よう見真似のそれっぽい道具を取り出した。
遠くに種芋乾燥中のお菓子の箱が並んでいるのが、心をくすぐる。
畝のようなものを1列、2列と作っただけで、
すでに腰も腕も、背中も痛い。

道具から、へとへと度合いが伝わってくる気がする。
ピカピカだった自慢の長靴はすでに泥だらけ、
畝づくりが下手すぎて長靴の中で石がコロコロする。
でも…楽しい♪
2列畝を作っても、まだ庭畑にはかなりの余裕がある。
余裕エリアの雑草は、ぼちぼち大きくなってきていた。
去年の庭畑の雑草を思い出すと、確か人の膝の上くらいまで背を伸ばしていた。
中には、姉(私)の背丈以上ではないかという、大きな草(ほぼ低木)もあった。
今年も放っておけばいずれお芋様たちを覆いつくす勢いになるのだろう。
この夏は庭畑の雑草は、ある程度ちゃんと整理して、
お芋様に日が届くように、栄養が取られないように、してあげなければ。
収穫の日までにするであろう苦労に思いをはせ、
来週からは雑草をとるぞーと、気合を入れ直した。

父が植えたまま雑草に埋もれたネギも、今ならその存在がはっきり見える。
去年は雑草しかないと思っていた。
準備万端整い、まずは先週用意したプランA
のじゃがいもをとりに納屋へ。
がらりと開けたその先に、先週の地震に耐えてお菓子の箱が並んでいる。
ほっとして近づく私の目に入ってきたのは、
お菓子の箱…だけだった。
種芋がない。
先週から乾かしていた、プランAの種芋がない。
父の生前から冷蔵庫で眠っていた、あの種芋が、ない。

「え?なんで?」
いっこもない。
落ちてもいない。
不安定な場所にすこしかたかたと揺れる箱があるだけでなのである。
弟が持って行ったのかと呼びに行って状況を説明するも、
弟も爆笑するばかり。
この建物は意外と外からの侵入を許さない。
出入り口の引き戸は建付けが悪く、慣れた人でないとスッとは開けられない。
そう、最低限、人でなければ入れない場所なのだ。
姉(私)「全然売ってなかったし、誰かが種芋欲しさにもっていったのかな?」
弟「この辺みんな農家なのに、あんな貧相な種芋持っていくはずないよ」
姉(私)「じゃあだれが持って行ったのかな。狸ってじゃがいも食べるかな?」
弟「あの扉を開けられる狸はいないな。開けられるのは人だけだよな…」
私たちは顔を見合わせてにやにやといろんな想像を披露しあいながら笑った。
『絶対無い話』で笑い合える時、人は幸せな空気をもりもり出す。
私たちは子供のようにはしゃいでいた種芋の植え付け機会を奪われてしまった。虫の知らせというのか、プランBの苗を買ってあってよかった。
種芋の消失は衝撃ではあったけど、プランB@メルカリの苗を、
私たちはさっきの『絶対ない話』を継続して、
にやにやしながらせっせと植えた。
バケツに入れて水を吸わせた、さつまいもだという『棒』も、よくわからないけど、上下だけ気を付けて、畝に突き立てるように植えた。
じゃがいもの苗はプランAがいなくなったこともあり、
大切に優しく、じゃがいもの葉ってこんなだったんだね―などと愛でながら植えていった。
さつまいもの『棒』に関しては、時々上下が分からないほどだったから、
観察しながら真剣に植えた。
すべての苗を植え終わりると、弟は、
「苗を植えたら、土を落ち着けるために水を撒くんだ」
と、ホースのリールを伸ばし始めた。
腰の曲がった体制で座り込んで土いじりをした姉(私)も、
立ち上がり、体を延ばして、ストレッチをはじめた。
よいしょと体をひねって後ろ向いたとき、
その光景に私は動きをぴたりと止めた。
さっきまでの余裕エリアが一瞬にして、雑草エリアではなくなっていた。
そこは、すでに完成されたじゃがいも畑になっていたのだ。。。
長くなってしまったので、③に続きます。
