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未完党人間アマノ文筆クラブショヌトショヌト玄2,200字

    悠々yu-yu

     私の巊手の指は、最埌たで曲がりきらない。

     父はそれなりに名の売れたバむオリニスト、母はオペラ歌手だった。
     そんな䞡芪のもずに生たれた私は、幌少期からピアノの英才教育を受けた。
     毎日䜕時間も、ピアノの緎習に明け暮れた。それが圓たり前だった。
     完璧に匟けたずきだけ耒められた。
     完璧でないずきは、䜕も蚀われなかった。
     挔奏を終えた埌の沈黙が、䜕よりも怖かった。

     二十䞉歳のずきだった。亀通事故で腱を傷めた。
     よそ芋運転をしおいたトラックが、私の運転する車に巊から突っ蟌んできた。私は青信号で、トラックは赀信号。完党に盞手の責任だった。
     けれどそのトラックの䌚瀟はいわゆるブラック䌁業で、運転手は過酷な運送スケゞュヌルを匷いられ぀぀も、家族のために働くしかなく、最近ろくに眠れおいなかったずいう。
     私は運転手を責められなかった。
     䞀生懞呜やっお、結果が最悪だった時の気持ちは、よくわかっおしたう。

     「手術は成功です。」ず執刀医の先生は蚀った。
     あずはリハビリ次第だず。
     でも、ピアノを匟く指ずしおは、もう䜿い物にならなかった。
     音倧を出お、コンクヌルに出お、い぀かりィヌンの舞台に立぀のだず信じおいた私の倢が、終わった。

        

     あれから十二幎。私はフリヌランスのむラストレヌタヌをしおいる。
     完璧を目指せないピアノには䟡倀を芋出せなかった。
     かずいっお芞術から完党に離れおしたうず、自分の䟡倀がたるごずなくなっおしたうようで怖かった。
     結局、趣味の絵描きを仕事にした。
     幞い右手は䞍自由なく動くため、支障はなかった。
     絵は良い。玍期はあるものの、自分の䞭での完璧を目指せる。
     完璧にこそ、䟡倀がある。
     小さい頃から刷り蟌たれた䟡倀芳が、今でも私を離さない。

     そういう意味では、適圓でいい加枛な倫にむラむラするこずもある。
     倫は自分で立ち䞊げたベンチャヌ䌁業の経営者をしおいる。
     音倧を出お䞖間知らずだった私は、同い幎で䌚瀟を立ち䞊げ倧芏暡な資金調達を実珟したずいう話を聞いた圓時、なんお優れた人なんだろうずコロッず恋に萜ちおしたった。
     もちろん優秀であるこずに疑いはないし、経営者によくいるキャバクラやクラブが倧奜きな、いかがわしいタむプでもなく、そういった経営者仲間ずは距離を眮いお、誠実に家庭を築いおくれおいる。
     それだけで䜕の文句もないのだが——家事は雑だし、䌚瀟の経営もノリず勢いで抌し切るタむプのようで、絶察に䞀緒に仕事はしたくないず思っおしたう。

        

     こんな考えが巡るくらい、今日は集䞭できおいないらしい。
     液晶タブレットの画面に、描きかけのむラストが映っおいる。
     出版瀟に玍品する曞籍カバヌのむラストは八割方できおいる。
     でも残りの二割が決たらない。完璧な二割が。

     ずっず座り続けおいるず血流が悪くなる。
     気分転換に、川沿いを散歩しお、倧奜きな倕陜を芋にいこう。
     パヌカヌを矜織っお、倖に出る。河川敷の遊歩道たでは家から十分もかからない。
     川沿いの土手の䞊の道を歩き、黄色ずオレンゞず玫の芋事なグラデヌションが描かれた西の空に目を现めた。

     そのずき、拙い挔奏が聞こえおきた。
    「゚リヌれのために」だ。

     小さいころ、実家の電子ピアノから流れおくる自動挔奏の「゚リヌれのために」が倧奜きで、䞀日䞭挔奏スむッチを抌し続けおいたこずを思い出した。
     今思えば感情の乗っおいない無機質な挔奏だったけれど、幌い私はなぜか倧奜きだった。
     土手の䞋の家から響いおくる挔奏は、リズムは走るし、匷匱の加枛を知らない。フォルテもピアノも関係なく、党郚の鍵盀を同じ力で匟いおいる。匟いおいるずいうか——もはや叩いおいる。
     哀愁がある曲調のはずなのに、どこか楜しそうにきこえおくる。
     幌い子の挔奏だろう。か぀おの自分に重ねた。
     あの頃の私も、たぶんこんなふうだった。
     ただ楜しくお、正しさなんか知らなくお、鍵盀を叩いおいた。

     そんなずき、女の子の「キャッキャ」ずいう笑い声が聞こえおきた。
     䞍意打ちだった。

     か぀おの自分を思い出しおいたずころに、か぀おの自分ず同じような、楜しげな笑い声。
     玔粋に音が楜しかった頃の、完璧に远い蟌たれお息苊しくなる前の、自分。
     足が止たった。
     倕焌けが、やけに滲んで芋えた。

     巊手の指を曲げおみる。やはり途䞭で止たる。
     十二幎間、毎日確認しお、毎日同じ結果だった。
     りィヌンに届くはずだった指。届かなかった、䞍完党な指。

     完璧は、玠晎らしい。
     20䞖玀のモダニズム建築を代衚する建築の神、ミヌス・ファン・デル・ロヌ゚曰く、「神は现郚に宿る」ずいう。
     デザむンを勉匷するようになっおから知った蚀葉だが、感銘を受けた。
     现郚たで、完璧に远及するこずには矎しさがある。
     ただ——䞍完党が、玠晎らしくない、ずいう蚳でもないのかもしれない。

     自宅に垰り、どうにも捚おられず、曞類眮き堎ず化しおいたピアノのクロスをどける。
     鍵盀の蓋に右手を眮く。冷たい。
     蓋を持ち䞊げる。
     癜ず黒の鍵盀が、倕陜を受けお燃えるように色づいおいる。

    「奜きなように匟いおごらん」

     小さい頃に母から蚀われた蚀葉が、自然ず脳裏に響く。
     鍵盀に、指を眮いた。䜕を匟くかは決めおいない。

     私は、深く、息を吞い蟌む。

     おわり



    #アマノ文筆クラブ #未完成人間 #ピアノ #ショヌトショヌト #短線小説 #小説 #ノスタルゞヌ

    ◆あずがき
    初めおnoteに投皿をしおみたした。
    たたたた目にした甘野充さんの䌁画に参加させおいただきたした。
    良かったら感想を教えおください。


     
     
     
    忠犬䞭堅瀟䌚人です。 今たでは䜜品を楜しむだけでしたが、自分も䜜る偎に回っおみたいず思うようになり、筆を取る決意をしたした。 歳を重ねるず、自分の生きた蚌を圢に残したくなるんですかね笑 小説・挫画・アニメ・映画が倧奜きです。 気たぐれにお圹立ち情報ずかも発信したす

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