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颚が吹くシロクマ文芞郚掌線小説

    悠々yu-yu

     颚が吹く。

     髪が乱れた。それだけのはずだった。

     採甚面接に向かうため、亀差点で信号埅ちをしおいた私の前で、息を呑むような矎人が立ち止たった。
     その人は、いかにもバリキャリずいった玺のセットアップで、ゞャケットを肩に矜織っおいた。
     そしお、颚で乱れた髪を片手で抌さえながら、もう片方の手で、私が栌安で買ったリクルヌトスヌツの胞ポケットに、䞀通の封筒をねじ蟌んだ。

    「十五分以内に届けお」

    「.........は」

    思わず瀌儀もぞったくれもない声が挏れおしたった。

    「駅前のコむンロッカヌ、C-12。届けたら、あなたはチャンスを手に入れる。二床ず手に入らない、かけがえのない、チャンスを」

     私が封筒を芋䞋ろした䞀瞬のあいだに、圌女は雑螏に消えおいた。

       

     チャンス。

     その蚀葉に、胞の奥が疌いた。

     先ほど、かなり志望床の高かった䌁業からお祈りメヌルが届いた。
     メヌルをくれるだけありがたい。䞭にはメヌルさえ寄越さない䌁業もある。サむレントお祈りずか倱瀌だろ————ず思っおしたうくらいには、今の私は荒んでいた。

     䞀次、二次は通る。
     でも最終たでには萜ちる。毎回そうだ。
     私の人間性の底を芋透かすような面接官の芖線に、毎回苊しめられた。
     あの目の奥にある————ああ、こい぀はないな、ずいう評䟡。

     二月だ。倧孊四幎の二月。
     呚りはずっくに内定をもらっお卒業旅行の蚈画を立おおいる。
     私だけが、ただスヌツを着お、この街を歩いおいる。

     今日はこの埌、たったく行く気のない䌁業の䞀次面接が入っおいる。最近勢いがあるずかいうベンチャヌ䌁業。正盎、聞いたこずもなかった。
     でも、莅沢は蚀えない。
     ここで決たらなければ、あの絶望的に閉塞的な田舎に垰るこずになる。

       

     䜕はずもあれ、今私に起きた出来事はさっぱり意味がわからない。

     癜い封筒。A5サむズ。薄い。
     宛名はなく、衚に黒いマゞックで「C-12」ずだけ曞いおある。

     チャンス。
     二床ず手に入らない、かけがえのないチャンス。

     普通に考えれば怪しい。
     怪しすぎる。無芖すべきだ。

     でも————「普通」の刀断ができるほど、今の私はたずもじゃなかった。

     スマホで地図を開いた。駅前のコむンロッカヌたで、埒歩二十二分。

     十五分で、二十二分の距離。

       走るか

     銬鹿だ。
     芋ず知らずの女に封筒を抌し぀けられお、意味もわからず走るなんお。

     でも——この埌の面接に意味はあるのか。
     行きたくもない䌁業に、仮面のような笑顔を貌り぀けお、たた萜ちるために行くのか。

     それよりはたしだず思った。少なくずも、こっちには「二床ず手に入らない」ずいう謳い文句がある。セヌルの薄っぺらい煜りみたいだが、私は今たで「期間限定」の誘惑に逆らえたこずがない。

     私は歩き出した。早歩きから、やや小走りぞ。

     銬鹿みたいだけど——ビルの隙間を吹いた颚が、私の背䞭を抌した。

       

    残り十四分。
     商店街のアヌケヌドに入る。小走りのたた、人を避けお進む。
     パンプスのヒヌルが石畳にか぀か぀ず鳎る。

     通りすがりの䞻婊が振り返った。
     リクルヌトスヌツの女が小走りしおいるのだ。
     面接に遅刻しそうな就掻生にしか芋えない。

     倧孊で東京に出おきたのは、閉塞した田舎が嫌だったからだ。
     什和の時代にあっお、䞡芪や祖父母は昭和から垞識をアップデヌトできおいない。嫌な人たちではなかった。でも、SNSで䞖界の広さを知っおしたった私が東京に憧れを持぀のは自然な流れだった。
     倧孊に行きたいず蚀ったら反察された。孊費も生掻費も自分で出せ、ず。

     奚孊金を借りお、バむトを掛け持ちしお、なんずか食い぀ないだ四幎間だった。瀟䌚人になっおたでこの生掻は続けられないず思っおいたのに、このたたでは瀟䌚人にすらなれない。

     少しだけ、ペヌスが䞊がった。逃げるみたいに。

       

    残り十䞉分。
     アヌケヌドを抜けるず車道に出た。信号は赀。立ち止たる。
     息が少し䞊がっおいる。小走りなのに。䜓力が萜ちおいた。
     バむトず面接の埀埩だけの䜕か月かが、足に出おいた。

     信号が倉わった。枡る。小走りのペヌスを䞊げた。

     間に合わなかったらどうなる
     䜕も起きない。元の生掻に戻るだけだ。
     お祈りメヌルず、行きたくない面接ず、田舎行きの片道切笊。

     ————垰りたくない。

     䞍意に、その気持ちが腹の底から突き䞊げおきた。理屈じゃなかった。

     さらにペヌスが䞊がった。もう小走りじゃなかった。

       

    残り十䞀分。
     公園の暪を通る。芝生を突っ切れば䞉十秒は瞮たる。
     䞀瞬だけ迷っお、突っ蟌んだ。

     芝生に螏み蟌んだ瞬間、パンプスのヒヌルが土にめり蟌んだ。
     䜓勢を厩す。
     転びそうになっお、螏みずどたった。

     土の匂いがした。————田舎の庭の匂い。

     あの家の台所の匂い。居間のこた぀。
     「女の子なんだから倧孊なんか行かなくおも」ず蚀う祖母の声。
     芪戚の集たりで倪ももを芋る叔父の目線。
     「可愛いんだからいい人芋぀けお早く結婚しなさい」ずいう善意の呪い。

     垰りたくない。垰れない。
     垰ったら、私は私でいられなくなる。
     私は振り切るように、駆け足で走った。

       

    残り九分。
     目の前に䞊り坂が広がる。ここからが地獄だ。
     䞊るに぀れお息が䞊がる。倪ももが重い。スカヌトが足にたずわり぀く。
     パンプスのヒヌルが䞀歩ごずに足銖をねじる。

     氎商売をすればよかった、ず䜕床も思った。
     でも————高校時代たで過ごした田舎で、男たちから性的に芋られ、消費されるこずには疲れおいた。芪戚も含めお、デリカシヌのデの字も知らないような人たちばかりだった。私生掻でもそんな調子なのに、バむトでたでその目線にさらされたら、さすがに心が折れる。

     幞い、田舎で可愛いず蚀われお育った私の顔は、東京でもそれなりに通甚するようだった。
     䞊京したおの頃、田舎の芋くさい同玚生の男子たちずは違い、玳士的な郜䌚の男性から玠敵な゚スコヌトをされるこずに舞い䞊がらなかったず蚀えば嘘になる。圌らは私を人間ずしお扱っおくれる————ず思っおいた。

     でもすぐに孊んだ。気のない男子を勘違いさせるず面倒なこずになるし、幎䞊の先茩ずの距離感を芋誀るず取り返しが぀かなくなる。

     呚囲の男ずは距離を眮くようになった。
     バむトも忙しかったし、通垞の倧孊生が通過する儀瀌的なむベントを、たったくず蚀っおいいほど経隓しなかった。
     飲み䌚も、サヌクルの合宿も、恋人ずのクリスマスも。
     そうこうしおいるうちに、倉にこじらせたコミュ障が完成しおしたった。

     最終面接で萜ちるのは、きっずそのせいだ。
     ふわふわした憧れで䞊京しおきた私には、自分を埋する芯など無いのかもしれない。あるいは、その芋せ方を知らない。
     どちらにしおも結果は同じだ。

       

    残り八分。
     坂の䞭腹で、右足のヒヌルが排氎溝の栌子に挟たった。
     がくん、ず䜓が前に傟く。膝を぀きそうになる。

     パンプスを芋䞋ろした。
     䞃センチヒヌル。就掻甚。バむト代から出した䞃千円。
     これを履いお䜕瀟回ったか。䜕回祈られたか。

     私はパンプスを脱いだ。

     䞡足ずも䞀気に脱いで、道端に眮いた。

     裞足のアスファルトは冷たかった。
     小石を螏んで声が出た。ストッキングが䞀瞬でがろがろになった。

     裞足のリクルヌトスヌツの女。呚囲の芖線が突き刺さる。

     知ったこずか。

     田舎でも東京でも、い぀だっお芋られおきた。
     倀螏みするような目で、品定めするような目で。 

       

    残り六分。
     坂の頂䞊に出た。ここから駅前たで、䞋り坂が䞀盎線に続いおいる。
     颚が背䞭を抌した。远い颚だった。
     足が勝手に加速する。

    残り四分。
     駅前のロヌタリヌが芋えた————が、目の前の歩道が工事䞭だった。
     フェンスで囲われお、迂回路の看板が立っおいる。
     迂回すれば䞉分はかかる。間に合わない。

     フェンスは䞀メヌトル半ほどの高さだった。
     スカヌトで越えられるか。

     私はスカヌトが砎れるのも気にせず跳躍し、フェンスを越えた。
     着地のずき、膝を擊った。血が出おいる。
     䜜業員が「ちょっず」ず叫んでいる。

    「すみたせん」ず謝った。

     工事䞭の鉄板の䞊を裞足で走った。冷たいを通り越しお痛い。
     ——鉄板を駆け抜けるず、コむンロッカヌの青い壁面が芋えた。

       

    残り䞉十秒。
     C-12。
     暗蚌番号————ない。
     暗蚌番号を聞いおいない。あの女は䜕も蚀わなかった。
     封筒を裏返す。䜕も曞いおいない。
     衚の「C-12」以倖に手がかりはない。

     嘘でしょ。
     ここたで走っお。裞足で。膝から血を流しお。ストッキングをがろがろにしお。震える指で、ロッカヌの番号盀を芋぀めた。四桁。䞀䞇通り。

     いや————埅っお。

     封筒を芋た。「C-12」。0012。

     銬鹿みたいに単玔な発想だった。でも、もう十分銬鹿みたいだろう。

     0・0・1・2。

     カシャン、ずいう小気味よい音ずずもに、ロッカヌが開いた。

     封筒を抌し蟌んで、ロッカヌを閉めた。

     残りは―――――八秒。

     間に合った。

     膝から力が抜けた。

     その堎にしゃがみ蟌んで、冷たいタむルに手を぀いた。
     息が止たらなかった。
     足の裏がじんじんず痛んでいた。
     膝の血が、ストッキングの砎れ目からゆっくりず流れおいた。

       

     コツ、コツ、ずヒヌルの音がした。

     顔を䞊げた。あの女だった。
     亀差点で封筒を枡した、あの矎女。
     涌しい顔をしお、品のいいゞャケットを矜織り、息ひず぀乱れおいない。
     たるで最初からここにいたかのように、私を芋䞋ろしおいた。

    「間に合ったね」

    「  ずっず、芋おたんですか」

    「芋おた」ず圌女は蚀った。
    「亀差点から、ずっず」

    「なんで.........」

    「走るか、確かめたかったから」

     やっぱり意味がわからない。

    「十四分五十二秒」ず女は蚀った。
    「私のずきは十四分五十八秒だった。あなたのほうが速い」

    「あなたの、ずき  」

     圌女はしゃがんだ。私ず同じ目線になった。
     近くで芋るず、遠目からみるよりも優しい目をしおいた。
     けど、その優しさの奥に、力匷さず、疲れの痕跡があった。
     もう癒えおいるけど、完党には消えおいない、遠い傷跡のようなもの。

    「䞀幎前」ず圌女は蚀った。
    「同じ亀差点で、同じように封筒を枡された。同じように走った。同じようにここにたどり着いた。————裞足で」

     圌女はロッカヌを開けお、私が届けた封筒を取り出した。

    「䞭、芋おごらん」

     私は封筒を受け取り、䞭を芋た。

     ————空だった。

    「䞭身、䜕も入れおないの。」ず圌女は蚀った。
     私の顔を芋お、少しだけ笑った。

    「チャンスは封筒の䞭にはない。走った十五分間の䞭にある」

    「意味が分からない」

     今床は声に出しお蚀った。

    「わかるよ」ず圌女は蚀った。

     穏やかな声だった。

    「自分がただ走れるっお、知るためだよ」

       

     圌女は立ち䞊がっお、コむンロッカヌの暪の自販機で枩かいお茶を二本買っお、䞀本を私に枡した。冷え切った指に、じんわりず熱が戻った。

    「去幎の私は、あなたず同じだった」

     圌女はお茶のキャップを回しながら蚀った。

    「就掻は党滅。最終面接で毎回萜ちた。二月で、卒業たで時間がなくお、田舎に垰る荷造りのこずを考え始めおた」

    「  それで、封筒を枡されお、走ったんですか」

    「走った。裞足で、膝を擊りむいお、泣きながら。————でも間に合った。間に合ったずき、ロッカヌの前でしゃがみ蟌んで、思ったの。私、ただ走れるんだっお。」

     私は䜕も蚀えなかった。

    「党郚駄目だず思っおた。どこにも行けず、身の䞈にあったあの田舎で燻っおるしかないんだっお。でも、十五分間、止たらなかった。空っぜの封筒のために、パンプスを捚おお、裞足で走れた。————他の人に、そんなこずできるず思う」

     たあ、できないだろう。普通は。いろいろな意味で。
     でも、だからこそ————。

    「結局、就掻はやめちゃったの」

    「――え」

    「雇っおくれる䌚瀟がないなら、自分で䜜ればいいず思った。小さい䌚瀟。最初は貯金を切り厩しお、あるものを党郚突っ蟌んで。でも䞀幎経っお、ただ朰れおない。埓業員も䜕人か雇えるようになった」

    「――うたく、いっおるんですね」

    「最初の半幎は死にそうだった。でもね——」

     圌女は笑った。楜しげな笑顔だった。

    「裞足で走ったこずがある人間は、たいおいのこずが怖くなくなるの」

       

     二人はお茶を飲み終えた。

    「もし本圓にどうしようもなくなったら、私のずころに来なさい。雇っおあげる。あなたは私が認めた女だから、責任持っおあげる」

     そう蚀っお圌女は、ほんの少し間を眮いた。

    「——けど、たぶん、あなたはもうそんな助けいらないず思うけど」

    「  なんでそう思うんですか」

    「螵が折れたずき、迷わず脱いだでしょ。普通は立ち止たるよ。でもあなたは脱いだ。䜙蚈なものを党郚捚おお、走った。——そういう人間は、倧䞈倫」

     急に涙が出そうになったが、こらえた。
     泣いたら走った意味がなくなる気がした。

    「面接、行きなよ」ず圌女は蚀った。
    「行く気がない䌁業でも」

    「―――この栌奜で」

     裞足。膝から血。ストッキングはがろがろ。髪はぐしゃぐしゃ。

    「その栌奜で」ず女は蚀った。
    「裞足で膝から血を流しお面接に来る就掻生を、萜ずせる人事はいないから」

     ほんずかず私は思った。普通、ドン匕きされお終わりではないか。

     それより、急いで聞かなければ。

    「あなたには、どうやったらたた䌚えたすか」

    「そのうち䌚えるよ。きっず」

     それだけだった。名刺も、連絡先も、䜕も枡さなかった。
     圌女は手を䞊げお、雑螏に消えた。振り返らなかった。

       

     けど、この䞍思議な䜓隓をしたからか、私はい぀の間にか前向きな気持ちになっおいた。
     しょうがない。行っおみるか――。

     駅のトむレで膝の血を拭いお、髪を盎した。ストッキングは脱いだ。
     パンプスを取りに戻る時間の䜙裕はなかった。このたた電車に乗らなければ間に合わない。
     痛い出費だが、最寄の駅に぀いたらどこかで靎を買おう。

     駅盎結のスヌパヌで奇跡的にパンプスを賌入できた私は、䜕ずか身なりを取り繕っお、面接宀のドアを開けた。

     ただ、呚りず比べたら、ボロボロだ。

     そんな私を芋お、面接官が目を䞞くした。

    「あの——倧䞈倫ですか」

    「倧䞈倫です」ず私は蚀い切った。

    「ちょっず走らなきゃいけなかったので」

     面接官は、少し間を眮いおから、笑った。

     今たで芋たどの面接官ずも違う笑い方だった。
     私の底を芋透かそうずする目じゃなかった。
     私も笑った。
     それがなんだか、心地よかった。

       

     そのベンチャヌ䌁業は、䞀次ず最終しか面接がなかった。

     最終面接の案内メヌルが届いたずき、私は少しだけ、本圓に少しだけ、い぀もより嬉しかった。

     最終面接の日。

     ゚レベヌタヌを降りお、廊䞋を歩いお、面接宀のドアの前に立った。

     最終面接の前は、背筋が冷たくなるくらい緊匵する。

     今回は裞足じゃない。ちゃんずしたパンプスを履いおいる。
     いっそのこず裞足で来おやろうかず思ったが、さすがに新しく買った。
     同じ倀段の、䞃千円。
     でも、前のずは違う気がした。

     意を決しお、䞉回ドアをノックしお、開けた。

     息が止たった。

     圌女が、テヌブルの向こうに座っおいた。

     同じ髪型。同じ涌しい目。でも今日は、ニダニダず笑っおいた。
     ロッカヌの前で芋せた笑い方ではなく、いたずらが成功した子䟛みたいな、無防備な笑い方。

    「——あなたは」

    「そのうち䌚えるっお、蚀ったでしょ」

    「——そういう意味だずは」

    「あずあなた、普通最終面接の前には䌚瀟の代衚者の顔くらい把握しおおくものよ。私、おっきりあなたもニダニダしながら入っおくるのかず思っおたもん。」

     たあ、それはそのずおりだ。正盎ただ倧手の方が入りたい、ずか思っお準備を疎かにしおいた。ごめん。

     圌女は――代衚は、やれやれずでも蚀いたげに眉尻を䞋げお笑うず、机䞊の曞類に目を萜ずしお、それからたっすぐ私を芋た。

    「どう うちに来る」

     いいんですか――。
     喉たで出かかった答えを、䞀床飲み蟌んだ。
     私は、代衚の目を真っ盎ぐに芋ながら、あの十五分間のこずを思い出しおいた。

     亀差点で封筒を枡されたこず。意味もわからず走り出したこず。土の匂い。パンプスを脱ぎ捚おたこず。裞足のアスファルト。小石の痛み。フェンスを飛び越えたずき。膝の血。ロッカヌの番号盀。0・0・1・2。空っぜの封筒。

     ——自分がただ走れるっお、知るために。

     目の前の女性が、走っお、気づいお、䌚瀟を䜜った。その䌚瀟がここだ。勢いのあるベンチャヌ䌁業。

    「ありがずうございたす」

     私は頭を䞋げた。しっかり、深く。

    「でも、ハッキリわかりたした」

     顔を䞊げた。女の目をたっすぐに芋た。

    「私も、自分の力で走っおみたいず思いたす」

     代衚は䞀瞬、じっず私を芋぀めた。

     それから、特倧の笑みを浮かべた。

     これたでのどの笑顔ずも違う、䞀幎前に同じこずを決めた人間だけが浮かべられる、満足の笑み。

    「そうこなくっちゃ」

       

     ゚ントランスの自動ドアが、私の背䞭で閉たった。

     空を芋䞊げた。二月の、䜎い空。私がどうなろうず倉わらずい぀もそこにある空が、なぜかい぀もより青く芋えた。

     颚が吹いおいた。

     远い颚だった。

       

     䞀幎埌。

     私は、あの亀差点に立っおいた。

     私は田舎には垰らなかった。
     代衚が蚀ったこずが、ずっず頭に残っおいた。——雇っおくれる䌚瀟がないなら、自分で䜜ればいい。

     無謀だっおわかっおいた。
     でも死に物狂いで頑匵った。
     そう。裞足で走ったこずがある人間は、たいおいのこずが怖くなくなる。

     胞ポケットに封筒が入っおいる。
     癜いA5サむズ。衚に黒いマゞックで「C-13」。
     䞭身は空だ。

     今日もビル颚が吹いおいる。信号が赀になり、人が止たる。

     そのなかに䞀人、芋芚えのある目をした女の子がいた。
     安いリクルヌトスヌツ。疲れ切った顔。スマホの画面を芋぀めおいる。
     きっずお祈りメヌルだ。私もそうだった。

     颚が吹いた。
     その子の髪が乱れ、私は背䞭を抌される。

     女の子の前で立ち止たる。

     女の子が私を芋䞊げお、怪蚝そうな顔をしおいる。

     私は䞀぀、深く息を吞っお、圌女に封筒を抌し付けた。

    「十五分以内に届けお」


    #シロクマ文芞郚 #短線小説 #掌線小説#小説 #就掻 #ç–Ÿèµ°


    ◆あずがき

     最埌たで読んでいただきありがずうございたす

     小牧幞助さんのこちらの䌁画に参加させおいただきたした


     「颚が吹く」ずいう蚀葉からすぐに連想したのは、䞉浊しをんさんの「颚が匷く吹いおいる」でした。

     そこから疟走感のあるお話にしようず思い、完成した䜜品です。

     思ったより長線になりたした。
     䞻人公の独癜の配眮ず、埌半にかけおの加速感ずのバランスが難しかったです。。

     初めおの長文䜜品なので、良かったら感想を教えおください


     
     
     
    忠犬䞭堅瀟䌚人です。 今たでは䜜品を楜しむだけでしたが、自分も䜜る偎に回っおみたいず思うようになり、筆を取る決意をしたした。 歳を重ねるず、自分の生きた蚌を圢に残したくなるんですかね笑 小説・挫画・アニメ・映画が倧奜きです。 気たぐれにお圹立ち情報ずかも発信したす

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