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愛を手放したのは、私|第六話 正しさを選んだだけ

    その日も、同じように会った。
    何も変わらないはずの時間。
    でももう、同じものではなかった。

    分かってしまったから。

    知らなかったころには戻れない。
    彼の隣にいても、前みたいに何も考えずにいられる時間はもうなかった。

    言葉も少なくなった。

    それでも不思議と、居心地は悪くない。
    たぶん、終わることをどこかで分かっていたからだと思う。

    「どうしたの?」

    そう聞かれて私は少しだけ笑った。
    大丈夫、という代わりに何も言わなかった。
    もう、誤魔化す必要もなかった。

    この時間が終われば全部終わる。
    そう決めていた。

    帰り際、彼はいつも通りだった。
    何も変わらない顔で、何も変わらないまま。
    だから私は何も言わなかった。

    ただひとつだけ、心の中で区切りをつけた。
    それだけで十分だった。


    あの恋を終わらせたのは、私。


    正しい判断だったと、今でも信じている。
    それでも、あの部屋の温度だけはどうしても忘れられなかった。

    忘れなくてもいいと、思ってしまった。

    ーーーそれがきっと、私の弱さだ。


    #創作大賞2026
    #恋愛小説部門

     
     
    心の奥に浮かんでは消えていく日々の様々な感情を、言葉と抽象的なイラストで残しています。 強くなれない日や、うまく言葉にできない気持ちがあるときに、そっと立ち寄ってもらえたら嬉しいです。

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