
愛を手放したのは、私|第六話 正しさを選んだだけ
その日も、同じように会った。
何も変わらないはずの時間。
でももう、同じものではなかった。
分かってしまったから。
知らなかったころには戻れない。
彼の隣にいても、前みたいに何も考えずにいられる時間はもうなかった。
言葉も少なくなった。
それでも不思議と、居心地は悪くない。
たぶん、終わることをどこかで分かっていたからだと思う。
「どうしたの?」
そう聞かれて私は少しだけ笑った。
大丈夫、という代わりに何も言わなかった。
もう、誤魔化す必要もなかった。
この時間が終われば全部終わる。
そう決めていた。
帰り際、彼はいつも通りだった。
何も変わらない顔で、何も変わらないまま。
だから私は何も言わなかった。
ただひとつだけ、心の中で区切りをつけた。
それだけで十分だった。
あの恋を終わらせたのは、私。
正しい判断だったと、今でも信じている。
それでも、あの部屋の温度だけはどうしても忘れられなかった。
忘れなくてもいいと、思ってしまった。
ーーーそれがきっと、私の弱さだ。