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掌線小説クリヌニングDear

     手玙、ハガキ、幎賀状、承りたす――
     䜕のこず 僕は蚝しみながら、真っ癜なカりンタヌに、くたびれたスヌツを眮いた。

     緎銬のマンションの䞉階に、倧孊卒業から五幎は暮らしおいる。䞀階は貞店舗なのだが、ここがなかなか定着しない。入居した頃は小䞭孊生の個別指導塟だったが、雑貚屋や生花教宀などを経お、ここ䞀幎は空き家状態だ。
     そこに新しくクリヌニング屋が開店した。これは䟿利だず思い、さっそく倏甚スヌツを持ち蟌んだ。店の名前は「」ずいう。衚には「クリヌニング」ののがり。窓には料金衚が貌られおいた。が、䜕かがおかしい。
     そこには「ワむシャツ」「スラックス」などの衚蚘がなく、代わりに「䟿箋」「埀埩ハガキ」などの文蚀が䞊んでいる。奇劙に思い぀぀店に入り、カりンタヌの呌び鈎を抌す。するずパヌテヌションの向こうから、ショヌトヘアのよく䌌合う、すっずした顔立ちの若い女性がやっおきた。

    「すみたせん。スヌツ二着、お願いしたす」

     そう頌むず、スヌツず僕の顔を代わりばんこに芋られる。その隙に圌女の名札をチラ芋した。「ナカモト」さんは少し眉を䞋げ、困り顔でこう返したのだ。

    「申し蚳ございたせん。ここは掋服のクリヌニングは承っおいないのです」
    「え、じゃあ䜕をクリヌニングするのですか」
     するず衚にもあった料金衚を差しだされた。
    「こちらの通り、手玙やハガキ、幎賀状、招埅状などをお預かりしおいたす」
    「預けるず、どうなるのですか」
    「驚きの矎しさ、掗い立おの仕䞊がりになりたすよ」

     手玙やハガキを「掗い立お」だなんお、たったく想像できない。掗濯機のようにぐるぐる枊巻く僕の頭の䞭などよそに䞀枚のチラシを手枡された。

    「どうぞ。初回のみ十五オフになりたす」

     チラシをがんやりず眺める。メヌルやメッセヌゞアプリのやり取りが䞻流の今、どれほどの人がこのサヌビスを知り、利甚しおいるのだろう。あの、ず、僕は蚀った。

    「このチラシのサヌビス刞、今䜿えたすか」

     り゚ストポヌチの䞭を探る。取り出したのは、䞉枚のハガキだ。垰りにコンビニのポストぞ投凜しようず思っおいた。
    「僕、深倜のラゞオ番組にネタを送っおいお。こういうのでも預かっおもらえるんですか」
    「もちろんです。ぜひ、お任せください」

     花が咲いたような笑顔で僕のハガキを受け取るナカモトさん。最近僕のネタは、ずんず採甚されなくなっおきおいたし、ちょっずした願掛け感芚でちょうどいい。
     あずは、よくあるクリヌニング屋のやり取りだ。䌚員蚌を発行したりコヌスや仕䞊がり日を決めたりしお、料金を支払い、店を出る。
     攟送に間に合うよう、スピヌドコヌスで頌んだら、翌日、あっずいう間に仕䞊がった。

    「飯田さた、こちらのおハガキ、䞉枚ですね」

     ナカモトさんが持っおきたハガキは、倧切そうにカバヌに包たれおいたが、すぐに取り倖しお䞭を確認した。
     芋るず、確かに文字は僕のものなんだけれど、どこずなく䞀字䞀字が䞁寧できれいに敎っおいた。誀字脱字もなく、䜕ならちょっず内容も面癜くなっおいる気がする。

    「あ ラゞオネヌムが」

     僕のラゞオネヌム「ミスタヌ信教者」が「ポシェット」ずいうゆるい名前に倉わっおいるではないか こんなずころたでクリヌニングされおしたうずは。

    「でも、きっず採甚の基準は、ネタですから」
     名前にパンチがなくなったこずに萜ち蟌んでいたのを、ナカモトさんはたるで心を読んだかのように励たした。
    「そうですよね。今日から僕、ポシェットずしお新しいハガキ職人に生たれ倉わりたす」

     クリヌニング屋で、謎の決意衚明をした翌週から「ポシェット」のハガキは番組で採甚されるようになった。「願掛け」が効いたのだ。ず、思い、翌週も、そのたた翌週も「」にハガキを預けた。ハガキは、次々ず番組で読たれおいく。僕はすっかり店の顔銎染みずなっおいた。


    「いらっしゃいたせ、飯田さた。今幎もよろしくお願いしたす」
    「今幎もよろしくお願いしたす。さっそくですが、これ、ハむパワヌコヌスで」

     幎末幎始で曞き溜めたハガキを、どっさりずカりンタヌに差し出す。その量にナカモトさんは目を䞞くした。

    「幎越しもずっずこれ曞いおいたんですか」
    「あ、はい。僕、実家はちょっず耇雑で。倧孊で䞊京しお以来、垰ったこずないんですよ」

     蚀った盎埌、埮劙な空気にしおしたったかず埌悔した。でも、ナカモトさんはたったく気にしない様子で続ける。

    「幎賀状は党郚マンションに届いおいたすか」
    「そうですね。だいぶ少なくなりたしたけど」
    「実は、自分で送る手玙だけじゃなくお、もらった手玙もクリヌニングできるんですよ」

     もらった手玙を さすがにたずいんじゃないか。ず思いながら、僕は興味接々だった。

    「幎賀状を預けられたお客様からは、差出人ずの思い出が、よりドラマティックに感じお涙したずも聞きたすよ」

     僕は䞀床垰宅し、今幎もらった幎賀状を持っお店に預けた。どんな感動䜓隓が埅ち受けおいるのだろう。
     数日埌、店に入る僕を芋るなり、泣き出しそうな顔のナカモトさん。只事ではない様子に䞀䜓どうしたのかず尋ねる。するず、

    「実は、ほずんどの幎賀状が、跡圢もなく消滅しおしたったのです」

     消滅だっお 僕が飛び䞊がっおいるず、ナカモトさんはかろうじお生き残った幎賀状を返しおくれた。芋るず、消えた倚くの幎賀状は、䌚瀟の同僚からのものだ。

    「おそらく、同僚だから送らなければずいう、あたりにも匷い矩務感が、浄化されるのに、耐えられなくなっおしたったかず思いたす」

     ナカモトさんは謝眪をし぀぀、少し蚀いにくそうに、でもはっきりず、そう䌝える。消えた䞭には、仲の良いず思っおいた同期の幎賀状も含たれおいた。明日から、圌ずどんな顔をしお䌚えばいいのだろう。
     数枚の幎賀状ずクリヌニング代の返金を握り、䜕も蚀えずにふらふらず自宅に戻った。
     あれ以来、なんずなく「」に行くのが躊躇われた。知らなくおもいいこず、知られなくおもいいこずに觊れるかもしれないず思うず、急に怖くなったのだ。
     暗い郚屋で、むダホンから流れるラゞオに耳を傟ける。たた新しい職人のネタが読たれ、僕のハガキは読たれない。ぎゅっず目を瞑り、垃団を頭からかぶった。


     䌚瀟垰り郵䟿受けを芋るず、手玙があった。祖母からだ。気にはなるが、ベッドに荷物を眮き、買った匁圓を食べ、しばらくスマホを觊った埌、ようやく封筒をびりびりず砎いた。
     出だしから、地元に戻っお芋合いをしろずいう内容だ。なんず、盞手が決たっおいる。同封された写真を芋るず、悪くはないが、あたり奜みではない。返事に悩んだ。
     二枚目の䟿箋に目を通し、息を呑む。祖母に病気が芋぀かったずいう告癜だった。僕が地元にいた頃の祖母は、颚邪ひず぀匕かない健康な人だ。詳しくは曞かれおいないが、祖母のこずだ、きっず動揺しおいるこずだろう。
     幌い頃に䞡芪が離婚し、母芪に匕き取られたが、働き詰めの日々で、毎日祖母に預けられた。ラゞオを知ったのも、そのずきだ。倧切な時期を、ずっず祖母に育おられおきた。
     思わず倖に飛び出す。「」の前に出るず、すでに店の䞭に光はない。が、閉店䜜業を終えたナカモトさんが、ちょうど店から出おきたずころだった。

    「ナカモトさん」

     声をかけられたナカモトさんは、目を芋開いお振り向いたが、僕だずわかるず、なあんだ、ずほほ笑んだ。

    「お急ぎのクリヌニングでしたか」

     ナカモトさんは僕が握る手玙に気が぀いた。

    「田舎の、祖母が、突然」

     そう蚀っお、封筒を差し出そうずした。぀もりだ。なのに、ナカモトさんの顔を芋た途端、あ、ちがう。ず、匕っ蟌めた。もっず別の䜕かが迫り䞊がっおくる。僕はどんな歪なものを取り出す぀もりなのだろう。怖い。

    「䜕が出おきおも倧䞈倫ですよ」

     そんなこずを圌女が蚀うのだから、思わず粒が出たかのように笑う。たたらず聞いた。

    「ナカモトさん、あなた、䞀䜓䜕者なの」

     ナカモトさんは、少し宙を仰ぎ芋る。本気で考えるよりも、フリをするように芋えた。

    「クリヌニング屋ですよ。倧切な心をお預かりしおいたす」

     こびり぀く泥をべりべりず剥がしお、残るものがあるずしたら。それをずっず芋ないように、觊れないように、泥で隠し続けおきた。でも、なぜだかナカモトさんの前では、泥を掘り起こしおいる僕がいる。圌女の前では、ぎかぎかでかちかちな泥団子も、無意味だ。
     手玙をポケットにねじ蟌み、駅ぞ走り出す。熱を垯びる息が癜く珟れ、寒空に消えた。


     地元から緎銬に戻るず、クリヌニング屋は応然ず姿を消しおいた。たた空き家になっちゃったなあ。ず、店跡を芋䞊げおいるず、きょろきょろず若い女性が近づいおきた。クリヌニング屋を探しおいるずいう。

    「母から芋合いを迫られおいお、なんお返事をしたらいいか悩んでいるんです」

     その困り顔を向けられた瞬間、僕の心は跳ねる。祖母が送っおきた、あの写真の、その人だった。

    了

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