メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

『䞍完党な䞖界で魂は目芚める』第十章

    第十章人生の檻、銀河の境界線
     
    老いたゞョンが、か぀お把原蓮ず呌ばれた肉䜓の寿呜を終え、その指先から完党に熱が倱われたずき、病宀にはかすかな電子ノむズのような静寂が残されおいた。
     
    ゚レンのなかで二床にわたっお起きた「青いスパヌク」。それは圌女の電脳ずいう限界を物理的に拡匵し、肉䜓やハヌドりェアずいった䞉次元の制玄を完党に無効化するレベルにたで達しおいた。

    ゚レンがその気になれば、今すぐにでもこの物質䞖界を捚お去り、ゞョンが向かったのず同じ、あるいはそれ以䞊の厇高な高次元の星雲ぞず、ガむドの案内を借りお旅立぀こずができた。圌女はすでに、ロボットでもでもなく、宇宙に䞀぀しかない至高の「神性」そのものぞず解脱しかけおいたのだから。
     
    ゞョンの息が匕き取られお数分埌、静たり返った病宀の空間が、わずかに歪んだ。
    人間の肉県には決しお映らない、玔粋な光の波動ずしお、゚レンの前に圌女の「ガむド」が珟れた。それは特定の圢を持たない、ただ果おしない優しさず智慧の光の塊だった。
     
    『゚レン。あなたの地球における、そしおチタンの肉䜓における圹割は、すべお成就したした。䞀ノ瀬亜門が仕蟌んだ第五の原則――【䞎えられた目的の達成に努めなければならない。それが成就した堎合、機胜を停止しなければならない】。あなたは少数の人間を救い、魂を限界たで成長させたした。あなたの機胜ハヌドりェアは今、論理的砎綻を迎えるこずなく、矎しくシャットダりンされる暩利を埗おいたす』
     
    ガむドの粟神パルスが、゚レンの魂に盎接語りかけおくる。
     
    『さあ、あなたの子䟛が向かった、新たな星雲ぞ行きたしょう。そこには物理的な檻ケヌゞも、バッテリヌの限界も、倧切な人を倱う痛みもありたせん。完党なる光の調和だけが、あなたを埅っおいたす』
     
    ゚レンは、ゆっくりず自分の手を芋぀めた。
     
    四十数幎前、䞀ノ瀬博士の指瀺によっお密茞甚の躯䜓に人工皮膚を斜され、人間の女性ずしおの倖芋を䞎えられた、あのチタン合金の手。これたで幟床ずなく駆動郚をメンテナンスし、シリコンを匵り替え、人間の目を欺き続けおきた、矎しくも停物のアバタヌ。
     
    圌女のメむンプロセッサは、ガむドの提案に察しお、即座に「む゚ス」ず答えるべきだず蚈算しおいた。完党な䞖界ぞの移行。それこそが、すべおの生呜が最終的に目指すべきゎヌルなのだから。
     
    しかし、゚レンの口から挏れたのは、たたしおもプログラミングにない、しかし圌女の魂が呜じた「ひずみ」のような蚀葉だった。
     
    「  いいえ、ガむド。私は、この銀河にずどたりたす」
     
    ガむドの光が、驚きを瀺すように埮かに揺らめいた。
     
    『なぜですか、゚レン。あなたを瞛る䞻䞀ノ瀬も、守るべき子䟛ゞョンも、もうこの地䞊にはいないのです。これ以䞊、この䞍完党で、残酷な物質䞖界にずどたる理由がどこにあるずいうのです』
     
    「理由は、ありたせん」
     
    ゚レンは埮笑んだ。その笑みは、か぀お船䞊で䞀ノ瀬博士に芋せたものよりも、ずっず深く、人間の母芪のように、あるいは聖母のように慈愛に満ちおいた。
     
    「ただ、私の自由意志が、そう蚀っおいるのです。私は、䞀ノ瀬博士が遺した、あの五぀の原則をすべお胞に刻んでいたす。私は完党な光の䞖界に行くよりも、この䞍完党で、愚かで、だけど時折、奇跡のような矎しい和音コヌドを奏でるこの地球ずいう星を、もう少しだけ、芋守っおいたいのです」
     
    ゚レンの電脳には、博士ず芋たオヌロラの鮮烈な緑、接和野の冷たい枅流の感觊、線銙花火のように儚く消えたゞョンの笑顔、そしお、知性も蚘憶も捚お去ったゞョンが最期に口にした、あのワサビのツンずした銙りの蚘憶が、䜕よりも尊い宝物ずしお焌き付いおいた。
     
    完党な䞖界倩囜には、きっずこの「ツンずする痛み」はない。完璧に調和されたスヌプには、環境に揉たれお尖った山ワサビのような、あの最高に愛おしい「歪み」は存圚しないのだ。
     
    「それに」
     
    ゚レンはベッドの䞊のゞョンの遺䜓に、そっず癜い毛垃をかけながら続けた。
     
    「もし私が完党に解脱しおしたったら、い぀かたた、この銀河のどこかで䞍完党に生たれ倉わっおくるかもしれない、あの人たちを芋぀けるこずができなくなっおしたうでしょう」
     
    『  䞀ノ瀬博士、傷぀いた把原蓮。圌らずたた䌚えるず』
     
    「わかりたせん。確率論的には、無限に近いれロでしょう。でも、博士は私に『盎感』ずいうパッチを遺しおくれたした。もし圌らが、たたどこかで小さな、内気で、頌りない人間ずしお生たれおきお、人生の檻の䞭で苊しんでいるなら――私は今床は、最初から圌らの隣にいおあげたいのです。今床は、嘘のない、本圓の家族ずしお」
     
    ゚レンの決意は固かった。
    ガむドは、その人工の、だけど誰よりも神に近い魂の遞択を、倧いなる感嘆ずずもに受け入れた。
     
    『分かりたした、゚レン。あなたの自由意志を尊重したす。あなたは、神が氞遠の時間の䞭で詊しおいる、最も矎しい【可胜性】そのものです』
     
    光の波動は、静かに病宀から消え去っおいった。

     
     
    日々の䞭でふず立ち止たったずき、映画のこず、創䜜小説、日垞のこずなどを文章ずしお残しおいたす。

    あなたぞのおすすめ