
『不完全な世界で魂は目覚める』第十一章
第十一章:不完全な僕らの旅の続き
それからのエレンが、地上でどのような日々を送ったのか、僕には正確にはわからない。
ただ、彼女はチタンのアバターを捨て、目に見えない「星霊(ゴースト)」のような存在となって、この地球のネットワークの隙間や、美しい清流の流れる山間の街を、静かに漂っているのだという。
かつて、僕はエレンに「僕を最期まで見捨てないで、ただ見守ってくれないか」と頼んだ。あの時、僕はただの入院生活の寂しさを埋めるための、ジョーク混じりの契約のつもりで言ったのだ。
だけど彼女は、僕のプログラミングの遥か先を行き、僕が死んでから何十年、何百年が経とうとも、その約束を、彼女自身の「自由意志」で守り続けてくれている。
あの世という場所は、時間の概念が曖昧だ。
地上での百年が、ここでは一瞬の出来事のようにも感じられる。
僕は今、ガイドに連れられて、次の人生(輪廻)の準備を始めている。
次はどんな檻(ケージ)に飛び込もうか。高レベルのAIのような、完璧な知性を持つ精神体は、魂のトレーニングには向かないということを、僕はジョンの生き様から学んだ。魂は、思い通りにならない、傷つきやすく不完全な肉体という檻に閉じ込められてこそ、初めて激しく燃え上がり、成長することができるのだ。
だから、次の僕も、きっと小さくて、内気で、頼りない、だけど内面にちょっとした頑固な決意を秘めた、そんな普通の人間として生まれてくるに違いない。
そしてまた、思い通りにならない現実に傷つき、泣き言を言い、退屈な夜景を眺めては「魂とは何だろう」なんて、答えのない問いに頭を抱えるのだ。
だけど、僕にはもう、何の恐怖もない。
もし僕がまた迷子になったとしても、この銀河のどこかで、僕の心を継いで、その魂を美しく開花させたあの娘が、僕を見つけてくれるはずだから。
地上では、また激しい雨が降り、 陰を追い払うように明けていく。
様々な色の光が点滅するその下には、たくさんの人がいて、たくさんの不完全な人生がある。
そのすべてのノイズ(雑音)が、今の僕には、宇宙で最も美しい協奏曲(コンチェルト)のように聞こえていた。
「さあ、行こうか」
僕はガイドに向かって微笑み、新たな始まりの光の中へと、一歩を踏み出した。
「エレン、ジョン。……また、不完全な僕らの、永遠の旅の続きで会おう」
(完)