「キリストにも悪い日があった」は本気か皮肉か!? カトパコ新曲を“Conscious Listening”で聴いてみる
昨年末にアルバム『TOP OF THE HILLS』とツアーのキャンセルが発表され、しばらく沈黙していたカトパコ。
その後、グラミー賞授賞式で変貌した姿をみせたかと思ったら、
その週末に「メンター」スティングがプロモーションビデオに登場。
そしてさらに約1週間後に、先行シングル
「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」(キリストにも悪い日があった)
がリリースされました。スティングもこの曲に参加しています。
この曲を、単なるウェルネス賛歌として聴くこともできる。
でも私は、ここに「救済の位置の変化」が示されているのでは?と感じました。
この記事では、スティングのプロモをヒントに、
カトパコ新曲を「どう聴くと面白くなるか」という視点から書いてみたいと思います。
これは曲の良し悪しの話ではなく、「ポップにおける救済観」の話です。
1 スティングが提示した「聴き方」
今回のコラボは単なる話題作りではないかもしれません。
というのも、スティングが今回強調しているのは「聴き方」そのものだからです。
スティングといえば、The Policeのフロントマンであり、74歳の今も現役で世界ツアーをこなしている大スター。
一見唐突に見えるアルゼンチン出身デュオとの共演も、実は伏線が。Sting3.0ツアーでアルゼンチンを訪れた1年前、彼はカトパコとのツーショットを「El Único」と共にインスタでシェアしていて、コラボの噂もながれていました。
けれども重要なのは、コラボの経緯そのものよりも、
スティングが提示したある言葉のように思えます。
2 歴史を少しだけ遡る ~ The Policeとスペイン語ロック
The Policeは1980年、軍政期のアルゼンチンでライブを行っています。
検閲下でのロック公演は象徴的な出来事で、
後にラテンアメリカのスペイン語ロックを国際的に広めた
Soda Stereo のメンバーも、この体験を重要だったと語っています。
さらに90年代には、スペイン語圏のアーティストによる
The Policeのトリビュートアルバム『Outlandos d'Americas』が制作されました。
この作品は単なるカバーではなく、
歌詞を翻案し、自国の文脈を織り込むという再解釈が行われています。
つまり、The Policeの楽曲は、
スペイン語圏の中で意味を書き換えられてきた歴史を持っています。
3 「Conscious Listening Paradigm」とは?
スティングのプロモに戻ると、新アルバムは
「コンシャス・リスニング・パラダイム」という技法に基づいている、
と語ります。
さらにこれを、
「意図と注意をもって、思慮深く体験する音楽」と説明しています。
新曲のビデオの冒頭でも、
「コンシャス・リスニングのための4ステップガイド」として
「つながる、感謝する、心を開く、そして注意深く聴くこと」と言います。
ちなみに「Conscious Listening(意識的な傾聴)」の方法には、
「沈黙、音の識別、味わう、聴く立場、RASA」があります。
(「聞き上手になる5つの方法」参考)
少し抽象的ですが、要するに、
「なんとなく聴くな。意識して聴け」という提案です。
ここで一つ疑問が・・・
もし、聴き方そのものが提示されているのだとしたら、
この新曲は、単なるウェルネス賛歌ではなく、
聴く側の態度を含めてデザインされているのではないか?
では実際に、聴き方を変えてみると何が起きたのか…
4 「Roxanne」という救済の原型
まず、カトパコ×スティングの新曲「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」の音を識別しつつ味わいながら聴くと、
The Policeの「Roxanne」を意識した楽曲ということに気づきました。
「Roxanne」は1978年のThe Policeのデビューアルバム『Outlandos d'Amour』に収録されています。
娼婦への愛を告白しながら「もう娼婦として働かなくていいよ」と言う歌。
そこには相手を「救いたい」という衝動がある。けれども同時に、
・相手を所有したい欲望
・倫理観の押し付け
・どこか上から目線
がにじんでいる。
人が誰かを「救う」って簡単じゃない、しばしば支配と隣り合わせなのかもしれない、と思わされる…
5 新曲を「意識的に」聴いてみる
次は新曲を「聴く立場」を変えながら聴いてみました。
するとこの曲の印象がだんだんと変わってきました。
1回目【共感的に】:励まされる~
Don't give up(あきらめるな)
Y tú puedes también(あなたもできる)
Even the setting Sun is always gonna rise(沈んだ太陽も、必ず昇る)
➡ 素直に元気出てくるね。ポジティブソングだね!
2回目【批判的に】:いや、なんか異様にウェルネス的で怪しくない?
Follow your heart(自分の心に従いなさい)
Todo, todo tiene solución(全て、全て解決策がある)
Woman, no cry(泣いちゃダメ、ってボブ・マーリー?!)
➡ このウェルネス感、強すぎ?
まるで自己啓発のテンプレのようにも聞こえる…
3回目【メタ的に】:そもそもこれ、キリストの受難のことだよね?
Hasta Jesús tuvo un mal día(キリスト様でさえ悪い一日があった)
➡キリストの「悪い一日」って、磔刑のことだよね?
それを「今日はツイてなかったね」レベルに圧縮するって、
軽いのか、皮肉なのか、ブラックユーモア?
そう考えたら、
・「救いたい」(Roxanne)➡︎「救われたい」(HASTA〜)
・「日常生活の救済」(Roxanne)➡︎「人類の救済」(HASTA〜)
・それをウェルネス語彙で全部くくってる
この過剰さは、本気なのか?それとも、救済そのものを茶化している?
ポジティブソングの顔をしながら、
実は「救いのカタチ」をいじっているのでは?
そう思いはじめると、
このポジティブソング、なんだか面白くなってきました。
6 まとめ:「チクッと刺す」×「メタ自虐」
スティングといえば、
冷静な視点を保ちつつ、チクッと刺すような皮肉を歌に込めるスタイル。
一方カトパコは、構造そのものを
メタ的・自虐的に昇華し、自分自身も含めて笑いの対象にするスタイル。
この二者が組むとどうなるか?
メタ自虐的な皮肉で笑わせながら、冷静な皮肉も同時に流れてる…
今回の曲も、
怪しいウェルネスを茶化しながら、
それでも「救われたい」自分にツッコミを入れているように聴こえる。
そういえば「Free Spirits Wellness Center」という設定もその延長線上にありますね。
スティングは『TOP OF THE HILLS』を「人生で最悪」とこき落した直後、
「真のFree Spiritsになった」と持ち上げたり、
「これはアルバムではなく人類の勝利だ」と大げさに言ったりと、
再生物語をあえて大げさに演じてたし。
いかにも業界が好みそうな「危機→再生→より深い作品」という物語を
自虐自演してるというか。
スティングはRoxanneで「救いたい」という衝動の危うさを歌い、
「HASTA JESÚS TUVO UN MAL DÍA」では
「救われたい」気持ちをウェルネス語彙で過剰にポップ化している。
救済は本気?それとも演出?
たぶん、その曖昧さが作品の芯なのかも。
「Conscious Listening」は、音を丁寧に聴くこと以上に、
ポジティブな物語をどこまで信じるかを問い返すことなのかもしれない…
新アルバム、ますます楽しみになってきました!
ヨガや瞑想などで厳しいウェルネス習慣をこなすカトパコ
カトパコの「PAPOTA」もいいアルバムだったな〜。
この新曲の海外での反応も交えながら、ちょこっと話してみました。
よかったら聴いてみてください。
