
「それはこくまろと同じ味なのか」
スーパーで買うカレーの材料をメモしたものを消して、上書きするように日記を書いている。私の心は沈んでも、生活は淀みなく続き、毎日薬を飲み、毎日食事を作り、毎日1日1食の生活を守り、夜は眠剤を少し飲んで眠る。転職活動をして、内定を取消されて、そんなことがあっても、毎日は続くなあと考えていた。
私はカレールウを使ったカレーが食べられない。炎症性腸疾患のため、脂質を1日20gに制限して生活しているからだ。でも夫が「明日はカレーにしよう」と言った。出されたものを何も言わずに食べる夫には珍しいことだ。
「私カレールウ食べられないから、カレー粉買ってくるね」と私が言うと「それはこくまろと同じ味なのか」と夫は言う。比べると、カレー粉で作るカレーはルウカレーよりはさらさらした味わいなので「ちょっとさっぱり系かな、でも美味しいよ」と返すことになる。
すると夫が「でも付き合ってた時は、俺の作ったこくまろを食べてた」と私を指さす。
そう言われてしまうと弱い。
「無理して食べてたんだよ」と私は言う。
あまり料理の得意でないのがわかる彼氏が、たまに作ってくれる料理がルウカレーだったら、「私食べられないんだよね」とは言えないもの。
「でもこくまろだ。こくまろの中辛だ」
そこまで言うならと折れた。半分肉じゃがにするのも考えたが、ルウを使うなら分量の問題がある。
それで、金曜の今日はカレーにして、土日は脂質の帳尻を合わせるために、かれいの煮付けと、消化にいい野菜でごはんにしようと決める。
カレーを煮ながら本を読んで、この日記を書いて、今煮崩れないようにじゃがいもを後入れした。今読んでいるのは古賀及子さんの『私は私に私が日記をつけていることを秘密にしている』だ。去年図書館で予約して、何十人かが読んだ後に、ようやく私のところに回ってきた。2週間かけて少しずつ読んだものの、まだ半分くらいしか読み終わっていない。返却日が明後日だ。まずい。と言いながら、多分この本は自分で買うだろうなと思う。読み終わっても終わらなくても、手元に置いておきたい本だから。
日記本を書いている時に日記本が届く、僥倖ではないか。参考になるなあと思いながら読む。作中で絶賛されていた『ジョゼと虎と魚たち』も読みたいなと思う。心の中で、(一穂ミチさんの『光のとこにいてね』もいいですよ)と思いながら。
転職活動の合間に、のんびり料理できる日があるだけで幸せだ。煮込み料理を2時間なんて、普段はなかなかしようと思えない。今日買った肉は、夫のリクエストで牛肉なのだけど、予算はいつもの感じでと言われたので、すじ肉になった。夫はコリコリ系が苦手なので、ホロホロになるまで煮込もうと思ったら、やっぱりそのくらいの時間が必要だ。ハローワークから帰ってきてすぐ2時間煮込んで、とろ火にかけた蓋が上下して、コトコトいう。そろそろ夫が帰ってくる頃だと思う。
もし余裕があったら、自分で作る10年ぶりのルウカレーの感想を書こうと思う。
この文章は、11/23(月祝)のZINEフェス札幌にて頒布予定の日記本に収録予定の一部です。