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Photo bykanon_1111

私には、まだ描けない一枚の絵がある

    私には、ずっと描きたい一枚の絵がある。

    でも、その一枚だけは、まだ描けない。


    私の実家は家の周りを田んぼに囲まれた田舎にある。
    小学生の頃、毎日17時になると町内放送の音楽が流れた。

    「そろそろ帰る時間だ。」

    友達と「また明日ね」と手を振って、赤い自転車にまたがる。

    家までの帰り道、
    毎日通る、何の変哲もないそんな帰り道が私は大好きだった。

    秋になると、田んぼは黄金色に染まる。
    その向こうには山があって、夕日がゆっくりと山の向こうへ沈んでいった。
    風が吹くたびに稲穂が揺れ、オレンジ色の光まで揺れているように見えた。
    私は何度も自転車を止めた。

    急いで帰る理由なんてなかった。
    ただ、その景色を見ていたかった。
    子供の私は、「きれいだなぁ」と思うだけだったけれど、あの時間は今でも心の中に残っている。



    私は昔から絵を描くのが好きだった。

    小学生の頃は賞をもらうこともあって、「絵が上手だね」と言って褒めてもらえることもあった。

    でも、不思議だった。
    描きたい絵ほど描けなかった。

    頭の中にはちゃんとあるのに、紙の上では違う景色になってしまう。
    そのもどかしさを、ずっと幼い頃から抱えていた。


    大人になってから色鉛筆教室へ通った。
    先生のおかげで少しずつ思うように描けるようになった。

    周りの人からは驚くほど褒めてもらえて、
    「絵を譲ってほしい」と言われたこともある。

    それでも私は、「まだまだ。」としか思えなかった。

    人物画だけはどうしても苦手で、先生に相談したことがある。
    すると先生は笑って、
    「もう一人で描けるはずだから、自分の思うままに描いてごらん。」

    その言葉を最後に、私は教室へ行かなくなった。




    あれから一年。
    色鉛筆はケースの中で眠っている。

    そんなある日、編み物の先輩が偶然私の絵を見て、こう言ってくれた。

    「このまま埋もれてしまうのはもったいない。
    本当にその才能を開花させてほしい。
    秘めてるなんてもったいない。」


    その言葉は驚くほど静かに、でも深く心に残った。

    また描いてみようかな。

    そんな気持ちが、少しずつ芽を出し始めている。



    もし、もう一度描くなら
    私が最初に描きたいのは、花でも、人物でもない。

    あの日の夕日だ。

    17時の音楽。
    友達と別れた帰り道。
    田んぼに映るオレンジ色。
    山の向こうへ沈んでいく太陽。

    そして、自転車を止めてただ見惚れていた小さな私。


    もしかしたら私が本当に描きたいのは、夕日じゃない。
    あの夕日を見上げていた、小さな私なのかもしれない。

     
     
    日常は、案外おもしろい。 編み物作家・講師として作品を作りながら、 日々の出来事をエッセイに綴っています。 🕞毎日10時更新目標。 編み物、好きなもの、愛犬や親子の時間。 何気ない毎日の中で見つけた「クスッ」と笑えること。 🧶 編み物も 📖 エッセイも 少しずつ育てています。

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