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【掌編小説】青の記憶はまだ乾かない【2451文字】

    ちびひめ

    放課後の風には、海の香りが混じっていた。
    校舎の裏手、グラウンドのすぐ先は崖で、その下には小さな湾がある。
    潮が満ちる度、波が岩に当たっては白い泡を散らしていた。

    俺はいつものように、帰り支度を早々に済ませ、その崖の上に置かれたしなびたベンチに腰を下ろした。
    誰も来ない、静かな場所。
    風の音が、思考の余白を作ってくれる。
    お気に入りの場所だった。

    だが、その日は先客がいた。

    白いブラウスの袖を押さえ、風と遊ぶように髪を揺らしている。
    海の色を薄めたような瞳がこちらを捉えた瞬間、少女だ、と確信した。

    「ここ、座ってもいい?」

    こえは穏やかで、波音に自然と溶け込むようだった。
    俺が小さく頷くと、少女はふわり、と隣に座った。
    手元には細身の万年筆。
    深く美しい青——
    海の底の色に似ていた。

    「今日、転校してきたの。……名前、聞きたい?」

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